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『時間はだれも待ってくれない 21世紀東欧SF・ファンタスチカ傑作集』感想:★★★☆☆

2011.10.07 Fri
時間はだれも待ってくれない

高野 史緒 東京創元社 2011-09-29
売り上げランキング : 59764
by ヨメレバ


 私の本棚の事情的には文庫で出して欲しかった1冊。「21世紀東欧SF・ファンタスチカ傑作集」がサブタイトルだが、SFよりも幻想小説に傾いている印象。

 収録作品は以下。

・オーストリア
「ハーベムス・パーパム(新教皇万歳)」 ヘルムート・W・モンマース 識名章喜・訳
・ルーマニア
「私と犬」 オナ・フランツ 住谷春也・訳
「女性成功者」 ロクサーナ・ブルンチェアヌ 住谷春也・訳
・ベラルーシ
「ブリャハ」 アンドレイ・フェダレンカ 越野剛・訳
・チェコ
「もうひとつの街」 ミハル・アイヴァス 阿部賢一・訳
・スロヴァキア
「三つの色」 シチェファン・フスリツァ 木村英明・訳
「カウントダウン」 シチェファン・フスリツァ 木村英明・訳
・ポーランド
「時間はだれも待ってくれない」 ミハウ・ストゥドニャレク 小椋彩・訳
・東ドイツ
「労働者階級の手にあるインターネット」 アンゲラ&カールハインツ・シュタインミュラー 西塔玲司・訳
・ハンガリー
「盛雲(シェンユン)、庭園に隠れる者」 ダルヴァシ・ラースロー 鵜戸聡・訳
・ラトヴィア
「アスコルディーネの愛─ダウガワ河幻想─」 ヤーニス・エインフェルズ 黒沢歩・訳
・セルビア
「列車」 ゾラン・ジヴコヴィッチ 山崎信一・訳


 解説は沼野充義。序文は編者の高野史緒。この序文はネットに公開されている。興味のある方はどうぞ。
ツァーリとカイザーの狭間で――文化圏としての東欧」(クリックで飛びます)

 全部で12作品。ハードカバーの割りに、少ないなぁ。各作品に対する感想は折りたたみ。






 まず気になったのが、編者しゃべりすぎ。
 アンソロジーには作品前に作者の略歴などが載っていることが多いが、今回は編者のコメントが記されている。その中には作者の略歴や代表作などの情報もあるが、本書に収録した作品が何故選ばれたのかや、その裏話や苦労話、作品の見所まで含まれている。
 ……うん、そこまで要らん、と思ってしまいましたよ。心が狭くてすいません。
 でもなぁ、「何故この作品が選ばれたのか」なんて理由は勝手に創造じゃなかった想像するのが楽しいのであって、読む前から答えを言われるのは面白くない。作品の見所をも編者に最初に提示されてしまうと、まっさらな状態で読めなくなるので嫌いだ。
 河出の今は絶版になっている怪談集シリーズのように、作品の前に示すのは著者略歴と代表作だけで十分だと思うんだけど、こんなの考えるのは私だけなのかな。
 情報は過剰よりも不足している方が好みだ。知りたくなったら勝手に調べるしさ、その余白をください。



 なんて前フリは置いておいて、最初の作品は「ハーベムス・パーパム(新教皇万歳)」。
 人類が宇宙に進出し、他の知性体やロボットなどと共存している未来に於ける教皇選挙の話。キリスト教は世界宗教ではなく、もはや宇宙宗教へと発展しており、そうなると当然ながら教皇候補は人間以外にも拡大している。SFらしい1作。

 「私と犬」は発展していく技術と、老いていく主人公の対比が切ない作品……のはずなのだが、私が何よりも感じたのは、この作品に描かれているように、年々生活が向上していくだなんて私にはこれっぽっちも信じられないという点であった。
 作品内では主人公は老いて衰えていく。社会は歳をとり成熟していく。
 けれども現実に目を向ければ、私も社会も歳をとり、共にただ錆びていく未来しか想像出来はしない。
 だから私が老いた日には、この主人公とは違い、私は錆びた体で錆びた社会を動かすために四苦八苦する羽目になるのだろう。そこまで生きていたいともあまり思わないのだが。
 老いた時に周囲の環境が健康で活力に満ちているのは幸福なことだ。だからこの作品内の世界が羨ましくて、切なくなってしまった。

