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『ロシア・ソビエト文学全集4 死せる魂 外套 鼻 検察官』感想:★★★★☆

2013.09.24 Tue


ロシア・ソビエト文学全集〈第4〉ゴーゴリ (1964年)ロシア・ソビエト文学全集〈第4〉ゴーゴリ (1964年)

平凡社 1964
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 収録作品は全てゴーゴリ作。翻訳者はそれぞれ以下。
・「死せる魂」 中村融・訳
・「外套」 岩上順一・訳
・「鼻」 横田瑞穂・訳
・「検察官」 米川正夫・訳


 ユダヤ人とドイツ人の扱いに差別と偏見感が満載だった同じくゴーゴリの作品を集めた『ロシア・ソビエト文学全集5』に比べて、今回はその手の話題がほぼなく、心安らかに読める一冊。
 一方で、『ロシア・ソビエト文学全集5』ではロシアの土の匂いすら漂ってきそうなほどに濃厚に描かれていた土着の発想がこの『4』では薄く、良くも悪くもお上品に。『5』ではあれだけ跋扈したコサックも、悪魔も、登場しない。
 どちらが良いかは個人の趣味になるが、世間一般ではこちらの方が反応は宜しそうである。








 本書のメインはなんと言っても「死せる魂」。未完の長編作品である。
 他人から「感じが良い」と評され、また本人もそう思われることに努めているチーチコフなる中年男性がこの物語の主人公。
 彼は使用人二人と馬三頭と馬車、それから手回り品を入れた鞄だけを持ってロシアを旅している。街に立ち寄るたびにその地の有力者に取り入るチーチコフだが、彼が真に狙っているのは地主なのだ。
 その理由は、彼らが持つ農奴、それも死んだ農奴を買い取りたいからだ。
 彼のこの謎めいた行動、また「農奴」も「魂」も同じく「ドウーシー」であることから、彼の求める「死んだ農奴」は「死んだ魂」と重なり、死後も魂は不滅だと教えるロシア正教と相容れずに軋み合う。
 だがその不協和音を聞くのはチーチコフ周囲の人間のみ。当のチーチコフ本人はといえば、彼の目的はそんな精神的なところにあるのではないのだ。

 チーチコフの欲するところが明らかになるのは第一部終盤。その目的が叶うかどうかを信託するはずの第二部は、しかし、途中から趣を変え、宗教的な救いの物語へと変貌してしまう。
 この変貌には、作者であるゴーゴリ自身の心境の変化が反映されているのだと、末尾の解説で詳しく説明されている。
 この変節は正直あまり私の趣味ではないのだが、それでも第一部で描かれたチーチコフを筆頭とする登場人物の濃さ、チーチコフの野心と彼が抱く平凡な将来の夢が魅力的なだけに、未完の上にところどころ原稿が消失している第二部は残念極まりない。
 ゴーゴリが変節する前に書き上げていたという「死せる魂」の第二部は一体どういう内容だったのだろうか。作者本人の手によって焼失の憂き目にあった以上、確かめようがないのだが、それでも気になる。



 面白いとは言えども、昨今のエンターテイメント性に溢れた物語を知る身としては、のったりまったりと緩やかに展開する長編「死せる魂」は、やはり冗長に感じられる。
 が、「外套」、「鼻」は短篇だけあり、話の展開がスピーディだ。


 「外套」は、アカーキー・アカーキエヴィチなどと奇妙な名前を持つことになった平々凡々以下の無能な下級官吏を主役とする物語。
 彼はただ写筆するしか能がなく、その真面目な仕事振りが認められて少しややこしい仕事を任せられても、即座にパンクしてしまうような男である。
 故に同僚にも上司にも蔑まれ、彼の現在も未来も灰色だ。が、本人は全く意に介していない。
 アカーキー・アカーキエヴィチは、写筆していられればそれだけで全くの幸せなのである。写筆する内容にも拘りがない。ただきっちりと間違わずに書き写すという行為こそを、彼は愛しているのである。

