ドキュメンタリー『宇宙へ~冷戦と二人の天才~』感想:★★★★★
2014.02.13 Thu
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またしてもhuluネタ。これまたナショナルジオグラフィックで、これまた今月16日にhuluから消えてしまう作品。
huluはドラマも良いけれど、この手のドキュメンタリーも数多くあってお気に入り。ドラマはだいたいDVDになっているからレンタル出来るけれど、ドキュメンタリーだとそうも行かないしね。この作品はNHKによってDVD化されてはいるけれど。
これでもう少し消えなければ完璧だけど、huluもサーバーの容量の関係で厳しいのだろうか。
なんて前置きはこれくらいにして、今回の『宇宙へ~冷戦と二人の天才~』は全4回。それぞれのサブタイトルは、「ロケット開発」、「衛星開発」、「友人宇宙飛行」、「月面着陸」。各51分の作品。
かつてNHKで放送された時には60分だったらしい。あれ、長さが違う? 単純にカウント方法の違いなのか?
各国の協力の下に作られたらしく、エンドクレジットが大盛り状態なのが特徴的。NHKのサイトによると、制作陣はイギリスのBBC、チャンネルワンロシア、アメリカのナショナルジオグラフィックチャンネル、ドイツのNDRとなっている。ちなみに2005年制作だそうだ。
huluにあるのは日本語吹き替え版なのだが、どの声も私でも聞き覚えがあるあたり、有名声優を使っているんじゃなかろうか。なんか凄い聞き覚えがあって、モヤモヤする。
宇宙を目指す。その夢の発端は、ナチ時代のドイツ。
徐々に敗色の気配を強めていくナチスドイツ軍は、起死回生を狙い革新的兵器の開発に血眼となる。その中で生まれた技術こそが、ヴェルナー・フォン・ブラウン博士が開発したV2ロケット。
その威力は確かに凄まじかったものの、製造過程で数多の犠牲者を出し、さらに量産化にも難を抱えていた。V2は起死回生の一手にはなれなかった。
そもそも開発者フォン・ブラウンは、兵器を作りたかったわけではなかったのだ。彼の夢は、宇宙。
ナチ政権の下で研究費用を得るために、ナチ党員となり兵器の開発に手を染めていたのだ。だが今や、祖国には敗色の気配が漂っていた。
己の研究を継続させるべく、フォン・ブラウンは仲間の研究者と共にアメリカ軍に投降する道を選ぶ。
一方、戦場でV2ロケットの威力を目の当たりにしたソビエトは、その技術を手中に収めんものと研究者の獲得に余念がない。だが主任研究者であったフォン・ブラウンを手に入れることは出来なかった。
彼らは自国での技術開発のため、根拠の薄い反逆罪の容疑で強制労働収容所に収監したセルゲイ・コロリョフを釈放する。彼は優秀な科学者であった。
ドイツで得た技術者の指揮を取り、V2ロケットの再現が彼に命じられる。コロリョフもまた、フォン・ブラウンと同じく宇宙を夢見ていた。
だが時代が、彼の純粋な宇宙への夢を阻む。
アメリカが日本に原爆を投下し、その威力が明らかとなったことも拍車を掛けた。原爆を搭載できるミサイルの開発、即ち自国への核攻撃という悪夢に苛まれるソビエトは、ロケット技術の開発にコロリョフを急き立てる。
だが彼は彼で内部に敵を抱えていた。彼を密告し強制収容所送りにしたヴァレンティン・グルシュコ。しかし彼は優秀なエンジニアでもあり、ロケット開発には欠かせない存在であった。
研究のためにドイツを捨てたフォン・ブラウンも、苦境に陥っていた。元ナチ党員の肩書きが、彼の活動を大きく制限したのだ。
V2ロケットは確かに驚異ではあったが、だがロケット開発はアメリカがアメリカ自身の技術で行うべきではないのかとの風潮までもが高まり、ますますフォン・ブラウンの立場は弱くなっていく。
その上、彼の仲間は一人また一人と民間会社に引き抜かれ、彼の元を去った。金も仕事もくれない政府に見切りをつけたのだ。
そんな現状を打破すべく、彼は己の夢である宇宙の素晴らしさを訴えるために、奇抜な手を打つこととする。
最初は長距離ロケット。そして衛星。有人宇宙飛行。月へ。
アメリカとソビエトは、攻撃されるのではないかとの疑心暗鬼に陥る国民の声を受けて、激しい技術競争の火花を散らす。最初は武器として、次に敵国を監視するために開発される技術は、最終的に各国のプライドをかけた争いへと駆け上がる。
こちらが見られる相手の情報は、華々しく宣伝されるあちらの成功だけ。一方、自分の失敗は自分自身が最も知っている。
研究とは多かれ少なかれ、そういうものだ。常に相手の方が上手に見える。実情がどうであれ。
そしてコロリョフとフォン・ブラウンの上には、政府からの、時代からの強烈な圧力が掛かるのだから、彼らが置かれた環境は壮絶だろう。
更に彼ら二人には暗い影が落ちている。フォン・ブラウンには元ナチ党員という過去が、そしてコロリョフには強制労働収容所帰りだという過去が、そしてフォン・ブラウンは研究のためにアメリカ国籍までとった以上もはや祖国には戻れず、コロショフには再び強制労働収容所に戻らされるのではないかとの恐怖が翳る。
コロショフの名前が、彼の暗殺を恐れたソビエトによって伏せられ続けるのも物悲しい。フォン・ブラウンの成果には彼の名前が冠されるのに対して、コロリョフの功績はソビエトのものだ。
個人的に、研究のためのナチを利用し、価値が失墜したと思えば次にアメリカに乗り換えるようなフォン・ブラウンよりも、コロリョフの方に感情移入してしまう。フォン・ブラウンが己のしたことに後悔の念を抱いていたのか、このドキュメンタリーでは分からないせいでもある。
彼は己の研究欲のためならば、どれほど他人を犠牲にしても気にならないタイプの研究者に思えるのだが、実際のところは知らない。
研究者には不自由していなかったらしきフォン・ブラウンに対して、コロリョフの方はその点でも苦悩しているように見えた。実際に、コロリョフ亡き後、ソビエトは宇宙開発研究は崩壊してしまうのだし。
開発初期に手に入れたドイツ研究者を東ドイツ行きにさせなければ、もう少しコロリョフも楽になれたのでは……なんて考えはじめるとキリがない。
ずっと匿名であったコロリョフが、葬儀に際して初めて研究者としてその名が明らかにされ、フォン・ブラウンが己のライバルの名前を初めて知るという件が唯一の救いだ。あるいは故に絶望なのか。かつて強制労働収容所に送られた男が、国葬される皮肉。
二番目では意味がない。俺が、俺こそが開発者だ。そう名乗りたいがための、研究競争。それは今でも行われている。終わりなき科学者たちの攻防。
科学の発展を押し上げるのは国だが、それを捻じ曲げるのもまた国なのだ。今のこの時代を振り返ってドキュメンタリーが作られるとき、テーマとなるのは一体何だろうか。
敗戦国の国民としましては、こんな軍事技術丸出しの技術競争が出来るなんて良いなぁーとか思いました。
日本の戦後の宇宙開発もなかなか大変だったらしいね。軍事技術に転用できるものは駄目だとか言われて。でも軍事転用出来ないものって何?
覚え書き(本に纏わるあれこれ):ドキュメンタリー
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