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『昇曙夢 翻訳・著作選集<翻訳篇2> 六人集、毒の園』感想:★★★★☆

2013.05.19 Sun


昇曙夢翻訳・著作選集 翻訳篇 2 六人集

昇曙夢,源貴志 クレス出版 2011-04
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 1910年(明治43年)に貿易社から刊行された『露西亜現代代表的作家 六人集』と、1912年(明治45年)に新潮社から刊行された『露国新作家 毒の園』を復刻したもの。
 オリジナル版では書名も旧字体なのだが、本書では新字で紹介されているので、これに倣った。
 当時の復刻を謳うだけはあり、中身はオリジナルそのままである。つまりは旧字旧仮名の上に、オリジナルからして薄いのだろう読みにくい箇所も存在する。ところどころ振り仮名が振られるべき漢字からズレてもいる。

 この『六人集』と『毒の園』は既に一度1939年に、正教時報社から『還暦記念 六人集と毒の園 附・文壇諸家感想録』とのタイトルで復刻・合本されて刊行されている。
 ただし、この正教時報社版では、オリジナルの『毒の園』に収録されていたクープリンの「囈言」が、同著者の「生活の河」に変更されているとのこと。
 また「露西亞現代代表的作家 六人集」収録の作品は一部が伏せ字にされており、それが甚だしい「夜の叫」や「霧」などは内容が分かりにくくなってしまっている。
 前後の文脈と、それが伏せ字の対象とされたという事実から、穴埋めをするしかない。


 今回のクレス出版による『昇曙夢 翻訳・著作選集<翻訳篇2> 六人集、毒の園』に収録されている作品は以下。括弧内は私による注釈。

露西亞現代代表的作家 六人集
・「夜の叫」 バリモント
・「静かな曙」 ザイツェフ
・「閑人」 クープリン
・「かくれんぼ」 ソログーブ(ソログープ)
・「妻」 アルツイバーセフ(アルツィバーシェフ)
・「霧」 アンドレーエフ

露國新作家集 毒の園
・「毒の園」 フョードル・ソログーブ(ソログープ)
・「地下室」 レオニード・アンドレーエフ
・「夜」 ミハイル・アルツイバーセフ(アルツィバーシェフ)
・「白夜」 アナトリイ・カアメンスキー
・「三奇人」 アレキセイ・トルストイ
・「嫉妬」 コンスタンチン・バリモント
・「囈言」 アレキサンドル・クープリン
・「死」 ボリス・ザイツェフ









 「夜の叫」は赤子の泣き声が脳裏に染みつく作品。
 物語の展開以上に、主人公の精神状態と深く結びついた風景描写が素晴らしい。
其瞬間、角を曲る刹那、大きな黒い屋根の向ふから、圓く黄ろい月が覗き込んで居た。(『六人集』, 「夜の叫」p.15)


 「静かな曙」では赤子ではなく、すっかり成熟し果てた実が地面に自然に落ちて土へ還るかの如き一種の宿命を感じさせる一作。
 そこにある死は必然であり、悲劇などではない。

 転じて「閑人」は生の歪さを、そしてそれを感知すらしえない愚かな人間の醜悪さと同時に幸福を描いた作品。
 けれども私は、彼を見下せるだけの資質の持ち主であろうか。

 だから読むの何回目だよ、な「かくれんぼ」は、心の隙間に滑り込んだ作り話が大きく育ち、そして現実の悲劇と結びつき現実を覆い尽くす物語。
 だが破滅は最初から根付いていたのかもしれない。内包された結末が、空想を呼び込んだに過ぎないのかもしれない。
 ちなみに「かくれんぼ」の作者ソログープの父親は外に娘をこさえていたのだそうで。それを知ってしまうと、この主人公である母親への眼差しが変わってしまいそうだ。なんだか俗すぎて下らない連想だが。

 続いて下らないことを言うと、「妻」の主人公はこれ結婚しちゃ駄目なタイプの人間すぎて、どうして結婚したのか問い詰めたい。
 世間が促したから結婚しておいて、やっぱり世間に流されるのは性に合わないとか鬼か貴様は。
 とは言えども、彼の気持ちも分からないではない。だから一層、反発を感じるのだ。

