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『回想のシャーロック・ホームズ【新訳版】』感想:★★★☆☆

2013.10.31 Thu


回想のシャーロック・ホームズ【新訳版】 (創元推理文庫)

アーサー・コナン・ドイル 東京創元社 2010-07-27
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by ヨメレバ


 『シャーロック・ホームズの冒険』に続く2作目の短篇集にして、シリーズ4作目。そしてホームズが表舞台から一旦去る巻でもある。

 収録作品は以下の11作。
・「〈シルヴァー・ブレーズ〉号の失踪」
・「黄色い顔」
・「株式仲買店員」
・「〈グロリア・スコット〉号の悲劇」
・「マズグレーヴ家の儀式書」
・「ライゲートの大地主」
・「背の曲がった男」
・「寄留患者」
・「ギリシア語通訳」
・「海軍条約事件」
・「最後の事件」


 キラリと光る作品もあるけれど、もうちょっと手を掛けてあげればずっと良くなりそうなのにと思える作品もちらほらと見られる。ドイルは『シャーロック・ホームズの冒険』に収録されている「橅の木屋敷の怪」でホームズを殺したがっていたと解説で説明されていたように、ホームズ物の短篇を書くのに飽きが来ていたのだろうか。
 彼の心情は知らねど、「最後の事件」においてドイルはホームズそのものを殺してしまうこととなる。
 最も心血を注いだ作品よりもずっと高い評判と評価を取ったこのホームズ譚に対して、ドイルが色々と思うところがあったのだろうと想像するのは易しいが、ホームズが作者に疎まれる姿を見るのはなんとも心苦しい。

 以下、各話感想。長い。







 「〈シルヴァー・ブレーズ〉号の失踪」は、意外な結末へと導くプロットが光る作品。だが、細かいところの下調べが手抜きすぎて、本来は成り立たないストーリーだそうな。

 今や負け知らずの競走馬シルヴァー・ブレーズ号が、大きなレースを前にして失踪した。
 事件の前にはいかにも怪しい男が厩を訪れては今度のレースに関する情報をねだっており、また馬小屋の警備をしていた者は夕食のカレーに阿片を混入され昏睡していた。そして更に、調教師が頭を強打された死体となって発見される。しかし一向に馬は見付からない。
 シルヴァー・ブレーズほどの有名馬ならば、その内に誰かが見つけるだろうと高を括っていたホームズは、どうやら己の予想が外れていたらしいと腹を括り、ワトスンと共に馬の失踪した現場へと赴くことに。
 現場を丹念に見て回ったホームズは、彼を見くびっているらしき馬の持ち主である大佐に向かって、言う。シルヴァー・ブレーズはレースに出馬出来るでしょう、と。

 この作品、なんだか見覚えがある。でもこの作品そのままではなかった上に、ホームズと全く関係のない別の作品だったような。
 要するに木を隠すならば森の中という話なのだから、それを応用した何かの作品を見たのかなぁ。映像作品だった気がするけれど、ほとんど思い出せない。うーん、このモヤモヤ感。



 結婚してからも仲睦まじく暮らしてきた妻、だが少し離れた隣のコテージに新しい住人が入っるのと前後して、彼女の様子がおかしくなった。
 通りがかりに見上げたコテージの二階の窓には、黄色い不気味な顔があった。それは男とも女とも見えない、ただただ怖気を奮うものであった。しかしこんな怪しいコテージを、妻は隠れて訪問していた。コテージから出てきたところを捕らえて問いただしても、妻は口を割らなくて。
 ――そんな依頼から幕を開けるのが「黄色い顔」。

 住む人も少ない田舎を舞台とし、また赴きのあるコテージに入居した怪しい住人、窓越しに依頼人が見た不気味な顔……と怪奇趣味全開なスタートに対して、予想を反する鮮やかな結末が付く一作。
 ここまで来ると読者の側もホームズ物のお約束を理解しているから、「依頼人の奥さんがアメリカで一度結婚しており、夫子供と死別してイギリスに帰ってきた」という情報が重要なことは分かる。
 それを元に、私もワトスンよろしく色々と頭を捻ってみたが、まさかこんな結末が待っていようとは。



