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『八月の暑さのなかで』感想:★★★☆☆

2011.08.01 Mon
八月の暑さのなかで――ホラー短編集 (岩波少年文庫)
八月の暑さのなかで――ホラー短編集 (岩波少年文庫)金原 瑞人

岩波書店 2010-07-15
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 八月になったらこの本を紹介しようと思っていたんだ。周回遅れだけどね!

 激しすぎる日光に白く塗りつぶされる視界。立ち上るアスファルトからの熱気。降り注ぐセミの鳴き声が頭蓋に反響しては外界を埋めていく。
 光と蒸気と音に閉じ込められて、独りぼっち。誰もいない。違う。ただ認識出来ないだけだ。けれど、それは「誰もいない」ことど同義なのではないだろうか。暑さに足下は揺らぎ、セミの鳴き声に今にも己の思考を放り出したくなる。不快さに自分自身を忘れ、真っ白な夏の日差しに溶けて同化してしまいたい、そんな日に相応しい一冊。


 収録作品は以下13作品。
・「こまっちゃった」 エドガー・アラン・ポー 原作、金原瑞人 翻案
・「八月の暑さの中で」 W・F・ハーヴィー
・「開け放たれた窓」 サキ
・「ブライトンへいく途中で」 リチャード・ミドルトン
・「谷の幽霊」 ロード・ダンセイニ
・「顔」 レノックス・ロビンスン
・「もどってきたソフィ・メイソン」 E・M・デラフィールド
・「後ろから声が」 フレドリック・ブラウン
・「ポドロ島」 L・P・ハートリー
・「十三階」 フランク・グルーバー
・「お願い」 ロアルド・ダール
・「だれかが呼んだ」 ジェイムズ・レイヴァー
・「ハリー」 ローズマリー・ティンパリ

 以下は感想。
 






 初っぱなの「こまっちゃった」では読んでるこちらが困っちゃったよ。金原先生、飛ばしすぎである。これにはポーもビックリだよ。
 あっけにとられながら読んでいたのだが、眼窩から飛び出した右目がウインクするくだりで、「目蓋ついてないからウインク出来ないよね!?」とツッコミを入れてしまった自分に笑った。私って意外と真面目だったのね。

 次の、タイトルになっている「八月の暑さの中で」は非常に「オチ」が気になる作品。
 いやこれどうなるんだろう。「オチ」部分を読者の手にぶん投げるだなんて、不眠症になったらどうしてくれるんだ。

 続く作品サキの「開け放たれた窓」は、鮮やかなオチに唸る1作。サキはこの手の最後の一行でオチを付けるのが上手に過ぎる。そこにそこはかとなく潜む悪意がまた宜しいことで。

 「ブライトンへいく途中で」、「谷の幽霊」、「顔」は割愛。この3作品はやや幻想文学の香り。

 ある意味で一番怖いのが、「もどってきたソフィ・メイソン」。これ本人は幸せなんだろうけど、こんな厚顔無恥な人間にはなりたくないもんだ。でも本人は幸せなんだろうからなぁ。己の無恥さに気が付くことがないなら、こんな性格はお得なのかもしれない。こんな時代ですしね。
 ……なんとも煮えきれない。

 「後ろから声が」、「十三階」、「だれかが呼んだ」は悪くはないが、もう一捻り来るかと期待してしまった。
 「後ろから声が」は原因がちょっと安直すぎるんじゃないのと思わないでもない。気が付けよ。奥さんへの愛情の深さとその裏返しの描写はなかなかに好きだけれど。
 「十三階」はよく似た話を『世にも奇妙な物語』か何かで観た気がする。まぁ定番ネタと言えばそれまでだが。
 
 「ポドロ島」は一人称の嫌なところを駆使していて嫌だ。この語り手でもある主人公怪しいよ。これ三人称で書き直したらどんな展開になるんだろうか。

 ロアルド・ダールの「お願い」は、もう本当に、子供の心情を描写させたらダールの右に出る人間はいないんじゃないのと思えてしまう。
 子供にとっては想像したことが現実そのものなんだよね。それは大人になっても変わらない筈なのに、私たちは自分の想像の外に存在する触れられる「客観的な現実」とやらを懇意にし、己の想像力を邪険にするようになってしまう。
 あの頃の純粋な想像力とそしてそれが産む恐怖も喜びも、今はもう遠い昔のことだ。ただ残滓が、それも酷く歪んだものとして、残っているだけ。

 最後の「ハリー」が一番強烈だった。なんでもないものが恐ろしい、と主人公は言うが、なんでもないからこそ恐ろしいのだ。
 夏の暑さに白く霞む目をふと後ろに向けた際に見えた、己の影の黒黒さ。思考も視界も白く塗りつぶされようとしているのに、それに抵抗するかのように立ちふさがる黒。自分の影。異質。
 あの瞬間に感じた強烈な印象は忘れられない。その衝撃の名を私は知らないけれど。
 主人公もまた真っ白な光に、黒い影を見る。白い光、黒い影、白いバラ、そして赤毛の子供。赤色の彼女が口にする「ハリー」の名。その正体とは?


 帯には「脳みそも凍る13の物語」なんて煽り文句が踊っているが、それほど怖くはない。
 あとがきで訳者が語ってもいるが、本書には血みどろスプラッターな後味の悪い作品は収められてもいない。
 なので安心して読んで、そして「八月の暑さの中で」と「ポドロ島」で私と一緒に苦悩して頂きたい。「もどってきたソフィ・メイソン」を入れても良いよ。





 金原瑞人と言えば海外の児童文学を翻訳してる人で金原ひとみのお父さん、くらいの認識だったのだが、wikipedia覗いたら、彼のゼミから古橋秀之、秋山瑞人ら輩出されたとの記載があってビックリした。
 古橋・秋山の二者は個人的な電撃文庫の一番良い思い出だ。
 この良い思い出は、単純に私がまだ今よりもずっと物知らずだったからなのかなー。歳をとるにつれて年々ストライクゾーンが狭まっている気がする。
Theme:読んだ本。 | Genre:本・雑誌 |
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