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『シャーロック・ホームズの冒険 【新訳版】』感想:★★★★☆

2013.10.23 Wed


シャーロック・ホームズの冒険 (創元推理文庫)

アーサー・コナン・ドイル 東京創元社 2010-02-20
売り上げランキング : 277550
by ヨメレバ


 Amazonではタイトルに【新訳版】と付いていなかったが、東京創元社のサイトでは付けられていたので後に従った。
 同じレーベル、同じ翻訳者の「シャーロック・ホームズ・シリーズ」である『緋色の研究』、『四人の署名』に【新訳版】と付した以上、揃えないと何だか気持ちが悪いしね。


 ホームズシリーズ三作目にして初の短篇集。収録作は以下の12タイトル。
・「ボヘミアの醜聞」
・「赤毛組合」
・「花婿の正体」
・「ボスコム谷の惨劇」
・「五つのオレンジの種」
・「くちびるのねじれた男」
・「青い柘榴石」
・「まだらの紐」
・「技師の親指」
・「独身の貴族」
・「緑柱石の宝冠」
・「橅の木屋敷の怪」

 この短篇たちでホームズ人気に火がついたのも納得な、どれもこれも面白い作品だった。
 適度に意表を突きながらも、決して死体累々になりすぎもせず、かと言って普通に埋没することもなく、ほどよく日常と異常のあわいを保持するバランス感覚には脱帽。憂鬱な通勤電車のお供としては、こりゃ最適だ。
 ただ短すぎて、闇の差す暇がない。前回、「作品内に潜む意図的または無意識な歪さが良いよね」と書いた私の立場は一体。

 ただこのネガティブな印象がなくとも、作品が強度を失わずに成立しているのは短さ故だとも言えそうだ。
 長編である『緋色の研究』、『四人の署名』は共に犯人による事件の全体像の告白部分が独立して存在し、その二部構造はなんだか座りが悪かったのだが、短篇では事件の真相告白部分も上手く取り込まれており、違和感はない。


 しかし全体的に、ワトスンによるホームズの回想との体が漂い、つまりはホームズが既に過去の存在となっているかのような印象を受ける。
 永遠に失われた親友との思い出を綴るかのようなワトスンの語りが、なんとも寂しい。が、これは単に私の思い込みなのかもしれない。
 以下、各話の感想。長い。








 「ボヘミアの醜聞」は、さるやんごとなきお方が結婚するに際して、過去の恋人に渡した決定的な代物を取り返して欲しいとホームズに依頼する話。
 この高貴なお方云々よりも、彼のかつての恋人である女性の気高さが印象に残る。軽やかにホームズの裏を掻き、彼からの賞賛を欲しいままにする彼女だが、しかしあんな騒ぎのあった後の対応としては普通の反応な気がしてならない。
 そして彼女が結婚した理由はなんだったんだろう。誰かへの当て付けな訳ではないだろうから以前から付き合っていたわけで、ならばもう件の代物で彼を脅す必要性も蓋然性もないような。


 ホームズものでは一、二を争う人気作品らしい「赤毛組合」だが、個人的にはそこまででも……な印象。
 これは単にこの作品を下敷きにした後発作品に私が馴染んでしまったからだろうけれど。
 ホームズの元に持ち込まれた依頼は、「先日まで勤めていた赤毛組合が突如閉鎖してしまった」というもの。
 この「赤毛同盟」なるものは、赤毛の健康な成人男性しか入会を許されないが、一度入会してしまえば辞書を日々写すなんて単純な仕事でそれなりの金を手に入れられるという謎の組織だと、依頼人は教えてくれる。
 そして見事な赤毛の持ち主であるこの依頼人に「赤毛組合」の存在を教えてくれたのは、彼の営む質屋の店員だとも。
 上手すぎる話である「赤毛組合」と、その突然の閉鎖。そこからホームズがたどり着いたのは、とんでもない犯罪だった!


 結婚式の直前で消えてしまった花婿を探して欲しい。そんな依頼から幕を開ける「花婿の正体」は、一種のお約束と娘が権利を有する金の問題が融合した一作。
 とりあえず依頼者の母親が一番酷い。
 遺産だの年金だのの権利も持ちながら、現在はその全てを家族に委ねている人物がキーとなる作品は、これ以降も何作が登場する。


