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『こわい部屋 謎のギャラリー』感想:★★★☆☆

2013.06.28 Fri


こわい部屋: 謎のギャラリー (ちくま文庫)

北村 薫 筑摩書房 2012-08-08
売り上げランキング : 139617
by ヨメレバ


 暑い日には怪談を、……なんて話ではなくて、単純にソログープの「光と影」が収録されていたから読んだだけなんですけれどね。
 背後からひたひたと音もなく迫り来、振り返っては破滅だと分かってはいても、それでも振り返らざるを得ない。
 気が付かなければ幸せでいられたのに、一度違和感に気が付いてしまえば、もはや「知らなかった」頃には戻れない。
 そんな密やかな恐怖を内包する物語たちが揃っている。

 収録作品は以下。
・「チャイナ・ファンタジー」 南伸坊
・「巨きな蛤」 南伸坊
・「家の怪」 南伸坊
・「寒い日」 南伸坊
・「七階」 ディーノ・ブッツァーティ、脇功・訳
・「待っていたのは」 ディーノ・ブッツァーティ、脇功・訳
・「お月さまと馬賊」 小熊秀雄
・「マナイタの化けた話」 小熊秀雄
・「四つの文字」 林房雄
・「煙の環」 クレイグ・ライス、増田武・訳
・「お父ちゃん似」 ブライアン・オサリバン、高橋泰邦・訳
・「懐かしき我が家」 ジーン・リース、森田義信・訳
・「やさしいお願い」 樹下太郎
・「どなたをお望み?」 ヘンリィ・スレッサー、野村光由・訳
・「避暑地の出来事」 アン・ウォルシュ、多賀谷弘孝・訳
・「ねずみ狩り」 ヘンリィ・カットナー、高梨正伸・訳
・「死者のポケットの中には」 ジャック・フィニイ、福島正実・訳
・「二十六階の恐怖」 ドナルド・ホーニグ、稲葉迪子・訳
・「ナツメグの味」 ジョン・コリア、矢野浩三郎・訳
・「光と影」 フョードル・ソログープ、中山省三郎・訳
・「斧」 ガストン・ルルー、滝一郎・訳
・「夏と花火と私の死体」 乙一
・「価値の問題」 C・L・スィーニイ、田中小実昌・訳
「『こわい部屋』の愉しみ」 宮部みゆき・北村薫

 南伸坊の4作品は漫画、末尾の「『こわい部屋』の愉しみ」は宮部みゆきと本書の編者でもある北村薫の対談。








 ブッツァーティの「七階」、「待っていたのは」は2作とも、ごく普通の人間が否応なくとある出来事に巻き込まれ、洗面台の水が排水溝に流れ込むが如く滑り落ちていく話。
 けれども排水溝の栓を抜いたのは、主人公たちなのだ。


 小熊秀雄の「お月さまと馬賊」、「マナイタの化けた話」は、淡々とした語りとユーモラスさ、そして、それらの下から苛烈さがちらりと見える、そんな作品。


 「四つの文字」は、太平洋戦争中に出会ったとある人物の自殺を戦争後に知った主人公が、彼との出会いを回想する物語。
 主人公が彼の死は銃によったのか、それとも毒薬によったのかと想像するシーンが印象的。


 「煙の環」、「お父ちゃん似」、「懐かしき我が家」はともにいかにも欧米の短篇と言った趣。
 ラストで事態が一気に判明するが、さりとてそれほどまでに劇的とも思えない。
 「懐かしき我が家」はどこかで読んだ気がするんだけれど、思い出せない。


 対して「やさしいお願い」は、じめっとした湿気にも似た怨念を孕んだ日本らしい一作。
 とある子供を轢き殺してしまった男に向かって、母親は慰謝料などは要らないと言い放つ。その代わりに2年の間、毎月子供の命日にはがきを投函して欲しいのだと。
 はがきは母親が用意して既に住所が書かれた白紙のもので、男はただ投函するだけでいいようになっている。
 最初はこんな簡単な行為だけで金銭的な負担を回避出来たと男は喜んだものの、毎月毎月自分が殺した子供の命日を意識させられるのが余りに辛くなり……。

 男がちゃんと2年を真っ当していれば、彼はある種の禊を行えただろうに。
 それとも男はそれが出来ない人間であることを、母親は知っていたのだろうか。
 なんて、ラストの一行から色々と考えてしまう物語。


 「どなたをお望み?」は最後の最後の一気に全てが「反転」する、実に見事な作りの話。
 グランザーには敵がいた。それは社長のヘイズだ。
 ずっと年上の彼に対してグランザーは若さと俊敏さを武器に、彼がもはや老いぼれであること、今後を担うのは若い自分であることをあらゆる手を使って主張し続けて来たが、ヘイズにはただ動揺しか与えることが出来ず、この老木を切り倒すことは不可能であった。
 そんなグランザーの前に現れたのは、怪しい男。彼は「共同行為協会」の会員だと名乗った。
 その組織はなんと、己の敵を違法行為に手を染めずに亡き者にするために設立されたと言うのだが。


