RSS|archives|admin


<<意外とはやい:購入履歴・新本編141 | ホーム | やがて来ない、未来:購入履歴・新本編140>>

スポンサーサイト

--.--.-- --
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


Category:スポンサー広告 | Comment(-) | Trackback(-) | top↑ |

『シャーロック・ホームズの誤謬 「バスカヴィル家の犬」再考』感想:★★☆☆☆

2013.12.16 Mon


シャーロック・ホームズの誤謬 (『バスカヴィル家の犬』再考) (キイ・ライブラリー)

ピエール・バイヤール
東京創元社 2011-06-29
売り上げランキング : 482700
by ヨメレバ


 シャーロック・ホームズの「バスカヴィル家の犬」事件には、真犯人がいる! ホームズは真犯人にまんまと嵌められ、無実の人間を犯人に仕立て上げてしまっているのだ。
 ……が主な論旨の一冊。



 ホームズシリーズを読む現代の人間ならば誰でも、時折疑問を抱くだろう。「ちょっとそれは牽強付会に突入してやいないか」、と。
 とは言え、それはそれとして楽しむ人の方が多いだろう。ホームズシリーズは虚構なのだ。ホームズが無理な推理を行い無実の人間を罪に問うていようとも、実害はない。
 しかし世の中とは広いもので、無実の罪を着せられた作中人物を救ってやろうと一冊本を物す者が現れた。ピエール・バイヤールその人である。

 彼はワトソンが記した「バスカビル家の犬」事件そのものがワトソンの目を通して書かれた歪んだものであることを指摘し、可能な限りで事件そのものを公正に再構築する。
 そしてホームズが彼の特有のロマンティスト気質のために見落とした事件の真相に迫る。

 本書の最初の1/4は「バスカビル家の犬」事件の概要の再説明に費やされ、続く1/2はバイヤールの思想と実践についてが語られ、残りの1/4でようやくバイヤール探偵による事件の「真相」の種明かしが成される。
 つまり必要なのは最後の1/4のみで、残りの部分はそう重要ではない、少なくとも私にとっては不要、だ。
 特に中央1/2で成されるバイヤールの主張は、正直私には付いていけない。

 とは言えども、最後の1/4で示される真犯人像はなかなかに面白い。実にあり得そうで、ホームズに挙げられた「犯人」が可哀想になる。
 誰かこの設定で映画撮らないかな。



 以下は、私にとって不要と思われる真ん中1/2の話。
 ネガに傾いている上に長いという二重苦となっております。







 同じ本を読んだのにも関わらず、読者が抱く感想はそれぞれに異なる。
 それは読者がそれぞれ異なった人間だからである。好みも、生きてきた人生も、価値観も違う。だからこそ、感想が異なるのだ。
 私達は一つの文章に対して、それぞれ異なった感情を抱く。一つの文章は、決して一つではない。
 作品世界がこのように不完全で、主観的にしか捉えられないものだとするなら、それぞれの作品のまわりには、ある中間的世界が存在するのではないだろうか。テクストは限られた数の発話から成り、情報の補充もままならないがゆえに生み出された世界が。(p.84)

 バイヤールは読者がそれぞれ抱く「中間的世界」が多様性を持つことを認めるが、しかしそれでは小説を検討することが不可能となることから、大多数の中間的世界が重なる部分、妥当と思われる部分に焦点を当て、以後、検討の対象としている。


 私達は、この中間的世界の中で、虚構の登場人物に血肉を与えている。そこでは彼らは実際に生き、時として死ぬ。
 虚構の登場人物が寄って立つ位置を定義しようとする者が必ず直面するのはこの現実感であり、それはまた多くの面から見て、人を不安にさせる距離感でもある。というのも、その位置をどう定義するかが問題の中心だからだ。虚構の人物は一見、われわれと同じ世界には住んでいないように思える。けれども彼らはこの世界で、いわく言いがたいある場所を確かに占めているのである。(p.128)


 バイヤールはこの後、現実の世界と虚構の世界の境目に関する二つの立場を紹介する。
 一つは虚構は虚構に過ぎないと見做す「隔離主義者」であり、もう一つは「統合主義者」である。フィクションを読む人間ならば、意識するしないに関わらず、誰もがこの両極のどこかには位置している。
 バイヤールのこの指標を持ってするならば、私は頭に「原理的」が付くほどの隔離主義者だ。そしてバイヤール自身は最も強烈な統合主義者の一人である。
 彼は言う。
文学作品の登場人物はもともと暮らしていた世界でも、またわれわれの世界と行き来するなかでも、ある程度の自律性を享受していると確信していることにある。あるいはわれわれ読者も著者も、登場人物の行為や振舞いを完全には制御できないのだと言ってもいい。(p.137)


 ……何を仰っておられるのか、原理的隔離主義者である私には理解出来ない。
 作家が俗に言う「登場人物が勝手に動き出した」とは次元が違うことを言っているのは分かる。
 個人的にはその俗な説話も、作者が登場人物に設定した要素と、物語全体に施した要素が不協和音を奏でた時に、それを解消するべく作者の創造性が働いた結果だろうと思っているのだが。あるいは、思考と言語を完全に一致させることが出来ないが故に、その隙間が徐々に膨らみ遂には乖離して、そのような現象が起こっているとしか。

