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『東欧怪談集』感想:★★★★★

2011.06.19 Sun
東欧怪談集 (河出文庫)
東欧怪談集 (河出文庫)沼野 充義

河出書房新社 1995-01
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 読み終わったのはいつだよ、な感じの遅すぎる感想。
 河出の怪談集シリーズの例に漏れず、本書もまた怪談と言うよりも幻想小説の傾向が強い。
 ちなみに、「東欧」とはなんぞや? との問いに関しては、本書の編集をした沼野充義氏はあとがきで以下のように述べている。
僕にとってこの「東欧」とは、単なる地理的な概念でもなければ、政治的な色分けでもない。それはしいて言えば、文学的想像力のあり方に関わることなのだ。アジアに向き合ったときはヨーロッパ的な文化の強力な擁護者として立ち現れるものの、西欧に対してはどうしても「田舎くさい」非ヨーロッパ的な闖入者のように見えてしまい、西方的な洗練された形式と、東方的などろどろした混沌のあわいに、捉えどころのない姿を変幻自在に見せては、また深い裂け目の中に消えていく幻影のようなもの。(p.423)

 ヨーロッパを美化しすぎじゃないですか、と思わないでもないが、つまりは西欧とアジアの狭間ってところですかね。
 そんな訳で、ロシアからも1作品が収録されております。
 
 収録されているのは以下26作品。

・ポーランド
「『サラゴサ手稿』第五十三日 トラルバの騎士分団長の物語」 ヤン・ポトツキ 工藤幸雄・訳
「不思議通り」 フランチシェク・ミランドラ 長谷見一雄・訳
「シャモタ氏の恋人」 ステファン・グラビンスキ 沼野充義・訳
「笑うでぶ」 スワヴォーミル・ムロージェック 沼野充義・訳
「こぶ」 レシェク・コワコフスキ 沼野充義・訳 芝田文乃・訳
「蠅」 ヨネカワ・カズミ 坂倉千鶴・訳
・チェコ
「吸血鬼」 ヤン・ネルダ 石川達夫・訳
「ファウストの館」 アロイス・イラーセク 石川達夫・訳
「足あと」 カレル・チャペック 栗栖継・訳
「不吉なマドンナ」 イジー・カラーセク・ゼ・ルヴォヴィツ 石川達夫・訳
「生まれそこなった命」 エダ・クリセオヴァー 石川達夫・訳
・スロヴァキア
「出会い」 フランチシェク・シヴァントネル 長與進・訳
「静寂」 ヤーン・レンチョ 長與進・訳
「この世の終わり」 ヨゼフ・プシカーシ 木村英明・訳
・ハンガリー
「ドーディ」 カリンティ・フリジェシュ 岩崎悦子・訳
「蛙」 チャート・ゲーザ 岩崎悦子・訳
「骨と骨髄」 タマーシ・アーロン 岩崎悦子・訳
・ユダヤ
「ゴーレム伝説」 イツホク・レイブシュ・ペレツ 西成彦・訳
「バビロンの男」 イツホク・バシヴィス(アイザック・シンガー) 西成彦・訳
・セルビア
「象牙の女」 イヴォ・アンドリッチ 栗原成郎・訳
「『ハザール事典』 ルカレヴィチ、エフロシニア」 ミロラド・パヴィチ 工藤幸雄・訳
「見知らぬ人の鏡 『死者の百科事典』より」 ダニロ・キシェュ 栗原成郎・訳
・マケドニア
「吸血鬼」 ペトレ・M・アンドレエフスキ 中島由美・訳
・ルーマニア
「一万二千頭の牛」 ミルチャア・エリアーデ 直野敦・訳
「夢」 ジブ・I・ミハエスク 住谷春也・訳
・ロシア
「東スラヴ人の歌」 リュドミラ・ペトルシェフスカヤ 沼野恭子・訳

 目次では国別に書いてあるが、本文では「この作品からマケドニア」と言った記載は全くない。
 ポーランドの作品多いなーと思っていたら、気が付いたらチェコの後半にさしかかっていてビックリした記憶が。
 まぁ、作品の頭に載せられている著者略歴から気が付けって話ですが。

 ちなみに本書のウリは、パヴィチの「『ハザール事典』 ルカレヴィチ、エフロシニア」以外の全てを原語から直接訳したことなんだそうな。
 この本が出た1995年の時点では、東欧のようなマイナーな原語に於いては、一度英訳されたものから日本語に訳す重訳がまかり通っていたらしく、沼野充義氏は他の原語を介さずに直接日本語にすることに拘ったのだと「編者あとがき」で述べている。