 「株式仲買店員」は、「赤毛同盟」の亜種。
 此度、ホームズのところに持ち込まれたのは、転職の相談。
 なんでも依頼人パイクロフトによれば、彼は勤め先が倒産して以来ひたすら職探しの日々に追われていたものの、遂に大手のモースン商会の職を手に入れたのだそうだ。
 だが月曜日の初出勤を前にして、彼の前には更に条件の良い仕事を提示する謎の人物ピナーが現れた。給料はモースン商会よりも素晴らしいが、しかしパイクロフトはバーミンガムにあると言うピナーの会社を知らなかった。
 当然ながら疑いを抱くパイクロフトだが、ピナーに上手く言い包められ、ついにモースン商会を袖にして彼の会社で働くことを決意する。
 ピナーはモースン商会へ辞退の手紙を認めようとするパイクロフトを止めると、月曜日にはバーミンガムにある彼の会社のオフィスに来るように求める。
 だがそこでパイクロフトを待っていたのは、ピナーそっくりの上司。しかも命じられる仕事は簡単で価値もないが、手間のかかるものばかり。
 ついに不安に耐えられなくなったパイクロフトは、休日を利用してロンドンに戻るとホームズの元を訪れたのだった。

 ホームズが動き出した時には全ては終わっていたなんて、意地悪な作品。
 「赤毛同盟」では銃を片手に犯行を食い止めるべく奮闘したホームズが、ここでは単なる解説役でしかなく、ホームズというキャラクターが作品世界に与える影響力の著しい低下を見てとれる。



 この影響力の低下は続き、次の「〈グロリア・スコット〉号の悲劇」ではホームズがワトスンに昔話を語って聞かせるとの構図を取っている。
 つまり全ては過去。作品中の「現在」に対するホームズの無影響っぷりが、どこまでも顕著だ。

 ホームズが未だ大学生だった頃、彼は探偵業を生業にしようだなんて少しも考えてはいなかった。そもそも、それが仕事になるとは思っていなかったのである。
 その考えに変化を与え、つまりはホームズをホームズに成らしめたのがこの「〈グロリア・スコット〉号の悲劇」なのであった。
 悲劇が見舞ったのは、ホームズの大学生時代のたった一人の友人トレヴァーとその父親。
 ひょんなキッカケから仲良くなったトレヴァーの実家に、長期休暇の折にホームズは誘われた。そこは居心地が良く、トレヴァーもその父親もホームズとは馬が合った。
 だがそれもホームズが持ち前の推理で、トレヴァーの父親の経歴を当ててみせるまでのこと。見事言い当てられたトレヴァー氏は衝撃のあまり、持病の心臓病の発作を起こし倒れてしまう。
 しかしその後回復した氏は、ホームズの推理力を褒め称え、将来仕事にすれば良いと言ってくれたのだった。この言葉でホームズは初めて、探偵と言う職業を実現可能なものとして考えるようになったのだった。
 だが彼等の楽しい時間は、とある人物の訪問で決定的に幕を降ろす。いかにも水夫、それも生活に窮している、姿の男ハドスンがトレヴァーの父親を尋ねて来たのだった。彼は屋敷の人間全てに対して傲慢に振舞い、その癖、当主のトレヴァーが咎めないものだからホームズには居心地が悪くなってしまった。
 ホームズがトレヴァー親子の屋敷を辞してしばらく後、息子の方のトレヴァーから手紙が届いた。
 手紙には、ハドスンの横暴に耐え切れなくなった彼がハドスンを追い出してしまったこと、またそのせいで父親が酷く取り乱し心臓病を悪化させてしまったこと、おそらくは父親はもう長くないであろうことが記されていた。
 手紙を読んだホームズはすぐにトレヴァーの屋敷を訪れたが、既に父親は亡くなっていた。彼を死に至らしめたのは、一通の手紙であった。
 一見、取るに足らない内容としか思えないそれが暗号であると見抜いたホームズは、トレヴァーの父親をここまで恐怖に陥れた理由を明らかにしていく。生前のトレヴァーが褒め称えた、その推理力で。

 話のテーマとしては「過去に仕出かし償いもせずに放置した罪が、現在に襲い掛かってくる」種類に属するのだが、清算されていない過去の罪を武器に襲撃してくる犯人もまた過去の罪で手を染めた同じ穴の狢もしくはそれ以下というのが何とも。
 しかも今回にしろ「ボスコム谷の惨劇」にしろ、過去の罪に対する直接の償いこそはしていないものの、その後清く正しく生きることで間接的に償いを行っているからこそ、救われない。



