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『結晶世界』感想:★★★★☆

2011.10.13 Thu
結晶世界 (創元SF文庫)

J・G・バラード 東京創元社 1969-01-10
売り上げランキング : 185883
by ヨメレバ


 頁を繰ってびっくり、文字小さい! 印刷の濃さも一定じゃない。初版が1969年とは言え、ちょっと驚いた。

「先生、気の小さい乗客がたが気づいていないことは、あなたの病院の外の世界だって、ひとまわり大きな癩病院にすぎんということなんですよ」(p.15)


 かつて関係を持っていた人妻スザンヌから手紙を受け取ったサンダーズは、一ヶ月の休暇を取りカメルーン共和国を訪れた。目的地は彼女とその夫がいると思われるモント・ロイアル。
 けれど赤道直下であるはずのカメルーンでは、同じ太陽の下にあるはずの街は光を失い陰鬱な雰囲気を漂わせ、ただ森の木々だけが生気に溢れていた。
 港町で足止めを喰らい続けるサンダーズは、同じホテルに宿泊する記者ルイーズと共に、川を利用してモント・ロイアルを目指す。だがその途中でサンダーズは、怪しい生気に充ち満ちた森へと足を踏み入れることとなる。そこで彼を待っていたのは、結晶化しつつある森であった。その勢力は広がり続けており、しかもその現象に遭遇しているのはカメルーンだけではなかった。

 尾を引いて輝くエコー彗星。時間を超越して生きるウイルス。サンダーズの専門である癩病も時間を反映させる存在だ。煌めく結晶化した生物。春分の日。一日が昼と夜に二分される日。
 黒の僧衣を纏う神父バルザス。医師であるサンダーズは白。白いスーツ姿のベントレス。黒い革の胴着のソーレンセン。夜を愛するスザンヌ、白いワンピース姿のルイーズ。
 主人公サンダーズは、進行する結晶化現象を食い止めるなどの英雄的行為とはほど遠い人物である。彼は輝く森と生物と遭遇し、己の内なる欲望と対面するだけだ。彼はひたすら自分のためだけに生きる。
 森の中で繰り広げられる、一人の女を巡るベントレスとソーレンセンの争い。サンダーズにとってのスザンヌとルイーズ、それぞれの重み。
 陳腐な恋愛模様など知らぬ結晶化現象は、彼らとは違う次元でただただ進行していく。人間同士の対立も、その存在の中では強い光に撹乱され、ただ潮解するのみ。
 歯車を踏み外した世界は止まること無く転がり続けていく。けれども、その中にはまだ結晶のプリズムに魅入られていない、今まで通りの人間もまた存在しているのである。


 結晶化した生物が放つ幾重もの光。変わりゆく世界で、サンダーズは内なる自分の願望の声を聞き、健全なるルイーズは変わらずに以前と同じ日常に立ち続ける。
 著者バラードが執拗なまでに描き出した美しい結晶世界に取り込まれるか、その世界を認識することも出来ずに今までと同じ世界に留まるか。それは読者の素質次第、なのだろう。



 以下、ネタバレ気味。





 バラードの描く結晶世界はとても素敵だ。だが、主人公サンダーズがとても素敵じゃない。
 ただの駄目男ならまだ可愛げがあるものの、彼はナチュラルに下衆野郎である。しかもそのことを彼自身認識しておらず、ついでに言うと、作者の認識も怪しいものだ。
 同僚の奥さんスザンヌと浮気するのは良い、そんなこともあるだろう。だが、浮気相手の夫、つまりサレ夫と再会して感じるのが安堵感だけって、いやいや、どうなのよ。しかも旦那とかなり仲良いじゃないですか。イイ神経してるなぁ。感心するわ。
 その上にスザンヌとの関係もなかなかに問題である。彼女は彼の愛の対象ではなく、もっと内なる欲望の対象なのである。彼が自覚してすらいなかったその願いが叶った時に、サンダーズは言う。

わたしが勤めていた癩病院と、それが意味するなにかをスザンヌが代表していることは明らかだ。いわば、春分の暗い側面を彼女は表している。(p.186)


 彼女はモノじゃないんですよ。あなたと同じ、等価の人間ですよ。代表している、と言うが、あんたが勝手に自分にとっての代表に仕立て上げただけなんじゃないの? どんだけ自分中心に世界回してるんだよ。
 ……なんてツッコミが脳裏を駆け巡ってしまい、186頁まで気が付かないフリをしていたのももはや限界。この瞬間、私の中でのサンダーズの渾名が「下衆野郎」に確定したのでありました。

 こんなナチュラルに下衆な彼と読者は延々とお付き合いをしなくてはならないのです。何でこんな微妙な設定なんだろう。もう少し己を鑑みるような性格だったなら、まだ可愛げもあるのに。
 もういっそ三人称ではなくサンダーズの一人称で書いてくれれば、主人公を客観視する機会も減ってこんなに苛つかなかったかもしれない。ずっとサンダーズだけに焦点を当てているわけだし、一人称でもそう問題ないだろうしさ。
 かつての恋人スザンヌに会いにわざわざ船旅の末にやって来たくせに、速攻でルイーズと関係を持ってるのもねぇ。そもそも二十代のルイーズが四十歳のサンダーズと簡単に関係を持つのも良く分からないし。サンダーズは実は、魅力的な男だったりするんだろうか。


 つらつら書いたように、主人公サンダーズに思うところがありすぎて、物語世界に没入出来なかったので星は1つ減点。





 バラードの描く結晶世界自体はとてもお気に入り。
 クラークの『ゾティーク幻妖怪異譚』に収められている一話に登場する石化病は死そのものだったが、バラードの結晶化はその狭間。
 他にも生物が変質していく話はあるんだろうな。探すか。

 情報もお待ちしております。


関連記事:
突き刺さるような美しさを:購入履歴・新本編8
『ゾティーク幻妖怪異譚』感想:★★★☆☆

Theme:読書感想 | Genre:本・雑誌 |
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 どーでもいいが、ボルヘスの『伝奇集』を無事に発見した。いやー、良かった良かった。
- | 春色 | URL | 2011.10.13(Thu) 02:37:09 | [EDIT] | top↑ |

書物の消失と出現・・ボルへス的?

バラードの終末世界を描いたシリーズ(?)は、どれも好きです。
一般に「結晶世界」が最も評価の高い作品のようですが、
「沈んだ世界」なども、自分は愉しく読んだ記憶があります。
また、短編「溺れた巨人」など、静けさにみちた美しいシュールな絵画を見るようでありました
(初めて読んだ当時の印象ですが・・)。
SFでない「コンクリート・アイランド」「殺す」など他にも、秀作多数・・バラードはよいですなぁ。

ボルヘス「伝奇集」発見されたとか。おめでとう!
ボルヘスの著作、どうぞ書棚の一等地(?)にて並べてください。
6gL8X1vM | nao | URL | 2011.10.13(Thu) 06:27:52 | [EDIT] | top↑ |

Re: 書物の消失と出現・・ボルへス的?

naoさん、コメントありがとうございます。

 『結晶世界』はやっぱり評価高いんですね。バラードの終末世界モノはまた読んでみたいと思います。
 『殺す』や「溺れた巨人」も面白そうです。

 ボルヘスの『伝奇集』はベッドの下に落したかと焦っていたので、極々普通に本棚の端に収まっていたのを見つけた時は凹みました。
 今度からはもっと分かりやすい一等地に置きたいと思います!
- | 春色 | URL | 2011.10.13(Thu) 21:13:23 | [EDIT] | top↑ |

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