 しかし、こうして語ること自体が困難である。言葉は単なるツールだ。言葉は真実も虚構も、平等に取り扱う。
 虚構が切りはなしがたいのは、言語のなかに<<混合的命題>>と呼ばれるものが偏在するからだ。混合的命題とは虚構と現実双方に関わって、二つの世界を横断する発話である。(p.134)

 この前提の元に、バイヤールは私のような隔離主義者に対して言う。
 混合的な命題はほとんど不可避である。というのも隔離主義者たちがいくら排除しようとしても、その論証のなかにすら混合的な命題が常に含まれているからだ。例えば「シャーロック・ホームズはわれわれの世界の一員ではない」と言うことがすでに、それ自体混合的な命題である。というのも混合的な命題は同じひとつの文のなかで、現実界と虚構の人物を隣接させ、二つの世界を束の間交差させるのだから。(p.134)

 バイヤールの言い分は、やはり私には納得出来ない。
 彼は登場人物そのものが自律性を有する個人であると主張したいようなのだが、私はやはりその言い分は認められない。

 ホームズという個人は実在しない。だが、ホームズは実在する。彼は実際にコナン・ドイルが創造し、読者が受け入れ愛した存在である。
 私の言う「ホームズ」とは、決して現実の存在ではない。触れることなど出来ない。だが見えないが、いるのだ。
 「ホームズ」とは、ドイルが夢想した夢である。概念である。要素を組み合わせて描き上げた、素晴らしい画である。画家が絵の具で絵を描くように、ドイルは文字でホームズを作り上げたのだ。
 「シャーロック・ホームズはわれわれの世界の一員でない」。バイヤールは「シャーロック・ホームズ(虚構の人物)」―「われわれの世界(現実界)」と見做したようだが、私にとっては「シャーロック・ホームズ(現実に存在する私たちが共有する夢)」―「われわれの世界(現実界)」である。そこに混合はない。



 これ以後、バイヤールはドイルがホームズを殺害しようとしたこと、またホームズ殺害に関して読者たちが喪章を付けて抗議したことを取り上げている。
 それをもって、ホームズはドイルが殺意を抱くほど確固たる人物であること、ホームズの殺害が実際の殺人に等しいと述べているが、それもまた私には納得出来ない。

 ドイルが殺そうとしたのはホームズその人ではなく、ホームズという作品を通して彼に寄せられる彼が欲しない期待だとしか思えない。彼が創造したホームズという夢はあまりに魅力的で、彼が生み出したいと願う他の夢を塗りつぶしてしまったのだ。
 読者たちがドイルの行いに猛抗議したことは、私にはホームズが虚構の人物である証拠に思える。彼が現実に存在する人物ならば、もはや作者は不要のはずだ。作者に虚構の中で殺されようとも、痛くも痒くもないはずではないか。「私は死んだ」。そう書いたところで、現実に存在する私が死なないように。

 読者が実際の人物に対してのように喪章を付けたのも、本来ならば物理的な次元には浮上しえない夢を敢えて物理的存在に浮上させることで、自身が蒙った衝撃の大きさを示しているだけなのではなかろうか。
 あるいは死んだのは、作者自身だったのかもしれない。
 ホームズとは作者と読者が共有する夢だったのだ。それを作者が否定した。読者は大いなる衝撃を受けた。ホームズという夢の共有を拒絶する者は、もはや仲間ではない。今までの仲間は死んだのだ。考え直してまた仲間に戻れ、とのメッセージ。



 以上、バイヤールの記述を否定することばかり書いたが、本書はなかなかに楽しい一冊ではあった。
 立場が大きく異なる存在は、刺激的だ。普段意識しない自分の考え方を知る機会を提供してくれる。
 と言いながらも評価が辛いのは、単純にこの1/2ばかりが場所を取っており、肝心要の「『バスカヴィル家の犬』再考」部分が少なすぎるから。
 ちょっとタイトル詐欺気味だよ、コレ。


出版社別:東京創元社|テーマ別:ホームズ
より詳しくは右カラムのカテゴリから選択してください。


関連記事:
『バスカヴィル家の犬 【新訳版】』感想:★★★★☆
映画『バスカヴィルの獣犬』感想:★★★☆☆
イギリスドラマ「シャーロック・ホームズの冒険『バスカビル家の犬』ハイビジョンリマスター版」感想:★★★★☆
イギリスドラマ『シャーロック・ホームズの冒険 ハイビジョン・リマスター版』の話
『四人の署名【新訳版】』感想:★★★☆☆

Theme:読んだ本の紹介 | Genre:本・雑誌 |
Category:星2つ:★★☆☆☆ | Comment(0) | Trackback(0) | top↑ |
<<意外とはやい:購入履歴・新本編141 | ホーム | やがて来ない、未来:購入履歴・新本編140>>
name
title
mail
url

[ ]
Trackback URL
http://kkkate.blog.fc2.com/tb.php/655-72e14bda