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『ケースファイルで知る 統合失調症という事実《電子増補版》[Kindle版]』感想:★★★★★

2014.05.16 Fri


ケースファイルで知る 統合失調症という事実《電子増補版》
ケースファイルで知る 統合失調症という事実《電子増補版》林公一 村松太郎

保健同人社 2013-01-31
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 紙で出た同タイトルの本を加筆し、電子書籍化した一冊。統合失調症という病気の最も明るい部分と、最も暗い部分が書き加えられたとのこと。


 統合失調症。怖ろしい病気と思われているこの病気は、罹患率が100人に1人と一般に思われているよりもずっと高い。つまり、統合失調症を患う人間は、この世に「ありふれている」。
 私にも貴方にも発症の可能性はあり、そしてこの高い罹患率から考えれば、周囲に既に発症している人がいることだろう。だが彼らの多くは、社会で暮らしている。事件を起こす者はそう多くはない。

 けれどもこの病気への偏見は根強く、病院を訪れること、そんな最も簡単なことすらもハードルが高い。しかし治療が始まったからと言って、安心は出来ない。
 多くの患者は劇的な症状をきっかけとして病院へと赴く。否、赴かされると言った方が正確か。最初の激烈な症状はほぼ薬で収まることが本書では示される。だがそれからが難関なのだ。
 一旦は症状が治まれば本人は病識を得、周囲の人間は安心する。すると疑問が生まれてくる。精神病の薬なんて危険なものを、いつまでも飲んでいて良いものだろうか?
 この疑問は不合理だと作者は説く。何度も何度も繰り返し。それは、それほどまでにも多くの患者が、その根拠の脆弱な不安から薬を止め、結果不幸な結末に至っているからなのだろう。







 薬には確かに副作用がある。だが正作用もある。それはリスクとベネフィットの問題だ。
 そもそも生き物は生きている以上は死ななければならない。死は日々のリスクの積み重ねの先にあるのだ。全きの健康などありはしない。選択は白か黒の二択ではあり得ず、常にグレーだ。
 そもそも黒と白は、綺麗に二分されるものでもない。それはただ濃度の問題なのだ。白の濃度が下がれば黒になり、黒の濃度が下がれば白になる。境界線はいつだって曖昧だ。

 そんな明瞭さに欠く世界で、様々な選択は成される。
 結果、とある患者は強制的に入院措置がとられ、無事に回復への道筋を辿り、結果、とある患者は薬は危ないと主張する家族によって病院から引きはがされ、病状を悪化させる。病状が変化しない患者もいる。
 後者の場合は、患者はもしかしたら患者ではなかったのかもしれない。単に一時的な不調であっただけで、放っておいても時間経過と共に治ったのかもしれない。もしもそうならば、彼は不必要な医療行為を受けたことになる。だが実のところは彼は本当に患者であり、薬を断った悪影響は今後現れるのかもしれない。
 だが、全ては闇の中だ。ここが精神病のややこしいところである。MRIや血液検査で異常が観測される身体病とは決定的に異なるところだ。開けてみないと、未来が到来しないことには、分からない。到来しても分からないかもしれない。
 選択をしないという選択もある。漫然と事態の成り行きを見守り、状況が好転することをただ祈るのだ。それで上手く行くこともあれば、取り返しのつかない破滅へと至ることもある。



 人間は万能ではない。そして医療の発展には、大きな枷が嵌められている。医学は他の科学とは異なり、比較実験に限界があるのだ。それは、対象が人間だからだ。

 ネズミなどが対象であれば、事態は簡単だ。ネズミのクローンを作ることに対しては、超えるべき倫理的ハードルは比較的低い。
 そうやって全く同じネズミを用意し、片方には治療薬を与え、もう片方は放置する。そして彼らの人生の長さと、その快適度合いを比較実験する。可能だ。
 だがこれが人間が対象となれば大変だ。まず全く同じ人間など用意は出来ない。これに関しては双子を用いれば可能ではるが、そうホイホイと必要なだけ集めることは不可能だろう。
 だが問題はこれだけではない。片方にだけ薬を投与し、もう片方に投与しないなどと扱いに差をつけることへの異論も出るだろう。
 しかしこの問題も、もはや治療法がない絶望的な患者だけを相手にすれば解決は可能かもしれない。だがそんな患者と遺伝的に同一の人間を用意するのは、ほぼ不可能だ。偶然双子の兄弟があったとしても、その片割れが同じように絶望的な患者となっているとは限らない。

 医学においては、比較実験を厳密に成り立たせるのは難しい。この問題をカバーするために、統計学という学問が用いられるが、それにもある程度の数の母集団が必要となる。
 つまり実験は大規模にならざるを得ず、そうなると必然的に実験費用はうなぎ登りとなる。それだけの金を投入してペイを得られるほどの患者数の多い病気のみでしか、実験は成り立たない。


 至るところに限界が存在している。だが諦めたところで、現実は変わらない。
 その中でどう選択するのか。ベストを得ることは難しい。だがベターを求めることは可能だ。
 本書を通じて作者が説くのは、そういうことだ。そのためには、まず知らなければならない。何が可能で、何が不可能なのか。一つしか存在しないはずの真実に、接近するのだ。

 100人に1人。いつか自らも患者となるかもしれず、そしていつか近くにいる誰かが患者になるやもしれない。
 そんな現実がある以上、統合失調症という病気の真実を知って欲しい、そしてその上で選択をして欲しいとの作者の主張が感じられる一冊。

ジャンル別:心理学|作者別:林公一
より詳しくは右カラムのカテゴリから選択してください。


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