RSS|archives|admin


<<百円物語:購入履歴・古本編20 | ホーム | 『ロウソクの科学』感想:★☆☆☆☆>>

スポンサーサイト

--.--.-- --
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


Category:スポンサー広告 | Comment(-) | Trackback(-) | top↑ |

『人形(書物の王国・7)』感想:★★★★☆

2011.09.04 Sun
人形 (書物の王国)
人形 (書物の王国)種村 季弘 エルンスト・テーオドア・アマデーウス

国書刊行会 1997-12
売り上げランキング : 500707


Amazonで詳しく見る
by G-Tools


  テーマに沿った小説、詩、エッセイを集めるシリーズ「書物の王国」から、今回は『人形』を。
 前に読んだ『吸血鬼』は今も昔も人気のテーマだけれど、それに比べて人形はどうかなーと思っていたのだが、不要な心配だったようだ。


 責任編集者は服部正。収録作品は以下。

・「人形幻想」 種村季弘
・「蒲団の国」 スティーヴンソン、水谷まさる・訳
・「クルミ割り人形とネズミの王様」 ホフマン、前川道介・訳
・「しっかり者の錫の兵隊」 アンデルセン、大畑末吉・訳
・「マルスリーヌ」 レニエ、志村信英・訳
・「彫像の呪い」 ハーディ、高畠文夫・訳
・「代書人」 ゲルドロード、酒井三喜・訳
・「女王人形」 フエンテス、木村榮一・訳
・「人形つくり」 北原白秋
・「泥人形の兄」 紀昀『閲微草堂筆記』、武田武彦・訳
・「人形奇聞」 高古堂主人『新説百物語』、須永朝彦・訳
・「承久二年五月の夢」 明恵上人『明恵上人夢日記』、服部正・訳
・「人形つかい」 日影丈吉
・「雛がたり」 泉鏡花
・「人形」 江戸川乱歩
・「ものいう人形」 柴田宵曲
・「マリオネット劇場について」 クライスト、佐藤恵三・訳
・「悪魔の創造」 澁澤龍彦

 全部で19作品収録。
 感想は続きを読む以下で。





 先日読んだ『ドイツ幻想小説傑作選 ――ロマン派の森から』収録の「ファールンの鉱山」は最後に「以下『胡桃割り人形と鼠の王様』になる」と記されているのだが、その「クルミ割り人形とネズミの王様」が載っていてにやにやしてしまった。
 話の内容としては、最初は確固たる現実世界を舞台にしていたのに、それが蝋が熱で溶けるように崩れ、最後にはドロドロと境界線を失していくその過程が良い。全てはマリーお嬢様の見た彼岸の幻覚だったのか。

 アンデルセンの「しっかり者の錫の兵隊」は昔昔に読んだというか、NHK教育のみんなのうたで流れていたような。どうにも動画のイメージだ。
 色々とあやふやではあるが、それでも最後のショッキングなオチは子供心に鮮明であった。細部を忘れてしまったのは、あまりにもショッキングすぎたせいなのかもしれない。
 あれから十年以上経った今読んでも、なかなかに強烈である。
 昔に読んだ時にも、「錫の兵隊さんの思い人である踊り子の娘さんの気持ちは果たしてどうなんだ?」と気になっていたのだが、最後のオチを見る分には両思いってことなのだろう。きっとそうなんだろう。むしろ私の心の平安のために、両思いだということにしておきたいです、ええ。

 個人的には「マルスリーヌ」がポイント高し。何が良いって、主人公が良い。現実から乖離してしまう主人公の己自身への評価に笑ってしまった。以下、引用。
 ただ私が逸脱しているのは人間の大多数が没頭していることに自分が関心を持つのは不可能だと常に感じているのに因る。それゆえに私は分別のある男とみなされたいと思うことができないのだろう。(略)今こんな観点に立ってみると、私はいつもこのうえなく完璧に常軌を逸した生活を送ってきたと認めざるをえない。私は実益を得るために自らを規制することなど一度もできたためしはなく、常時それより空想を優先させてきた以上そういうことになる。(p.75 「マルスリーヌ」より)

それというのも、恥なぞ感ずることなく告白するが、私は夢想家で妄想好きだからだ。想像上の世界が私の頭のなかでは現実界よりも余程多くの場を占めている。これは私のような種類の人間の欠点だ。こういう人間はいわば生活の外に置かれている。実際私が本気で生活に混ざることができないのは確かだ。その結果漂泊民か遊牧民みたいなものになっている。自分を包囲しているものから逃避して数々の気晴らしのなかに隠れる。これが私に変人だとか夢想家だとかもう確固たる名声を与えてくれる訳だ。(p.75 「マルスリーヌ」より)