 続く「マズグレーヴ家の儀式書」もまた、ホームズがワトスンに語る過去の話。
 ただそれが語られるに至るまでの経緯が酷い。ホームズの奇癖悪癖がここまで開陳されたのは初めてじゃないか。

 ホームズがワトソンと出会う以前、既に探偵業を生業としてはいたが未だ依頼人には恵まれぬ日々を送っていた。そんな中、ホームズの元を訪れたのは、かつての大学の同級生であるマスグレーヴ。
 古い一族の一員である彼は、突然消えた執事ブラントンと女中レーチェルの件で相談に訪れたのだった。
 このブラントンは頭が切れる男だとの評判だが女癖が悪く、レーチェルとの婚約を先日破棄し、別の女に走ったばかりだと言う。
 それでも有能な執事としてマズグレーヴは重用していたのだが、ある日彼がマズブレーヴ家に代々伝わる「マズグレーヴ家の儀式書」を無断で読んでいるのを目撃してしまう。
 怒りのまま彼の解雇を言い渡すマスグレーヴに対してブラントンは哀願し、なんとか一週間の猶予を得たのだが、しかし僅かその3日後にブラントンは荷物の全てを置いたままで失踪。その行方を尋ねられた元婚約者のレーチェルは発狂し、その上、看護人の目を盗んでレイチェルまでもが失踪してしまう。
 彼女の足跡は、近くの池まで。だが池からはレイチェルの死体は発見されず、代わりにガラクタが詰まった袋が見つかった。
 この謎を解くべく、さっそくマスグレーヴの屋敷に赴いたホームズは、件の「儀式書」が暗号の一種であること、またそれをブラントンも見抜いたであろうことを推測し、彼の足跡を求めて古い屋敷の捜索へと乗り出す。



 2作続けてただの聞き手だったワトスンだが、「ライゲートの大地主」ではようやく当事者の一人となる。
 精力的に過ぎる仕事の反動から体を悪くしたホームズは、ワトスンの勧めを受け入れてワトスンの旧友であるライゲート住まいの大佐の屋敷で休養を取ることにする。
 だがその折、ライゲートの大地主の一人であるアクトン老人の屋敷に泥棒が入ったとの情報がもたらされる。わざわざ押し入ったにも関わらず、犯人が盗んでいったのは実につまらないものだけであった。
 思わず好奇心から身を乗り出すホームズを止めるワトスンであったが、その努力は無に帰す。何故ならば、アクトン老人の次に、これまたライゲートの大地主であるカニンガム家にもまた泥棒が入り、それも使用人を一人殺害した大事件になってしまったからだ。
 事件を前にすっかり元気になったホームズは、さっそくカニンガムの屋敷へと赴くのだが……。

 大病をした後だから仕方がないと何度もワトスンがフォローするも虚しく、実際のホームズは至って普通に元気でしたなんて話。
 ワトスンの良い人感が垣間見えて、ホームズとは生涯に渡って仲良くしてあげて欲しいと思ってしまう。が、後の作品を見るに、徐々に疎遠になってしまうようだ。



 「背の曲がった男」は、「〈グロリア・スコット〉号の悲劇」と同じく過去の罪が幸福な現在を襲撃に訪れる物語。但しこちらは、襲撃者に落ち度がないだけに、「〈グロリア・スコット〉号の悲劇」よりは後味爽やか。

 ホームズの元に持ち込まれた依頼は、バークリー大佐の殺人事件。
 バークリー大佐は一歩兵から身を起こした立派な人物であり、人望も名声も手にしていた。それが、帰宅した夫人と激しい口論をした直後に死亡したのだ。彼の頭には鈍器で殴られたかのような跡が。そして傍には夫人が倒れていたが、今や彼女は事件のショックから急性脳炎を患い話せる状態ではない。
 密室で起こった事件だけに犯人は夫人に違いないと思われたが、しかし、依頼人によれば夫婦は仲睦まじく暮らしており、妻が夫を殺害する動機はないと言うのだ。
 仲の良いはずの夫婦が口論したからには、その原因は直前までの夫人の外出にあると睨んだホームズは、夫人と共に出かけた隣家の娘に話を聞くことにする。
 夫人は帰り道に偶然、背の曲がった男と遭遇していた。しかもその男のことを、夫人は昔の友人だと説明したのだと言う。
 さらにホームズは、密室を思われた現場に残された外部からの進入跡と、謎の獣の足跡を発見していた。



