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『殺人者の顔』感想:★★★★☆

2015.08.29 Sat

殺人者の顔 (創元推理文庫)
殺人者の顔 (創元推理文庫)ヘニング マンケル Henning Mankel

東京創元社 2001-01
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 日常。常なる日々。だがそんなのは、まやかしだ。変わりの無い日々は、突然に変わる。
 平凡な家族だと思っていたのに、娘は十五の時に突如自殺を図った。田舎にはどこにでもいる貧しい農夫の隣人は、突如惨たらしく殺された。


 スウェーデンの片田舎イースタ署に務める刑事、クルト・ヴァランダーの人生は狂ってしまった。平凡だけれどもそれなりに幸せな家庭を築けていると思っていたのに、十五歳になった娘リンダは自殺を図った。その理由は、今でも分からないままだ。
 それからリンダとの関係はこじれてしまった。彼女は家を出て行方もよく分からない。たまにヴァランダーに寄越す電話だけが彼と娘とを繋いでいる。
 妻のモナは家を出た。ヴァランダーといると自分の人生が駄目になると言う。ヴァランダーには分からない。
 ヴァランダーに分かるのは、自分は孤独だということだけだ。そんな彼に追い打ちを掛けるように、老夫婦の惨殺事件が起こる。
 第一発見者である隣人が言うには、彼らはこの田舎ではありきたりな貧しい農民夫婦だったと言う。だが彼らの殺され方は「ありきたり」とは言えない。妙だ。
 虫の息の妻が残した最後の言葉は「外国の」。外国人排斥運動が吹き荒れるスウェーデンでは、その言葉は致命的になり得た。この惨たらしい事件の犯人が外国人だなどと知られれば、その報復に国内で保護されている亡命者が襲撃されるのは必須であった。

 ヴァランダーたちはこの情報を秘匿することを決めるが、しかし情報は漏れてしまった。署内に裏切り者がいるのだ。
 そして彼の危惧した通り、外国人を襲撃するとの予告がもたらされる。何の罪もない亡命者たちを守るため、何の罪もない老人を殺した犯人を捕まえるため、ヴァランダーは精神的にも肉体的にもボロボロになりながらも事件を追う。

ヴァランダーは理解しようと努めた。しかし、結局最後には、さんざん考えてきたことに戻るのだった。いま自分がいるのは新しい世界なのだ。そのことがいままではよくわからなかった。警官としての自分は、ほかの、もっと古い世界に生きている。どうしたらこの新しい世界についていけるのだろう。世の中の大きな変化、それもとんでもない速さで変わる世の中に、自分は不安を抱いている。その不安を、どうしたらいいのだ?(p.349)








 ソマリア人殺しは、新しい種類の殺人だった。
 レンナルプの老夫婦殺害事件は、古いタイプの事件だった。
 待て、本当にそうなのだろうか。ヴァランダーは残忍さと締め縄のことを思った。
 わからない。
(p.349)


 この作品の魅力は、ヴァランダーの人物描写にある。娘の自殺。妻の家出。父親には痴呆の気配が。仕事も苛酷だ。だが、彼の人生はただ悲惨なだけではなく、そこには妙なおかしみがある。
 新しく赴任してきた若い検事に執着しては酒の勢いで無体なことをしかけたり、久しぶりに会った妻との会話でショックを受けて飲酒運転をした挙げ句に同僚警官に見付かったりと、駄目な男なのである。
 もう若くも無く、妻が去ったことで食生活が崩壊して太ってしまったクタクタの中年男ヴァランダーは、マスコミからの無慈悲な仕打ちや捜査の進展のなさにもめげず、必死に必死に事件を追う。
 何のために? 誰のために? ――被害者のために。ヴァランダーの脳裏には、死体の姿がこびりついて離れない。

 そのスマートとは決して言えない姿を見ていると、どうしても感情移入してしまう。泥臭いその姿に、惹かれてしまう。
 ヴァランダーの同僚達の描写も多く、故にリードベリが病魔に冒されていると知った時はとんでもなくショックでもあった。
 それだけに犯人が明らかになった時は、安堵すると共に……なんだか拍子抜けしてしまった。

これが殺人者の顔、というものはないのだ。横顔とか、毛の生え際とか、歯並びとか、人は犯人の外見はこれだとわかったように思う。だが、本物と一致することはない(p.401)



シリーズ別:刑事ヴァランダー・シリーズ|出版社別:東京創元社
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