 それというのも、恥なぞ感ずることなく告白するが、私も全く同じ種類の人間だからだ。ここまで的確に言い当ててくれた文章を私は知らない。
 が、この主人公は私とは違って、両親の遺産によって特別な職業につかなくても悠々自適な生活が出来ちゃうのですよ。羨ましいご身分の彼だが、なんとなんと美しい少女を一目見て恋に落ちてしまう。彼女の名前こそがタイトルである「マルスリーヌ」である。
 今までは空想世界で満ち足りていた彼が、初めて抱いたリアルな欲望。それは難なく叶い彼女は彼の妻となるのだが、この彼女は主人公とは正反対の「現実的」な女だった。
 結婚後ほどなく生まれるすれ違い。それが主人公が妻の言葉を押し切って操人形劇場を購入したことを切っ掛けに吹き出し、そして……。
 正直、オチに一瞬本気で「ふざけんな」と思った。が、よくよく考えると境目が判然とせず、どちらが幻想でどちらが現実なのかは言い切れない。これもまた境界線が曖昧になる物語であり、系統としては「クルミ割り人形とネズミの王様」と同じだ。とは言え、後者はもっと童話的だが。

 「彫像の呪い」は一番展開が読めなかった物語。この物語唯一の立派な人物エドモンド(でも女を見る目はなかったね)が不幸になったのは確定しているが、他のやや足りないバーバラと性格歪んでるアプランドタワーズ伯爵は……幸せ?

 「代書人」は『フランス怪談集』で既読。「人形」と聞いて真っ先に浮かんだ作品であったので、ちゃんと選ばれていて少し嬉しかった。
 もう季節は秋へと移行しつつあるが、夏の盛りに読むと非常に気持ち悪くなれる一作。

 フエンテスの「女王人形」は吐き気を催すような幻想的な物語、と思わせておいてオチが痛烈。異色だなと思ったら、このフエンテスって作家はメキシコの人なのか。何となく納得した。

 本書の白眉は澁澤龍彦の「悪魔の創造」。
 人間は、逆三角形の形に穿たれた3つの点を人間の顔に見るようにプログラムされていると聞く。たった3つの点すら己の同胞に見えるのならば、同じ形をした人形にもっと近しい感情を抱くのは当然のこと。しかも人形は生きている人間と違い勝手に動いたり喋ったりしない。人形が動くのも話すのも、空想の中だけだ。故に一方的に人形に抱いたこちらの想像がブチ壊される危険性は全くない。己の理想をどれだけ投影しても、人形は文句を言わない。どこまでも人形は人形でしかなく、そこに人間を見るのは、見る者の妄想でしかない。
 だからこそ人間は人形を愛するのだろう。それは一種の死体愛好家であり、そして単なる自己愛でしかない。故に嫌悪もされる。
 と、後半で展開される論は私の想像の範囲内だったのだが、前半の「人形は母なし子である」との論旨に非常に感動した。子を産む機能を備えぬ男が己の手で生み出せる「娘」、それが人形であるとの解釈には驚きだ。
 澁澤龍彦が高い評価を受けていることは知っていたが、今回のこのエッセイで納得した。他にも読んでみたいな。と言う割に、既にいくつか買って積ん読タワーのどこかに埋めているのだが。


 ふぅ、面白かった。「マルスリーヌ」と「悪魔の創造」が個人的には特にポイント高し。今回の責任編集者である服部正とは趣味が合いそうだ。


関連記事:
『ドイツ幻想小説傑作選 ロマン派の森から』感想:★★★☆☆
『吸血鬼(書物の王国・12)』感想:★★★★☆
『ペンテジレーア』感想:★★★★☆

ジャンル別:幻想小説|シリーズ別:書物の王国
より詳しくは右カラムのカテゴリから選択してください。

Theme:読書感想 | Genre:本・雑誌 |
Category:星4つ:★★★★☆ | Comment(0) | Trackback(0) | top↑ |
<<百円物語:購入履歴・古本編20 | ホーム | 『ロウソクの科学』感想:★☆☆☆☆>>
name
title
mail
url

[ ]
Trackback URL
http://kkkate.blog.fc2.com/tb.php/66-6ba70db9