 以下は、収録作品に対する私の感想。






 トップバッターの「『サラゴサ手稿』第五十三日 トラルバの騎士分団長の物語」がいきなり素敵でビックリした。
 オチとしてはそう珍しい部類ではないのだろうが、私は騎士分団長って響きだけでご飯3杯いけます。
 ちなみにこの『サラゴサ手稿』、第十四日までは国書刊行会から世界幻想文学大系第19巻として出版されている。
 全六十六日分は未刊。一度は発行予定に載ったなんて噂もあるし、翻訳自体は終わっているのに、何故か出ない。出ない。


 次の「不思議通り」、「シャモタ氏の恋人」の2作はどこまでも私好み。でもこの作家たちの作品で他に日本語に翻訳されているのを見つけられない。
 「不思議通り」での蛇口から垂れる水滴が不思議通りの住所を告げるシーンは、これから本番な梅雨シーズンに相応しい陰鬱さ。
「その通りはどこにあるんです?」
「知りたいか? え?」
「知りたいです」
「失うものはたくさんあるか? どのくらいある?」
「金は……、金は……、金はあまりありません……」つぶやいた。
「金ではない! 人生に失うものはたくさんあるか?」
「人生には……、何も……、ほとんど何も……」
「それなら結構! 行こう」
(p.36-37, 「不思議通り」より)

 果たして私には、失うものなんてどれだけあるだろうか。
 一緒に泣いてくれる人がいるだけで、主人公フランスチェクは十二分に失うものを持っているように思えるのだけれど。

 「シャモタ氏の恋人」は目次にはそれだけしか記載がないが、作品の冒頭ページの作品名には「シャモタ氏の恋人(発見された日記より)」と書かれている。
 発見された日記。もはやこれだけでオチのおおよそはつかめそうなものなのだが、いやいや、想像以上の強烈さでした。
 発見された日記より、ってことは、この後の主人公はつまり、そういうことでしょうね。


 「笑うでぶ」「こぶ」「蠅」については割愛。「こぶ」はなかなかに小洒落た作品だとは思うけれど、こういう露骨な皮肉は趣味に合わない。


 ヤン・ネルダの「吸血鬼」は土着の吸血鬼でもなければ、ドラキュラ伯爵に連なる血みどろ吸血鬼とも違う、意外にスマートなお話。
 東欧と銘打つ本に入っているから、期待しちゃったじゃない。
 その後の「ファウストの館」は期待通りの流れ。
 「足あと」もなかなかに素敵。


 「不吉なマドンナ」は、持ち主に災いをもたらす呪われた絵の話。
 これだけだとありきたりな物語に思えるが、途中から語り手となる年配の文士の語り口が良い。本当の呪われた絵は、持ち主どころか、それを一目見た人間までをも飲み込んでしまうだけの「魅力」を持つものなのだろう。


 「生まれそこなった命」は、語り手が一体誰なのかが気になる作品。途中で視点が変わっているってことは、最初の語り手はつまり……。
 でもなぁ、こんな荒れた別荘を貸す友達ってどうなのよ、との現実的すぎる疑問が一度浮かんでから消えなくて、何ともかんとも。

 アンドレエフスキの「吸血鬼」は土着の吸血鬼の雰囲気が満載で良いですね。
 昨今は吸血鬼と言えばドラキュラ伯爵の血脈だと相場が決まっているので、そこを期待した人はガッカリだろうけれど。
 土着と言えば、「『ハザール事典』 ルカレヴィチ、エフロシニア」のエフロシニア奥様への二つ目の悪口がそのまんまですね。あまりにそのまんますぎて、かなりにやにやしてしまった。


 「一万二千頭の牛」は幻想と現実の狭間があやふやになるその危険なバランスが秀逸。暑さで脳髄が蕩けそうな夏場に読むと、主人公と一緒に幻想の世界にダイブ出来そう。
 空襲のキーワードからか、何故かずっと『ガラスのうさぎ』が脳裏に浮かんで仕方が無かったのが、個人的にちょっと残念。
 主人公が見たのは結局は何だったのか。

 その後に収録されている「夢」が、この短編集で一番長く読後も後を引いた。
 モームの「赤毛」のオチが途中から目の前をちらついて、まさかそういうオチなんじゃあるまいなと何度もドギマギし、主人公と一緒に右往左往し、そして最後に辿り着いたのは。
 決して読後感が良いなんて言えないけれど、読み終わった後もグダグダ考えてしまう。



 そんなこんなで楽しい読書時間でした。
 どれもが趣味どストライク!とは当然行かないけれど、どの作品も一定のクオリティ以上の良質なものばかりで、とても楽しゅうございました。
 今まで何冊か読んできた河出の怪談集シリーズで今のところ一番のヒット。
 さて、同シリーズで積んだままになっているのも読もうかな。
Theme:読書感想 | Genre:本・雑誌 |
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