 そんな彼だから、その衣服は必要最低限を体現しているかのような有様であった。だがある冬の日、余りにも外套が役に立たなくなっていることを知ったアカーキー・アカーキエヴィッチは、遂に外套を新調することを決意するに至る。
 そのために彼は今まで以上に生活を切り詰め切り詰め、そしてようやく費用を捻出することに成功する。その間に、材料も吟味に吟味を重ねた上に値切りし続けたのだ。
 そしてついに念願の外套を手に入れた。それはアカーキー・アカーキエヴィチにとって、誇らしいものであった。喜びの薄い彼の人生に射した光であった。
 だがその外套を、ある日追い剥ぎに奪われてしまい……。


 「死せる魂」と同様にロシアの官僚制度が面白おかしく扱き下ろされているのだが、愚鈍でのろまながらどこか憎めないアカーキー・アカーキエヴィチを見舞う不幸には心が痛む。
 客観的に記せば大したことではないのだが、本人にとっては大事件なのだ。このアカーキー・アカーキエヴィチほどの客観/主観の差はなかなかないだろうが、けれどもこの事態自体は誰だって日常的に体験していることだ。
 だからこそ、彼を見舞う運命に同情を、また同時に、あまりに誇張された状況のギャップに笑いを感じるのだ。上手いなぁ、ゴーゴリ。



 「死せる魂」、「外套」でも仄見えていたエキセントリックさが炸裂しているのが、次の「鼻」。
 有名な一作だけはあり私でも概要は知っていたけれど、それでも思わず笑ってしまった。

その家の玄関先に一台の箱馬車がとまり、扉が開かれると、その中から礼服姿の紳士が一人、身をこごめるようにして、とび降りたかと思うと、階段をスタスタと駆けあがって行ったのである。だが、その紳士というのが――ほかならぬ彼自身の鼻であることを知ったときのコワリョーフの驚きは如何ばかりであったろう!(p.357, 「鼻」)

 ある朝、女房の焼くパンの香りで目覚めた理髪師イワン。焼きたてのパンを意気揚々と二つに割ったところ、その中から出てきたのは何と鼻! しかも見覚えのある鼻であった。
 そうそれは、顧客の一人であるコワリョーフの鼻なのだった。
 女房はとっとと捨てて来いと喚くし、イワンだってなかったことにしたのは山々だ。けれどももしも捨てるところを目撃されたらと思えば、そう簡単に廃棄も出来ない。

 一方のコワリョーフ本人は、朝目覚めてから鼻の出来物の様子を見ようとして吃驚仰天。なにせ出来物どころか、鼻そのものがないのだから。
 失くした鼻を捜すために、鼻のあったあたりをハンカチで隠しながら出かけたコワリョーフ。元が己の容姿に煩い彼には、鼻がないなんて承知出来ない事態だ。
 だがようやっと見つけた己の鼻は、自分よりも官位が上と思しき格好をしていて……。


 再度ネタにされる官僚制度。ゴーゴリに限らず様々な作家から虚仮にされすぎていて、逆に興味が涌いてきたぞ。
 鼻の顛末があっけなさすぎるかなーとは思うものの、さっぱりと終わっており、なかなかに面白い一編。
 実はこれを原作としたオペラがあったりする。よくぞこれをオペラにしようと思ったものだ。ちなみに今年度のMETライブビューイングの演目に入っているので、気になる人は映画館で見よう!



 次の「検察官」は、五幕からなる戯曲。
 舞台はどこかの片田舎。検察官が来るぞとの内通、きっとお忍びで来るに違いない一体誰が検察官なのかと戦々恐々・興味深々の一同、そして現れるそれらしき人、けれども実は単なる勘違いで……と、お約束をキッチリこなした一作。

 お約束だけに展開は読めるのだが、数多い登場人物がそれぞれゴチャゴチャやっている様が妙に面白い。勘違いされたことを良いことに好き勝手やっちゃう青年も、なんだかんだで憎めない性格をしているし。
 とは言え、奇想天外な展開が光る「外套」、「鼻」の後では、一段落ちる。


シリーズ別:ロシア・ソビエト文学全集|テーマ別:ロシア
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