 「女性成功者」は翻訳者の翻訳っぷりが陳腐で、オチも陳腐で、まぁお似合いである。翻訳者は狙ってやっているのだろうけれどね。

 ベラルーシの「ブリャハ」はチェルノブイリ後を扱った1作。
 日本の当該地域の未来の姿……とはどうも思えないな。これは私がまだ関係各位を信じているからなのか、単なる楽観主義者だからなのか。

 「もうひとつの街」は長編の内の二章だけを載せるという掟破り。しかも「前章までのあらすじ」が付いているあたり何ともかんとも。……と思ったが、これは奇妙に面白い作品。私たちが現実だと信じている世界の裏側に、もう一つの密やかなそして本物の世界が存在しているのではないか。その異世界にちょっとしたキッカケで入り込めるのではないか。入ったら帰れなくなるのではないか。
 そんな疑問は人間ならば普遍的に抱くものなのかもしれない。
 全訳出ないかなー。

 「三つの色」、「カウントダウン」は同じ作家の作品。前者は生を、後者は死を抱く主人公の心情が見所。「カウントダウン」では中国が悪役で笑ってしまった。

 表題作「時間はだれも待ってくれない」、「労働者階級の手にあるインターネット」は共に過去の亡霊と出会うお話。
 「時間はだれも待ってくれない」が過ぎ去った過去への帰還を求める物語ならば、「労働者階級の手にあるインターネット」は過去が現在に手を伸ばしてくる物語。
 過去が宿るのは物ではなくて、心なのだ。思い出の品はそれを思い出す媒体でしかない。時間はだれも待ってはくれない。それはただ流れ去るもの。もしもそれが反旗を翻すならば、その反抗の主体者は時間でも過去でもなく、その時に囚われた人間なのだろう。私たちは過去の上に現在を建てる。

 「盛雲、庭園に隠れる者」はハンガリー作家による中国風幻想小説。もうちょっと幻想に飛躍するか、現実に戻ってくるかして欲しかったな、とは私の好みの問題か。極端を愛する私なので、これはこれでバランスが良いのやもしれない。

 これまた幻想物、「アスコルディーネの愛─ダウガワ河幻想─」。醜悪で美しい物語が何とも素敵。概要を書いてしまうのすら惜しいので、もう何も言わない。アスコルディーネの名前に含みがあるのかとGoogleさんに訊ねてみたが、サッパリだ。
 p.258で怪我人にまず床屋を、それから医者を呼んでいるが、この当時の床屋は下級外科医をも兼ねていたので別におかしくないです、くらいは書いて置いた方が良いのだろうか。
 ただかなり幻想に傾いているので純粋たるSFファンには辛いかもしれない。長いし。

 最後の「列車」はこれまでの作品のどれとも系統が違う1作。寓話的で最後を締めるのに宜しいかと。



 以上が感想。
 幻想小説が好きな私の個人的お気に入りは、ミハル・アイヴァスの「もうひとつの街」とヤーニス・エインフェルズの「アスコルディーネの愛─ダウガワ河幻想─」でした。
 この2作家の作品が日本語で出版された時には是非読みたいです。
 が、『現代東欧幻想小説』のイヴォ・アンドリッチ「イェレーナ、陽炎の女」や、『東欧怪談集』のフランチシェク・ミランドラ「不思議通り」やステファン・グラビンスキ「シャモタ氏の恋人」、イジー・カラーセク・ゼ・ルヴォヴィツ「不吉なマドンナ」ほどの読後の強烈さはない。
 収録作品が少ないことと、私の中でのハードルが上がっていたのが原因なのかもしれないけれど。そんな訳で星は3つ。 


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ジャンル別:幻想小説|作者別:アンソロジー
その他は右カラムのカテゴリから選択してください。





 どうやらロシア編も予定されているみたいですね。お付き合いするかどうかは詳細が出てから考えよう。

 本書の翻訳者の一人である木村英明が翻訳に携わった『ポケットのなかの東欧文学―ルネッサンスから現代まで』なんて本があることを知った。
 ただ5000円かぁ。高いな。しかもどこにももう在庫ないような。

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