 「霧」は伏せ字部分が多すぎて、ストーリー展開に空白が生じている気すらするのですが……。
 一人の感じやすい少年の性と生の物語。翌日の彼の家族に待ち受けている衝撃を想像すると、非常に可哀想だなぁ、と。そもそも彼らは少年の行為の理由を理解出来るのだろうか?
 けれども家族なんて意外とそんなものかもしれないね。



 表題にもなった「毒の園」はもう何度も感想を書いているので省略。

 「地下室」は、うーん、アンドレーエフの作品は今作も、また以前に読んだ「我等が生活の日」や「毆られる彼奴」、「人の一生」も、どこか個性を削除されて普遍性を有しているのに、それが不思議と普通からも微妙にズレている。上記の「霧」は比較的主人公が一個の確立された個性の持ち主なのだが。
 この奇妙な特性故に、彼の作品は私のことでもあるようで、全く関係がないようにも思え、そして同時に全ての人に当て嵌まるようでもあり、同時に誰にも当て嵌まらないような気もする。
それが死だ。けれども死の到來するまでは兎に角生きて居なければならぬ。所が、絶望に囚はれたヒジニヤコフのような、金も、健康も、意志も亡くなった人間に取つては是れが何より恐るべき問題である。(『毒の園』, 「地下室」p.74)

 布団に丸まり、死を待つために生を消化するヒジニヤコフ。彼と同じ地下室に暮らすのは売春婦や犯罪者ばかりだ。
 けれどもそこにひょんな事から、望まれぬ子を産んだ女が訪ねて来たことから、彼の燃え残りの生は一瞬輝く。
 赤子の存在が引き起こす結果が「夜の叫」とはベクトルを異としているのが面白い。
 だがどちらの生も、結局は死に塗りつぶされてしまうのだが。

 続いての「夜」も赤子が大きな切っ掛けとなる作品。
其後、彼の生涯には、外観上幸福らしい徴候の認めらるゝやうな時期が來た。けれども其れは悲哀よりも不幸よりもまだ惡かつた。(『毒の園』, 「夜」p.111)

たとへ、宿直しなくたつて何うせ同じことだ。人の一生は、要するに誰の爲とも解らない、退屈な、際限ない宿直のやうなものだ‥‥始終勤務時間を待つ爲に生きて居るやうなものだ。(『毒の園』, 「夜」p.125)

 医師として成功し、家庭生活も趣味だって上手くやっている。けれども、どうにもこうにも満たされない。
 そんな不安定な主人公は大晦日の今日、宿直に当たっていた。お産が始まりそうな妊婦がいるのだ。
 深い冬の夜は暗く、恐ろしい。日付が変われば新年だとは言うが、それの何が目出度いのだ? 子供が生まれる、そのことの何が目出度いのか?
 彼の精神は深く深く沈んで行く。だが妊婦が出産を目前に弱音を吐いたことを切っ掛けに、彼の心は大きな変化を迎えるのだった。


 残りの作品はあまり印象に残っていない上に、いい加減にこの記事が長くなってきたので割愛。
 昇曙夢が『六人集』の自序で語っているように、現代の精神はもはや絶対的な何かに安んずることは出来はしない。
 かと言って自己の思考とやらに全面的なる信頼を置くには、それはあまりに容易く変わってしまうのだ。
 けれども生きることを止めることは出来ない。だからこそ絶対的なるものを求めながら、そしてそれが存在しないことを知りながら、またそれを求める己を嘲笑しながら、揺らぎ続ける自己と共に死に向かって漂流するしかないのだろう。
 どれも滑稽なようで深刻な生を見詰めた雪の如き美しく儚く、また大量に積もっては屋根を押し潰すほどの恐ろしさと重さを有する作品群でございました。


テーマ別:ロシア|翻訳者別:昇曙夢
より詳しくは右カラムのカテゴリから選択してください。


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