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『パウリーナの思い出に』感想:★★☆☆☆

2013.08.02 Fri


パウリーナの思い出に (短篇小説の快楽)

アドルフォ・ビオイ=カサーレス 国書刊行会 2013-05-30
売り上げランキング : 4685
by ヨメレバ


 日本初のビオイ=カサーレス短編集。収録作品は以下。

・「パウリーナの思い出に」
・「二人の側から」
・「愛のからくり」
・「墓穴掘り」
・「大空の陰謀」
・「影の下」
・「偶像」
・「大熾天使」
・「真実の顔」
・「雪の偽証」

 個人的な感想は「この作者はきっと凄く良い人なんだろうな」に尽きる。
 どの作品の根底にも肯定の意思が流れており、そこには否定や排除といった冷たい要素は存在しない。作中で起こる怪異あるいは不思議すらも、あるがままの大きさで受け止められている。
 その何事も受け入れるおおらかさと、不可思議な出来事をも平気で育み動じない様は、いかにも異国的であり、そこが魅力でもあるのだろう。
 作者の意図するところもキッチリと語られるあたりに、書き手の優しさを感じないではいられない。


 ……なんかもう行間から滲み出ちゃってる気がするのでとっとと白状しておくと、私はあまりこの手の作品が好きではない。
 私が求める読書体験はあくまでマゾヒスティックなものであって、いわば極寒もしくは灼熱をこそ熱望しているのであります。こんな生温い快適温度は欲していないのですよ。
 いちいちキッチリハッキリ作品意図を解説してくれるサービスも欲しくない。その態度が鼻に付くとまでは言わないが、お楽しみを減じられた感はある。
 「この作品って何? 作者は何が書きたかったの?」と読後に妄想するのも読書の愉しみでございましょうに、その方向性の愉悦はほぼ生き残ってはいない。興ざめと表現するのが一番近いだろうか。
 読後の妄想なだけに、その馳せる先が書き手の意図と遥かに離れるどころか正反対にすらなることもあるだろうが、そんなところまで関与される覚えはない。一度読まれた物が、読み手の中でどう消化吸収され再構成されるかは、読み手の勝手でありましょう。

 ただこれも私個人の好みでしかないのも分かっている。
 熱帯の植物の如く逞しい生命力を根底に響かせながら、優しく奇想天外に紡がれる物語たちには確かに魅力があるし、曖昧模糊としながらも突如鮮やかな「意外」を見せる文体もなかなかに得がたい体験だ。
 以下、各作品についてつらつらと。








 表題作の「パウリーナの思い出に」は、いうなれば振られ男の一人語り。恋は盲目。
 ずっと一緒だと信じていたパウリーナは、主人公には愚劣にしか思えない男と共に去ってしまった。傷心のまま国を去った主人公が数年経ってようやく戻ってくると、そこにパウリーナがやって来て……。
 物語の展開そのものよりも、ラストの「真実」に行き着く主人公の思考の方が気になった一作。
 それを「真実」と認めて良いのかよ主人公、と思ってしまうあたりが私がこの作品集に馴染めない理由なんだろう。


 「二人の側から」は、ラストのために書いた感が前面に出すぎな作品。とは言えど、子ども特有のあっさりしたラストは好みだ。
 必死な大人とさっぱりとした子どもの対比が素敵。でもそこにたどり着くまでが長い。


 感情の湧き出るところを問う「愛のからくり」も、ラストを作りすぎな感がある。空中ブランコ芸人だとの設定を前半で強調しすぎて、途中でオチが見える。
 だが北半球の夏が南半球の冬になることから、主人公が無理矢理に辻褄を合わせようと足掻く様子はわりと好きだ。まぁこの主人公としては無理矢理ではなく、完璧な証明のつもりな気もするが。
 全てはバッカス神が引き起こしたものだけれど、全てはバッカス神が生み出したものではないのだよ。


 「墓穴掘り」は理想の宿の経営を始めたものの、現実は理想ほど上手くは行かず金銭的に立ち往生寸前の若い夫婦の前に、大量の現金を携えた客がたまたまやって来るところから始まる。
 こちらには金が必要な若者が二人、あちらには金持ちのお婆さんが一人……となれば、彼らの選択は当然ながら。
 罪悪感と事態の露見への恐怖から自分で自分を追い詰めて行く様、一難去ったと安堵した後に訪れる現実の恐怖、夫婦の性格の違いなど、なかなかに読み応えがある。


 SF的な要素が濃い「大空の陰謀」は、本書に収録された作品の中では一番好き。
 ささやかな違和感を手掛かりに、大胆な仮説を立て、そしてそのために旅立つ主人公の姿は無謀で考えなしで、それでもどこか愛おしい。
 ただやっぱり、いちいちが回りくどい。
 けれどものその回りくどさを切り捨ててしまえば、途端に面白さが激減するのは明らかだ。つまりは単に、私の趣味じゃない、の一言に集約されてしまうのだろう。


 不思議な出来事を不思議な出来事として許容する態度は、「二人の側から」や「愛のからくり」でも見られたが、「影の下」では不思議な出来事がとある人物によって熱望されている。
 永遠に失ってしまった愛しい人を、取り戻すことが出来たならば。それは誰もが夢見ることではあるが、延々と待ち望む彼はどうにも正気ではない。
 でもそう信じて待ち続けられるのは、ある意味で幸福なことなのかもしれない。


 「偶像」は、不可思議が不気味な色合いを伴い立ち現れる一作。正直に言うと、私はこの途中で挫折してしまい、もう二度と読み抜けないかと思った。
 不気味さと陽気さが同居する、奇妙な物語。


 世界が明日終わるとしても、今日は昨日と変わらぬ日常の一部に過ぎない。「大熾天使」で展開される世界観である。
 もしも明日が地球最後の日なら何をする? なんて問いはありふれているが、実のところはこんなものなのかもしれない。
 人間のどうしようもない愚かさと、それ故の愛おしさ、ままならなさのままに物語は終焉を迎える。
 

 その直後の「真実の顔」は……、「長々と語ってオチはそれかよ」くらいしか言うことがない。
 「大熾天使」の後に配置するあたりが憎い。


 ラストを飾る「雪の偽証」は、作者による懇切丁寧な説明をも作品中に内包させた、ある意味開き直ったかのような作品。
 いちいち説明されるのが嫌いな私ではあるが、ここまで語られるともうそれはそれで良いかなと。
 でもやっぱりイマイチ好きになれない。



 以上が感想。
 「大空の陰謀」は気に入ったので、その内に『モレルの発明』に挑戦してみようかな。


シリーズ別:短篇小説の快楽|出版社別:国書刊行会
より詳しくは右カラムのカテゴリから選択してください。


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