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『こどもの風景(新・ちくま文学の森 5)』感想:★★★★☆

2013.07.03 Wed


こどもの風景 (新・ちくま文学の森)

鶴見 俊輔 筑摩書房 1995-01
売り上げランキング : 1136039
by ヨメレバ


 正直全く期待していなかったのに、読み始めるとどれも面白かった。
 ただ純真なだけではなく、ただ無知なだけではなく、ただ弱いだけではなく、画一的なルールを飲み込み既製品の如き一律さを身に付ける前の、自由で不自然で醜く輝かしい、誰もが通り過ぎざるを得ない、そして一度は確かに経験した「こども」なる存在を考えさせるアンソロジー。

 収録は以下。
・小曲二章 佐藤春夫
・「波」より ヴァージニア・ウルフ、川本静子・訳
・「少年たち」 チェーホフ、神西清・訳
・「ある小さな物語」 モルナール、徳永康元・訳
・「少女」 ウンセット、尾崎義・訳
・「行列」 夏目漱石
・「牛乳」 武田百合子
・「ずぼんぼ」 幸田文
・「お栄という幼児」 森銑三
・英語教師の日記から 抄 小泉八雲、田中三千稔・訳
・「蔦の門」 岡本かの子
・「孫とおばば」 中野重治
・「胡桃割り」 永井龍男
・「小さな逃亡者」 タゴール、山口三夫・訳
・「対応」 ジョイス、戸田基・訳
・「力づく」 W・C・ウィリアムズ、宮本陽吉・訳
・「一日の期待」 ヘミングウェイ、井上謙治・訳
・「思い出より」 太宰治
・「人の顔」 夢野久作
・「小羊」 ソログープ、中山省三郎・訳
・「赤い酋長の身代金」 O・ヘンリー、小鷹信光・訳
・「小さな王国」 谷崎潤一郎
・「ミリアム」 カポーティ、川本三郎・訳
・少年探偵団 解説にかえて 安野光雅








 いきなり佐藤春夫の小曲から開幕し面食らったものの「意外と良いじゃん」と思ったところに、再度襲い来るのがウルフの「波」より。
 複数の人物の会話文が連続する分かりにくい構成に戸惑うものの、読んでいると徐々に彼らの性格や関係性が理解出来るようになっており、しかしだいたい把握し切れたと安堵したあたりで終了する憎い仕様。
 構成に奇抜さを用いているためか、登場する子どもたちには癖がなく、妙に親しみが湧く。


 ウルフを越えたことで安心して進んだ次に待っているのが、「少年たち」。
 未だ何物でもない子供にとって、自分自身すらも未知の存在だ。だからこそ、夢を見る。夢を見られる。自分が偉大な何事かを成し遂げられると信じることが出来る。世界はどこまでも大きく、また同時に僅かな知識で組み立てた世界は小さい。何だって出来る気がする。気が。
 作中の二人の少年ほど壮大ではないが、私も昔々「秘密基地」なるものを友人たちと作った。
 それは秘密でも基地ですらもない単なる子供達の集いの場に過ぎなかったと今なら思うのだが、しかし当時の私は真剣で、秘密基地にワクワクしたのだった。
 振り返る思い出は滑稽で、どこか悲しい。私はあの秘密基地に何かを忘れて来たのだろう。もはや見ることも感じることも出来なくなってしまった何かを。


 続いての「ある小さな物語」は、一人の女の子と二人の少年が織りなすお決まりの出来事を、精緻な筆で描いた小品。
 子供時代のこの手の意味の分からなさは何なのだろう。大人になったから分からなくなってしまっただけで、当時はちゃんと意味があったのだろうか。
 もう分からない。


 ウンセットの「少女」は、女の子の世界の「あるある」を描いた作品。
 些細な出来事がさも重大であるかのように感じられる、繊細で苦いまるでマーマレードのような味わいが実に良い。
 この手の記憶は醜い内容に結びつきがちなのだが、それを抑えてこの程度に抑えた作者の腕前はなかなか。


 「行列」、「牛乳」、「ずぼんぼ」 はどれも作者の思い出を綴った作品。
 「牛乳」の内容にドン引きである。


 森銑三の「お栄という幼児」が面白い。
 これは当時の奈良奉行であった川路左右衛門尉聖謨の日記から「お栄」なる利発な子供に関する記述を抜き出したものなのだが、このお栄の早熟さに舌を巻く。
 唐突にお栄に関する記述が消えてしまうのが、実に寂しい。一体何があったのだろうか。


