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『ソログーブ童話集 影繪(春陽堂少年少女文庫94)』感想:★★★★★

2013.05.04 Sat




 結婚してく……じゃなかった、誰がこの本、売ってくれ!
 私、この本めちゃくちゃ欲しい。どっかで売りに出されてないかなぁ。


 との私の絶叫は置いておくとして、これも図書館本。
 例によって書影はないが、表紙はなかなかに可愛らしかったです。
 本書はおそらく、現時点で最も多くのソログープの作品を収めた一冊。著者が翻訳者の前田晁名義になっているが、もうそんなことすらもどうでも良いくらいに、ありがとうございます! ありがとうございます!

 収録作は以下。
・「翼」
・「いい香のする名前」
・「影繪」
・「花冠」
・「かよわい子供」
・「氷砂糖のかけら」
・「金の柱」
・「かうして誤解が起こつた」
・「蛙」
・「搜索」
・「地のものは地へ」
・「小さな棒」
・「對等」
・「小石の冒險」
・「道とあかり」
・「鍵と合鍵」
・「獨立した葉」
・「森の主」
・「少年の血」
・「魂の結合者」
・「獸の使者」









 収録作品は多いものの、「翼」、「いい香のする名前」は短め、「かよわい子供」から「蛙」まで、また「小さな棒」から「獨立した葉」まではどれもほぼ1ページの小品でいかにも童話な作品。
 ただ、この収録順がサッパリ分からない。
 小品が続いた後に、国語の問題に出題されそうなほどに出来映えの良い「搜索」、他と比べて長めの上になかなかヘビーな「地のものは地へ」を続け、その直後にまた超短編な童話を並べて、最後に「森の主」以降という順番の理由とは一体。
 「地のものは地へ」の直後に「小さな棒」だなんて、いきなり硬さが違って戸惑う。

 この文庫は、先に出た同じ翻訳者で精華書院の『世界少年文學名作集第21巻 影繪』にさらに作品を加えて纏めたものだと思われるのだが、単純に足されたのではなくて、文庫化にあたって収録順が変更されている。
 つまりは翻訳者の何らかの意図があったと思うのだが、何だろう?


抑も、生きてゐることは一つの奇蹟である。何人に取つても解くことの出來ない謎である。ソログウブは殊にこれを痛感してゐるらしく思はれる。かくして彼は、いかにしば〱前世の生活を想像して見たであらう! 前世の生活を肯定することはやがて來世の生活を肯定することでなければならない。(p.2, 序)


 なかなかに良い序文なのだが、前半部分が精華書院の『影繪』からの使い回しだと知らなければもっと良かった。文庫タイトルでは「ソログーブ」なのに、ここでは「ソログウブ」になっているのはそのせいなのだろう。
 表記を現代基準に改めたこの文章を他でも見たので、かなり評価されている序文なのでありましょう。
 ここで上げられている前世が関わってくる作品は、本書内では「いい香のする名前」、「魂の結合者」、「獸の使者」あたりか。

 個人的にはソログープは「終わり」を甘美に描く作家との印象なので、そこまで「しばしば前世の生活を想像して」いたとは思わないのだけれど……、他の作品をも読めばまた印象も変わるのかな。




 「翼」と「いい香のする名前」は、こう言うと語弊がありそうだが、女の子向けの童話集に収録されていそうな「いかにも」な作品。
 おやゆび姫に感じるのと同質の都合の良さと、決まりの悪さを感じる。


 その後、いきなり「影繪」が登場。これは「光と影」と訳されることの方が多いあの作品。

が、影はしつこく彼を呼んだ。彼は指で彼等を招くことを止めたが、むだだった。壁の上に新らしい影を映す品々を竝べることを止めたが、むだだった。影そのものが彼を取り卷いてゐた――彼等は避けることの出來ないしつこい影だった。(p.51, 「影繪」)


 些細な切っ掛けから、ごく普通の生活から滑るように異なる次元へシフトしてしまった少年とその母親。
 二人の未来は、不幸でもありまた幸福でもあることだろう。


 続く「花冠」もまた同質の作品。
 ただ「影繪」の主人公が幻影のせいで「普通」から去ったのに対して、「花冠」の主人公は幻影故に「普通」にギリギリで留まっていられているのである。
 けれども彼女は不安定で、いつ足を踏み外して「影繪」の彼と同じく現実から去ってしまっても不思議ではないが。

誰でも自分のことを、「わたしが、」と言って話すことの出來るものは、この地上での勝利者でなければなりません。人間は世間に勝つことが出來るんですから。(p.80, 「花冠」)


 勝利とはなんだろう。どれほど貧しくとも、辛くとも、それでも誇りを失わないことか。
 だが彼女のその支えは余りにも実体を欠いており、私にはとても脆いものに思えてならない。



 「搜索」は、一年生になったばかりの少年のある一日を描いた作品。

 続く「地のものは地へ」も少年を描いたものだが、こちらの少年サーシャは「搜索」の彼とは違い子供らしさを欠き、どこか全世界を俯瞰しているかの如き傲慢さと、同時に何物をも真実己に関係するものとして捉えられない、周囲から真空で隔てられているかのような不幸さをも併せ持っている。

これが死だ。が、それが何であらう? おかあさんは寝てゐる、腐つて。けれどもそれが何であらう、何であらう?(p.132, 「地のものは地へ」)


 生を知らぬものには、死もまた遠い。
 そんなサーシャのことを父親は、既に奪われた彼の母親と同じく、彼も近いうちに死によって連れ去られるに違いないと半ば確信すら抱いている有様である。