 「寄留患者」もまた過去の罪が幸福な現在を襲撃に訪れる物語だが、事件の真相が明かされても事件そのものの終結は示されないだけに、後味の悪い一作。
 今度の依頼人はワトスンの同業者トレヴェリアン。ただし彼はワトスンよりも研究者寄り。
 大学時代から既に研究で名を馳せたトレヴェリアンだが、ここイギリスで一流の研究者になるためには一流の場所に診療所を持たなければならない。だがトレヴェリアンには元手がなかった。
 そんな彼の元に、ある日出資したいと言う者が現れた。出資者であり心臓病を患ってもいるブレッシントンは、見返りとしてトレヴェリアンの診察付きで二階に自分が住まうこと、またトレヴェリアンが稼いだ金の一部を出資金の回収に当てるとの条件を提示する。
 願ってもいない好条件にトレヴェリアンは飛びつき、また開設した医院も順調に運営されていた。
 だがある日、いつもの散歩から戻ったブレッシントンは酷く青ざめていた。いぶかしるトレヴェリアンに対して近くで強盗事件があったからと答え、それを理由に家の警備を強化し半ば引きこもるようになってしまう。
 その数日後、トレヴェリアンの診療所にロシア貴族を名乗る患者が診察に訪れた。だが彼が薬を取りに言っている間に、患者とその息子は消えてしまった。翌日、彼らは再度診察に訪れ先日の無礼を詫びて帰ったのだが、入れ替わるように戻ってきたブレッシントンは自室に誰かが入った痕跡があるとトレヴェリアンを責め立てた。
 確かにブレッシントンの部屋には侵入の形跡があった。おそらくロシア貴族を名乗る患者の息子の方だろうとトレヴェリアンは推測するが、しかし部屋から無くなったものもないことから彼らの狙いが分からない。
 その上、ブレッシントンが常軌を逸するほど怯えて頼むので、トレヴェリアンはホームズの元へと依頼に訪れることとなったのであった。

 そんな冷たいこと言わずに助けてあげれば良いのに、と思ってしまう一作。
 事件の全貌は不完全にしか提示されず未消化な感が強く残るのだが、自分も心臓病なことだしと入院を見返りの一つとして医者に投資する発想は面白い。



 「ギリシア語通訳」は「寄留患者」と同じく、真の結末は推測の域を出ない一作。
 後味は爽やかとは程遠いのだが、作中で提示される情報と怪奇的な雰囲気が素晴らしい作品。どこか「技師の親指」を彷彿とさせる。そしてそして、ホームズの兄マイクロフト登場の回でもある。

 今までの振る舞いから、てっきりホームズを天涯孤独の身だと思い込んでいたワトスンだが、ひょんなことから彼自身の口から兄がいることを教えられる。
 しかもホームズは、兄の方が推理の才能に長けているとまで評するが、しかし一方で行動力に難があることと本人に探偵を仕事にする意思がないために、彼の推理はただの趣味に留まっていることをもワトスンに話して聞かせる。
 すっかりマイクロフト・ホームズに興味を抱いたワトスンを連れて、ホームズは兄に会うべくディオゲネス・クラブへと赴く。マイクロフトも設立に関わったディオゲネス・クラブは内気で孤独を好む人のためのクラブであり、他の会員と会話することはおろか、興味を抱くことすら禁止されているのだという。
 その最も非社交的なクラブを訪れた二人を迎えたのはホームズの兄マイクロフトと、彼の上階の住人であるギリシア語通訳者が遭遇した事件であった。