 被害者の最後の言葉が重要視される「ボスコム谷の惨劇」は、一種のダイイングメッセージもの。
 とは言えど、読者に事件の真相を推理することは不可能だろう。その点がホームズものの短所でもあり、また同時に謎解きに興味のない私のような人間には利点でもある。
 解ける問題だと言われれば解かなきゃと躍起になってしまい面倒になるが、無理なのが最初から分かっていれば頭を振り絞らずに済んで気楽だ。
 状況証拠から犯人だと思われた人間が、状況証拠から犯人ではないと釈放されるドンデン返しは愉快である。
 被害者の死の真相の扱われ方もまた、純粋な推理小説好きには嫌かもしれない。個人的にはこの煮え切らなさこそが、ホームズものの良いところだと思うのだけれど。


 続く「五つのオレンジの種」も、「ボスコム谷の惨劇」と同じく死の香る物語。
 依頼者が語るのは3つの出来事と2つの死。
 突如アメリカからイギリスに帰ってきた伯父に届いた封筒。中にはオレンジの種が5つと、その内側にK.K.Kの文字。突如変わる伯父の顔色。そしてほどからぬ死。だがそれは事故死として片付けられた。
 それから暫くの幸福の後に、件の封筒が依頼者の父の元へと届けられる。そして父もまた、事故としか思えない死に方をした。
 そして、ついに問題の封筒が依頼人の元に届いた。だからこそ彼はホームズの暮らす下宿へと飛び込んできたのだった。
 ホームズは依頼人に気を付けて帰るようにと言い含めるのだが……。
 ホームズも人の子なのだから、彼の理論が及んでも作用までは及ばない時だってあるのだと知らされる一篇。


 次なる「くちびるのねじれた男」は、謂わば平和な事件なのだが、意外性のある一作。そしてロンドンが決して明るいだけの街ではないのだと知る物語。
 ホームズの元への駆け込んできた女性が持ち込んだのは、夫の捜索依頼。いつものように出かけた夫が帰らないのだと言う。
 だが夫が失踪した日、依頼人は夫を阿片窟の上階から身を乗り出した彼を見たと言う。その様子が尋常ではなかったことから依頼人はその建物に押し入ったものの、そこには既に夫の姿はなく、代わりにあったのは彼の衣服とくちびるのねじれた物乞いの男だけであった。
 その日から夫は戻らず、途方に暮れた依頼人がホームズの元を訪ねることとなったのだ。
 オチとしてはそれしかないよなと思ったら、本当にそれだったという驚きと、そして阿片窟に物乞いと、垣間見えるロンドンの影の深さもまた見物。


 ひょんなことからホームズが手に入れたのは、元は上等だったものの今では薄汚れた帽子と、クリスマス用の七面鳥。
 落とし主が現れないからと七面鳥を調理したところ、中から出てきたのは「青い柘榴石」だった!――から始まるのがその名の通りの「青い柘榴石」。
 七面鳥よりもニワトリが良いわー、とか平和に思えるそんな作品。
 でも帽子の主は損したよなぁ。落とした方が悪いと言えばそれまでだけど……って、そもそもなんで襲われていたんだっけ? たまたま?


 これまた評判の良い「まだらの紐」は、これまた私にはあまり気に入らない。
 没落した貴族出身の義父と、双子の姉妹。母が残した年金により彼ら三人の暮らしは成り立っていたが、娘にはそれぞれ取り分があり、彼女たちが義父から独立、即ち結婚した暁には請求権が発生する。
 そんな状況で姉妹の片方が結婚を前に急死したとなれば、遺されたもう一人の娘が己の結婚を前に不安に思うのも当然である。義父の圧政の下で閉鎖的な暮らしをしていたせいで相談する相手もいない彼女は、最後の望みの綱とホームズの元を訪れた。
 亡くなった依頼人の姉が死の直前に口にした「まだらの紐」の謎を解くべく、彼女と義父とが暮らす屋敷を訪れたホームズとワトスンを待っていたのは。
 「ボスコム谷の惨劇」と同じくダイイングメッセージものだが、推理よりも何よりも、依頼人の義父の気味の悪さが光る。
 あとは殺し方としては実にのんびりとした不確実なものだなぁー、と。
 この手の理論性には劣るけれど怪奇性はバッチリな作品の方が私の好みではあるが、評判が良かっただけに推理小説として優れているのかと期待してしまった。


 事件の真相よりも何よりも、それが判明する前の依頼人の巻き込まれた謎深き事態の方が魅力的な「技師の親指」。
 開業医であるワトスンが治してやった患者の一人に車掌がいた。彼はワトスンにたいそう感謝し、以降、知り合いが医者を必要とする度にワトスンを紹介してくれるようになっていた。
 この車掌がある日連れて来たのが、親指を失くした男。しかも本人はこの親指の件さえなければ、自分でも信じられない奇妙な事件に巻き込まれたのだと錯乱の体で語るのだった。
 ただごとではないと察したワトスンは、この患者をホームズの元へと連れて行くことにする。
 怪しいドイツ紳士が提示する高額すぎる依頼料としつこいまでに強制する秘密保持、カタコトの英語しか離せない女が言う「逃げろ」の意味、聞かされていた使用目的にはそぐわない立派すぎる機械……と、親指を失くすことになる男に降りかかる状況は不可解な上に不可解だ。
 その全てが一つの解に集約されて物語は終わるのだが、解かれる前の謎の不思議さ故の魅力と、解かれた後に何も残らない空しさとが印象的。