 サーシャと同じくどこか冷淡な父親とは違い、彼に親身になってくれるのは彼の乳母だけだ。彼女はサーシャに言う。

「目なし女が見てるんでせう、」とばあやは呟くやうに言った。「氣をつけないといけませんよ、坊ちゃん。――あなたはあの鼻ぺちやんこな女に見込まれたんだから。」(p.117, 「地のものは地へ」)


 だがそんな彼女の言葉も、サーシャには理解出来ない。
 冷酷なまでに優秀なる彼は、生の実感を求めて恐怖を願い、そして些細なことに狼狽える同級生を気まぐれに救ってはその感激に動揺し、どこか常に空虚な父親の激情を欲して悪戯を繰り返す。
 その末に彼は知るのだ。

サーシャは感じた、すべてのものが死ぬことを、すべてのものが一樣に不必要であることを。そしてそれはさうでなければならないことを。(p.164, 「地のものは地へ」)


 必要の無い生、避けられぬ死。それを知ってもなお、彼はそれでも最後に、目なし女に背を背ける。
 目なし女の呪縛は解かれたのか? 彼を囲う温度の無い真空は破られたのか? 答えは恐らくは否である。
 だが彼は選んだのだ。それがただの怯えから発したものであろうとも、彼は選んだのだ。地のものが地へと帰るその日まで、彼は生きていく。



 一転して「森の主」は、ソログープにしては珍しいことに(単に日本語訳が出回っていないだけかもしれないが)、明白なる寓意性を備えた一篇。
 主人公「わたし」はメエリュア河の向こう岸の人間である。「わたし」とその弟は都会に住む友人に誘われて動物園へと出かける。
 そこで彼らが見たのは、彼らが神と崇めてきた存在であった。だがそれはただの獣として、動物園の檻に収まっていた。
 彼の「神」のためにいままで散々同胞の生命を捧げてきた弟は、神を獣に引きずり下ろそうとの野卑なる願望を抱く。「わたし」はそれを止めるのだが、しかし。

 既に在るものを否定するのも、破壊するのも、実のところは易しいのだ。問題は、その後、である。その空白を、一体どう埋めるのか、贖うつもりなのか?
 「わたし」と弟、また彼らの一族の行く末は。


 「少年の地」もまた「森の主」と同じく異国の香りのする作品。ローマのとある軍隊と、それに虐げられた少年の物語。



 「魂の結合者」は、リンポーリエフとガルモーノフの二人の物語。
 リンポーリエフは若い友人たるガルモーノフに不満を抱いていた。彼には足りないものがあるように思われてならないのだ。その欠乏こそが、リンポーリエフを苛つかせている。
 だがその苛立ちはそのまま彼自身にも跳ね返るのだった。リンポーリエフは己にも何かしらの欠如があるように思われる。
 そんな彼の前に現れたのは、不可思議な生き物。彼はリンポーリエフにとある秘密を教えるのだった。

 ラストのガルモーノフの台詞が、なんとも清々しい一作。


 「獣の使者」は「森の主」を彷彿とさせる異国の匂いのする作品。だがその香りは日常の微睡みを打ち砕くのだ。




 貸し出し不可な本だったおかげで一気に読み終わらざるを得ず、お陰様で後半の作品の印象が疲労感に掻き消され気味である。
 つまり誰かこの一冊を私に売ってくれ!

 とは言えど、ソログープと言えば「光と影(本書では影繪)」や「毒の園」、「死の勝利」あたりが有名なものだから、どうしてもソログープの描く主人公達は自ら、あるいはどうしようもなく、死の側へと惹きつけられていく印象があったのだが、ソログープは生の側に勝利を与えることも多々あるのだと知ることが出来た。
 ソログープ自身が変質していったのか、それとも元々の気質だったのかを知りたく思うので、その内に発表年表でも作ろうかな。

 とりあえず、「魂の結合者」や「獣の使者」はどこぞのアンソロジーに収録してくれても良いと思うの。
 特に前者はソログープの印象が変わるよ。「花冠」も同質の作品だけれど、こちらは別にいいかなと個人的に。「地のものは地へ」はややロシア土着の臭いが強すぎる上に、長すぎるかなぁと。


作者別:ソログープ|翻訳者別:前田晁
より詳しくは右カラムのカテゴリから選択してください。


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 後は私、英訳タイトルで"The Cave"と"Beauty"、"The Red-Lipped Guest"となっている作品が読めれば、成仏出来そうです。
 あぁ、でも"In the Crowd"、"The Glimmer of Hunger"、"The Hoop"も気になります……とか言い出したらキリがないな。

 とりあえず"The Cave"だけ見当が付かないし、もうこの一作が解決すれば後は少なくとも英語でなら読めそうだし、つまりは"The Cave"が収録されている本を探す旅に出るか。
 ただ割とありがちなタイトルが災いして、ちっとも見つからないよ。

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no subject

はじめまして!
いきなりで恐縮ですが、もしよろしければ、相互リンクしていただけないでしょうか??
よろしくお願いします。
http://tamalabo.blog.fc2.com
- | T人生研究所 | URL | 2013.05.05(Sun) 11:29:33 | [EDIT] | top↑ |

Re: no subject

コメントありがとうございます。

 残念ですが、相互リンクは募集しておりませんので、ごめんなさい。
- | 春色 | URL | 2013.05.06(Mon) 21:55:44 | [EDIT] | top↑ |

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