 「避暑地の出来事」、「ねずみ狩り」は共にねずみに纏わる物語。
 どっちもこう後味が……。ねずみが嫌いになりそうだ。
 「ねずみ狩り」の方は特に、既に前任の墓守が謎の失踪を遂げているんだから、ちょっとは予見しろよと思ってしまう。


 そんな気持ちを一新させてくれるのが、「死者のポケットの中には」。
 行き詰る落下の恐怖と、最後のシーンの対比が良い。
 私も今絶賛調べ物中なもので、あれほどの危険を冒したにも関わらず、ラストにあそこまで潔く諦められる主人公に感動する。それも美人な奥さんのおかげか。


 「二十六階の恐怖」、「ナツメグの味」も共に最後に鮮やかに全てが判明する、しかも明らかとなる真実は知りたくない類のもの、な作品。
 「二十六階の恐怖」の主人公の計画の確実さには関心するが、それが「ナツメグの味」の彼の自己把握の欠如を読者に意識させる結果となっており、実に嫌だ。


 ソログープの「光と影」は、影、それは光さえあればどこにだってある、に些細な切っ掛けから捕らわれてしまった少年と、その母親の物語。
 ゆっくりと確実に狂気に向かう二人の姿は悲しいと同時に美しく、そして幸福ですらある。
 が、この作品だけ他のと比べて浮いてる気がするよ……。


 「斧」は個人的にお気に入りの作品。
 主人公たちは引っ越す婦人にプレゼントを贈ることにした。その代表者に選ばれた主人公が斧の形をしたブローチを渡したところ、婦人はいきなりそれを投げ捨ててしまった。
 あまりの振る舞いに言葉を失くす主人公に婦人が語ったのは……。
 疑惑とそれに対する解らしきものを用意しておいて、最後にそれまでの途中経過をひっくり返しては別の解を提示してみせる様は面白い。
 面白いと忌憚なく言うには、婦人が迎えた結末が悲しすぎるが。


 乙一の「夏と花火と私の死体」は、本書のハイライト。短篇ではなくもはや中篇と呼ぶべき長さ。「ねずみ狩り」同様にグロいが、こちらのが長いだけあって「見せ場」も多い。
 ある夏、ある田舎。
 同級生の弥生ちゃんにささやかな秘密を打ち明けたことから、「私」は殺された。
 そんな「私」を事故死だと言い張る弥生ちゃんと、それを信じた兄の健くんにより「私」の死と死体は隠匿されることとなる。
 丁度具合の良いことに、この田舎の周囲では子供の連続失踪事件が起きていた。この一連の事件の犠牲者の一人だと、きっとみんな思うだろう。

 作中で伸び伸びと描かれるのは、子供独特の心情、田舎の風景、夏休みの光景。その一方で、あたかもごく普通のことのように描写される健くんの冷徹さが、読み手の背中に冷たい汗をかかせる。
 事件の原因である弥生ちゃんが人間味溢れる恐れに慄いているだけに、健くんの冷静さは鮮烈だ。
 しかも彼は「私」の殺害に関与してはいないのだ。それでも彼は淡々と「私」の死体に対処する。
 そして何よりも、彼ら兄弟二人と「私」を待ち受けているラストが良い。
 いくつも張られた伏線が、それでも読者が信じたくないと願う状況証拠たちが、最後に統合され、最も見たくなかった光景が、それも実に幸福げな顔をして立ち現れる。

 この作品はこの「見えているけれど、信じたくない」と読者に思わせるのが、あまりに上手い。
 上手いこと作者に誘導されているなぁと気が付きはするものの、さりとて降りたくはないのだ。降りるためには信じなくてはならないから。
 降りようが降りまいが、どちらにせよ物語は終わり終末を見る羽目になることに変わりはないのだが、それでも最後の最後まで信じたくないと願うからこそ、物語の終末は輝く。平和そうに。強烈な残酷さを平然と秘めて。


 「価値の問題」は映画『ソウ』を思い出さずには居られない作品。
 『ソウ』には恨みがある。ある日、夜中にテレビを付けたらそれが『ソウ』で、うっかり見始めたら結末を見るまでは眠れなくなり、ようやく辿り着いたラストシーンの強烈さに戦いていたら丁度ホラー好きな妹が通りかかり、2作目で明らかになる彼らの結末をさらっと教えられ、そして私は眠れなくなったのだ。
 私は妹のあのニヤニヤした嬉しそうな表情を一生忘れないと思う。
 それにしても、一時期テレビで夜中にホラー映画を流していたけれど、あれは本当に止めて欲しかった。
 「あ、映画やってる。何だろう?」と何気なく眺め、そしてそれがホラーだと判明した頃には「結末まで見ないと寝られないよ!」状態になった。まぁ夜中にテレビなんて見るなって話なんですけどね。
 あの頃は今放送中の映像が何かなんてテレビは教えてくれなかったし。
 あ、で、この「価値の問題」は、『ソウ』を知ってしまった後では予想を1ミリも裏切ってくれないので、インパクト不足。


 と、ここまで書いてからようやっと、対談「『こわい部屋』の愉しみ」を読んだところ、映画『ソウ』から「価値の問題」が収録されることになったと書いてあった。
 思い出すのは当然だったようだ。



出版社別:筑摩書房|作者別:アンソロジー
より詳しくは右カラムのカテゴリから選択してください。


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