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『解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯』感想:★★★★★

2011.07.27 Wed
解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯
解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯ウェンディ ムーア Wendy Moore

河出書房新社 2007-04
売り上げランキング : 93926


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 絶版もしくは重版未定の1冊。そんなわけで古書で買ったのでした。こんなに良い本なのに、新本で買えないなんて、とても悲しいことだ。
 ……と書いてから調べたら普通に新本が流通していた。
 今年の1月に探し回った時はどこも中古しかなかったように記憶しているのだが、まぁ良いか。折角の良書ならば、やっぱり新本で流通している方が嬉しい。
 私も新本で買いたかったなぁ。タイミングが悪すぎたのか。


 貴方は神を信じますか? この問いに対しては日本人ならば多くが「いいえ」と答えるだろう。
 貴方は全ての生物が神によってエデンの園で作られたと信じますか? との問いになれば、更に「いいえ」の比率は上がる。
 私たちは進化論を信じている。生物は神が創りたもうたものなどではなく、環境と運によって淘汰され進化してきたのだと思っている。それは最近の新型インフルエンザの発生などで理解出来るところだろう。

 だが進化論が異端とされていた時代があったのだ。本書の主人公であるジョン・ハンターは進化論で名高いチャールズ・ダーウィンの祖父と同世代であり、ハンターが生きた18世紀後半のイギリスは丁度そんな時代の真っ只中にあった。
 ほぼ全ての人間がキリスト教を信じ、全ての生物は神が創りたもうたのだ、そして永遠にその形態は変わらないのだと思い込んでいた時代にあって、ハンターはその「先入観」を退け、己の目と思考と心に忠実に理論と実践を繰り返し、失敗と成功から生命の真理を見いだそうと足掻き続けた人物である。己の屍体すら解剖に回させ、己の死因であろう心臓と、過去に自然治癒したアキレス腱を標本にさせ後世の医者たちの学習資料にしようとしたのだから、その入れ込みようはいっそ天晴れの領域である。
 彼は己だけの力で生命の真理に辿り着けるとうぬぼれず、弟子を育てた。確立された教義にただ従うのが人間の正しい姿だとされていた18世紀にあって、彼は己の頭で考えることに拘泥し、その姿勢を弟子に叩き込んだのである。そんな彼は今、「実験医学の父」と呼ばれている。また彼のレスター・スクウェアの邸は『ジキル博士とハイド氏』のモデルとされている。
 そんなジョン・ハンターの強烈な人生を描いたのが本書なのだから、これが面白くないわけがない。しかもこのジョン・ハンター、野生児かつ問題人物である。
 彼は良くも悪くも己の知識欲にどこまでも忠実であり、そのためならば墓荒らしすら厭わない。自分が行った手術のその後を知るために、かつての患者の屍体を買い取っては解剖して標本を作る。ジョン・ハンターに自分の屍体が渡るのは嫌だと言い張った巨人症患者の屍体すら、彼の友人たちを騙してまで手に入れてしまう。
 だが先述のように己の屍体すら同じように解剖させたのだから、彼の主旨は一貫してはいるのだ。同時代の他の解剖医たちが自分の屍体だけは墓荒らしに遭わないように腐心したのとは大違いである。






 ジョン・ハンターの人生自体も実に魅力的だが、その背景となる18世紀イギリス社会もなかなかに面白い。医者の中での内科医、外科医、理髪師兼外科医のヒエラルキーや、英語圏に特有の解剖用の屍体を手に入れる苦労なども語られているのだ。同じ18世紀のドイツ片田舎の医者の診療記録が載せられている『女の皮膚の下―十八世紀のある医師とその患者たち』では解剖用の屍体に不足しているような記述が見られないのに、イギリスの大都会では不足に喘ぎ、ついには墓荒らしまでやる羽目になるのだから、この差異も興味深いところである。

 と褒めまくったが、この本、一カ所だけ誤訳がある。p.351の1行目である。単純に人物の名前が入れ替わっているだけだと思うのだが、それが一番私が盛り上がっていた場所だったせいで、盛大にずっこけてしまった。おかげさまで危うく目的駅の二つ前で電車から降りそうになってしまったではないか(電車で読んでた)。そこがちょっと残念。
 更にもう一つ追記しておくと、この本は結構グロッキーである。私自身はケンタッキーのフライドチキンを食べながらドラマ『BONES』を観られる人間なのでイマイチ分からないのだが、とりあえずこのショッキングピンクの表紙に嫌悪感を抱くタイプの人間は読まない方が良いと思う。
 一応、表紙の絵の説明を引用しておくと、
 子宮内にいる出産直前の胎児。ジョン・ハンターが解剖したものをヤン・ファン・リムダイクが描き写し、ウィリアム・ハンター著『ヒト妊娠子宮の構造』に収録された (p.6)

ものだそうな。
 貴方がこの説明を読んで「ふーん、良く描けてるなぁ」と思うタイプなら、本書をお勧め致します。




 うっかり下書きのままになっていた。
 投稿日は7/28だけど、日付は下書きの日のままにしておく。

 同じくジョン・ハンターを主役に据えた漫画もあったりする。好評なようだ。

解剖医ハンター 1 (リュウコミックス)
解剖医ハンター 1 (リュウコミックス)吉川 良太郎 黒釜 ナオ

徳間書店 2009-11-13
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Theme:読んだ本。 | Genre:本・雑誌 |
Category:星5つ:★★★★★ | Comment(2) | Trackback(0) | top↑ |
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はじめまして

突然、失礼いたします。
この本のタイトルを久しぶりに見て嬉しくなり、
コメントを書かせていただきました。

私も2007年に本書を読み、衝撃を受けました。
伝記でありながら、どこかパラレルワールドに入り込んだ
ようなストーリーに引きこまれました。
医学は何も語れませんが、このような偉人(奇人!?)の
おかげで現代医学の進歩があるのかと、ありがた~く思い
ました。
読後も…そして今でも心に残る1冊になっています。


- | テンタル | URL | 2011.07.29(Fri) 10:51:37 | [EDIT] | top↑ |

Re: はじめまして

テンタルさん、はじめまして。コメントありがとうございます。

 伝記とは思えないほどに奇想天外で波瀾万丈な強烈な1冊ですよね。
 ジョン・ハンターその人の持つエネルギーも相当ですが、これを記した原著者のウェンディ・ムーアも素晴らしい腕前です。
 現在でも己の思い込みが原因で物事を正しく見られないことは多いのですが、ハンターの生きた時代は今とは比較にならないほどに神学等の「思い込み」が多く、またそれが正当だと見なされていただけに、その全てをブン投げて、己の目と頭脳にこれほどまでの重点を置き続けた姿勢に、読んでいて非常にゾクゾクしました。
 まぁ偉人はだいたいにおいて奇人だと相場が決まっていますねぇ。ハンターにはちゃんと彼を理解する弟子がいたのもまた良いなと思います。

 コメントありがとうございました!
- | 春色 | URL | 2011.07.30(Sat) 00:57:23 | [EDIT] | top↑ |

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