 「英語教師の日記から」はタイトルの通り、英語教師であった小泉八雲の日記であり主題は彼のお気に入りの生徒たちだ。
 それぞれ性格の違う彼らは若く、そして一部の者は死に近い。


 岡本かの子による「蔦の門」は、蔦に覆われた門からスタートし、作者の使用人である老女(と言ってもまだ五十歳ほどのようだが)と、その門に悪戯をした角で知り合いとなった女の子との妙な絆が描かれる。
 孤独は孤独と惹かれあい、そしてもはや孤独ではなくなった。そんな柔らかな語り口を、戦争の鮮烈な火が照らす。


 「孫とおばば」は曾祖父の家にやられた子供が見る田舎の世界を描いた物語。
 一方の「胡桃割り」は、既に大人になったかつての子供が、子供だった時代を回顧する物語。胡桃の割れる音を聞いてみたくなった。


 「小さな逃亡者」はインドを舞台にした本書の中では異色の作。
 誰からも愛されるターラ少年は、他人からの愛情や執着に拘束されることを嫌い、気が向くままに旅をしていた。
 それがある日モティ氏と出会い、更には英語という魅力的な存在を知ったことから長く一箇所に留まることとなるのだが……、という物語。
 最後に訪れる雨季の描写がなんとも良い。


 「対応」はいつ子供が出てくるのかと思ったら、ラストシーンのみだった。
 主人公の今後が気になるところ。


 「力づく」な、うん、分かるよ分かる、主人公の気持ち。
 子供がぐずついてこちらの指示に従わない時に湧き起こる、一種独特な残酷な気分は一体何なのだろう。
 かつて子供だった頃に大人に成された理不尽を思い出し、既に大人となった今、この目の前にいる苛つく存在である子供に対して仕返ししてやろうと思うのだろうか。
 力づくで物事を成そうとする主人公の口元に浮かぶ微笑がありありと見えるようで、なんとも嫌である。


 「一日の期待」もまた「力づく」と同じく病気の子供が登場するが、こちらは微笑ましいお話。
 微笑ましいと言っても、この子供にとっては深刻な問題だったわけですが。


 太宰治の「思い出より」は、これが太宰の作かと思うとなかなか興味深い。
 子供の時分は他の兄弟よりも顔が劣ると言われていたのね。なんだかとても意外。


 「人の顔」は夢野久作だけにもっと違うところに着地するのではないかと戦々恐々としていただけに、日常の範囲に留まって安堵した。
 とは言えど、ラストシーンの後のこの家は大変な騒動になるのは必至だが。
 ただこの少女、チエ子の存在はとても気味が悪い。


 まさか夢野久作の直後にソログープを読む日が来ようとは……と思いながら読んだのが「小羊」。
 無知故に恐ろしい結末を迎える子供たちの姿は清く、そして不気味でもある。


 「赤い酋長の身代金」も既読。
 「赤い酋長」を名乗る子供の粗暴さと、それに振り回される誘拐犯二人の姿は滑稽だが、けれどもこの制御不能の子供の姿に「小羊」とは違った意味での理解不能、即ち不気味さが漂う。
 以前に読んだ時は脅迫者が入れ替わるその鮮やかさだけが印象に残ったと言うのに、今回こんなネガティブな感想を抱いたのは、収録順のせいだろうか。


 谷崎潤一郎の「小さな王国」は、一見どうということのない転校生の登場から一気に変化するクラスの様子が恐ろしい。
 だがそれ以上に怖いのは、貧困に追い詰められ徐々に狂っていく主人公である教師の姿だ。


 続いての「ミリアム」が最高に素晴らしく、最高に恐ろしい。
 ふとしたことから己の境遇の惨めさを実感し、そして些細なことから己の正気に疑問が生まれる、その恐怖。
 カポーティのことは実はあまり好きではなかったのだが、一気に印象が変わった。



 ウルフの「波」のかわいらしい子供たちから始まって、カポーティの「ミリアム」で終わるあたり、本書の編者はなかなか性格が悪いと見える。
 てっきり散歩かと安心して一緒に歩いていたのに、気が付いたら見知らぬ土地に辿り着いていた、しかももう日暮れが近い。どうしよう。
 なんて、そんな気持ち。


出版社別:筑摩書房|作者別:アンソロジー
より詳しくは右カラムのカテゴリから選択してください。


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