 ハッピーエンドにすれば良いのに、と思ってしまった作品。結末もまた「技師の親指」と同じく、真相はホームズたちの手の届かない場所へ。



 打って変わって「海軍条約事件」では、事件の真相が鮮やかに明らかになる。

 ある日、ワトスンに手紙が届く。差出人は彼の学生時代の友達であり、立派な伯父を持つパーシー・フェルプス。学生時代はワトスンたちにからかわれていたフェルプスだが、伯父のコネもあり今では外務省で働く将来有望な高級官僚になっていた。
 だが手紙でフェルプスが語るところによれば、その未来も今や風前の灯火。大事な書類を盗まれてしまったのだ。これは国際問題になりかねない大失態であった。
 精神的ショックのあまり寝込んでしまったフェルプスだが最近ようやく回復し始め、それ故に今からでも事態の収拾を図らんとワトスンを通じてホームズに誼を通じようとしていた。
 友人の憔悴振りを不憫に思ったワトスンと、事件に興味を惹かれたホームズがフェルプスの元へと参じたところ、彼の傍には献身的な介護に励む婚約者と、居心地が良いために居着いてしまった彼女の兄がいた。
 まだ国際問題が生じていないことから、盗まれた書類はまだ犯人の手元にあると踏んだホームズは、さっそく事件の調査に乗り出す。

 グラナダTV作のドラマ『シャーロック・ホームズの冒険』では、冒頭から「こいつ怪しい」状態だった犯人ながら、原作では彼に関する情報は結末にしか明かされず、おかげでご都合主義な印象に。
 とは言え、ホームズが来た時には既に事件は完結済み&犯人と真相も海の向こう、残るはただ推測のみな状態の作品が多かっただけに、事件に決着が付くだけでもスッキリする。



 ワトスンが本当は書きたくなかったと述べる「最後の事件」では、ホームズが一旦表舞台から立ち去ってしまう。

 自身の結婚を機にホームズとの同居を解消したワトスンは、それでもしばらくは彼との友好関係を続け事件にも多く関与していたが、しかし徐々にワトスンは自分自身の人生に追われ、探偵としてますます有名にかつ忙しくなるホームズとは疎遠になっていった。
 そんなある日の深夜、ワトスンの家を突如ホームズが訪問する。しかも彼は用心に用心を重ねており、窓に鎧戸を降ろすことをワトスンに要求し、また今夜泊まっていけとの彼の誘いをも固辞する。その上で、帰る際には裏口を使わせて欲しいと言うのだった。

 敵との肉弾戦も辞さないホームズにも関わらず、そのあまりの用心深さに不審な顔をするワトスンに対して、ホームズは今度の敵の手強さを説明する。
 その名はモリアーティー教授。ほとんど知られてはいないが、その実、犯罪の多くに関係しているのだという。だがその教授もホームズの張り巡らせた罠により、檻の中行きとなるのも時間の問題であった。しかしまだ最後の一手が打たれるまでには間があった。
 一方のモリアーティー教授もまた、ホームズが構築した状況の全てを的確に認識していた。網が引かれるその瞬間までの時間に全てを賭け、ホームズを彼の罠もろとも葬り去ろうと画策しているのだ。だからこそ、ホームズは用心しているのだった。
 ホームズは己と同水準の頭脳を持ちながらも悪に染まったモリアーティー教授を宿敵と見なしており、彼の逮捕に全力を注いでいた。彼を捕まえることさえできれば、命さえ惜しくないとまで言うのだ。
 ホームズのこれまでの全てを賭けた罠が発動するまでの数日間をやり過ごすために、ホームズは大陸へ旅行に出ようとしていた。今回ワトスンを訪ねたのは、この旅への同伴を求めてのことだったのである。

 最後になるかもしれない旅に、ワトスンを誘いにくるホームズになんだか色々と感慨を抱いてしまう一作。ただこの「犯罪界のナポレオン」ことモリアーティー教授の登場がいきなりすぎて、その犯罪者としての卓越さがサッパリ伝わらない。
 コナン・ドイルは前々からホームズを殺したがっており、ついに実行するに及んで、偉大なる探偵の死に相応しい敵をここに急遽用意したのだろうか。
 ドイルはどうやらホームズのことが好きではなかったようだから、それでも最期だけはちゃんとそれなりの形を繕っただけ、親切だと言うべきか。
 物語の最初から唐突で一体どうなることかと思ったが、後半から持ち直していてなによりだ。ライヘンバッハ滝からワトスンを引き離すための仕込みは秀逸だし、彼が見る最後のホームズの姿も印象に残る。ラストでワトスンが見つけることになる代物も、実に涙腺に宜しくない。


シリーズ別:シャーロック・ホームズ・シリーズ|作者別:コナン・ドイル
より詳しくは右カラムのカテゴリから選択してください。


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