 これまた結婚を巡る物語「独身の貴族」では、今度は花嫁が失踪する。しかも挙式後に。「そんなの分かるかよ」としか言いようのない謎解きを、ホームズが軽やかにこなしてくれる。
 「ボヘミアの醜聞」、「花婿の正体」、「まだらの紐」とどれも結婚がキーとなっており、やはり家族が増える/減ることによって見逃せないほどの大きな変化が起こり、結果として事件が引き起こされるものなのだろう。「ボスコム谷の惨劇」も結婚がトリガーだと言えなくもないかな。
 この「独身の貴族」では、イギリス貴族が金に困るほどに没落しつつある一方、海の向こうのアメリカでは成金がポコポコ誕生中だとの時代背景も垣間見えて、当時の世相を感じることが出来る。


 さる高貴な貴族から貴重品を担保に金を貸した銀行の頭取が、その宝冠を一部盗まれた上に犯人が息子だと思い込みホームズの元へと駆け込むのが「緑柱石の宝冠」。
 タイトルが示す通り、担保となったのはこの「緑柱石の宝冠」なのだが、これがまた他に類を見ない見事な一品であるだけに、依頼人の狼狽は並ではない。
 怪しい人間は犯人ではなく、怪しくない人間こそが犯人であるとのある意味での王道を行く作品。
 事件はホームズの活躍のおかげで解決するものの、宝冠は破損してしまった訳だけれど、その点は問題ないんだろうか。凄く気になる。
 またホームズの口から、「ぼくもいつか息子を持つことがあれば(p.457)」云々なんて人間らしい台詞が飛び出して吃驚。


 短篇集『シャーロック・ホームズの冒険』のラストを飾るのは、「橅の木屋敷の怪」。
 新しい家庭教師の口が見つかったけれど、このまま受けてしまっていいのか悩んでいる。そんなどうでもいい依頼の手紙から幕を開けるこの作品だが、事態は徐々に奇妙な様相を見せ始める。
 ただの家庭教師に対しては余りにも高額な報酬、強制される髪型や衣装、閉ざされた一部の部屋……。好奇心から依頼人が問題の開かずの一角へと入り込んだところ、それを目撃されてしまい、事態は途端に不穏な空気を帯びる。
 作中でホームズが発する、事件は田舎でこそ起るのだ、ここには人の目もなければ世間体もないから云々とのくだりに妙に納得してしまった。
 また「緑柱石の宝冠」に続き本作でも「あれがぼくの妹なら、あんな勤め先に応じさせたりはしないんだが(p.483)」なんて言いだすホームズに驚愕した。割と良い人だったのか、ホームズさん。
 事件自体の真相は割りと分かりやすいのだが、件の人物が突然消えうせた事情までは分からなかった。ホームズ自身も分からなかったようだから、仕方がないか。
 いつも悲しそうだと依頼人に形容される夫人は、一体どうしていつも悲しそうだったのだろうか。その理由が開かずの扉の向こうにあったのなら、その点では今は平安なのだろうけれど、今度は別の大きな不安が圧し掛かってしまったから収支はマイナスか。



 個人的には実際に人が死んでいる上に陰惨な空気の漂う「ボスコム谷の惨劇」、「五つのオレンジの種」、また事件そのものよりもそれが醸し出す怪奇的な雰囲気が秀逸な「技師の親指」、「橅の木屋敷の怪」がお気に入り。
 ただ「ボスコム谷の惨劇」は解答が海の向こうからやって来ていた点が、「五つのオレンジの種」は結末を知るのは海だけになってしまった点、「技師の親指」では全ては消え去った後だった点が、「橅の木屋敷の怪」は途中から答えがほぼ分かってしまう点が肩透かしではあった。
 が、この四作を含む全ての作品に於いて、謎の提示の方法、またそれを解答へと導くまでの工夫が優れており、どれも中弛みせずに読み終えられたあたりに、コナン・ドイルの素晴らしい腕前を堪能させていただいた。


シリーズ別:シャーロック・ホームズ・シリーズ|作者別:コナン・ドイル
より詳しくは右カラムのカテゴリから選択してください。


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