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『パラケルススの世界』感想:★★★☆☆

2013.01.16 Wed


パラケルススの世界

種村 季弘 青土社 1996-05
売り上げランキング : 163270
by ヨメレバ


 既に栄光は過去に過ぎ去り、暮れゆく中世に生を受けたパラケルススの人生を追いながら、同時に彼と同じ時代を生きた人間たちがパラケルススをどう見ていたかにも踏み込んで描いた一冊。
 そのために公的書類のみに依存する伝記とは一風変わった読み物となっている。ただしその分、事実とのズレも生まれているのだろうが。


バルトロ 無知蒙昧な職人めが、あらゆる技術の中でも最高にして、最大、最も有益な医術を貶めるのはお前に似合ったやり口だわい!
伯爵 有益そのもの、医を商売とするやからにはな。
バルトロ 太陽といえども、その成果を照らすのを光栄と思う医術だぞ!
伯爵 そして大地は急いでそのへまを隠してくれるのさ。
(p.65-66 『セビーリャの理髪師』岩波文庫)









 何らかの専門技術が生まれ、それが価値ある物だと認められれば、それは権威となる。
 最初は人助けなり純粋なる研究欲なりから生まれたその技術も、一度権威となってしまえば、技術そのものではなく付随物のはずの権威をこそ目当てとする人が寄ってくるようになる。
 その手の輩が増えれば、当然ながら技術はおざなりにされ、ただ権威の維持のみが至上命題へと化していく。
 価値を認められた技術は更新されず、あるいは現実から離れた机上の空論と化し、ただの空回りが始まる。
 故に価値は低下し、その結果、権威だけを保とうとする内部の人間たちはより一層に保守化する。

 だがその一方で、スタート地点となった技術そのものは確かに価値があるのだから、権威ではなく技術自体に魅せられる人間も絶えない。
 彼らは権威を物ともせずに、技術に変化を求めるだろう。
 だがそれは権威を第一に考える人たちには、歓迎されない。古の技術こそが権威をもたらしたのであって、変革された技術が権威を依然として維持出来るかどうかは未知数だからだ。
 かくして、世代・立場を異とする対立が勃発する。


 行きすぎた保守はいつか破裂するだろう。既に「在るもの」を批判するのは容易いのだから。
 だがそれを打ち倒した後に新たなる枠組みを作るのは困難だ。保守がはじけ飛んだ後に、無秩序に自由を謳歌する後輩たちは技術の停滞と細分化、あるいは派閥によるいがみ合いにより存在そのものを問われるかもしれない。
 けれども全てに成功し、爆発的な発展を成し遂げることもあり得る。
 未来は不透明だ。見えないからこそ、夢を見る。
 現実の閉塞感に息苦しさを覚えているなら、なおのこと。その先に、求める酸素があるとは誰も保証してくれはしないのに。


 パラケルススも夢を見た。
 権威である大学医学だけではなく、当時卑下されていた外科医や呪術師などの民間医療からも知識を吸収し、医の、人間の、神が創りたもうた世界そのものを知ろうとした。
 彼は大学で学んだ後に、その頃通例となっていた遍歴を重ねては真実を追った。そして権威と過去の遺物に凝り固まり硬直化した大学と全面的に対立することとなる。
 だが悲しいかな、パラケルススは伝説のファウストの如き弁論の才には恵まれなかった。それどころか、今日は財布にしこたま金貨が収まっていたと思ったら、翌日には全て消え去っているような、身の定まらぬ人であった。

 つまるところ、彼は敗北する。
 けれどもパラケルススは己の主張が後世に於いて認められることを、自身が再発見されることを信じていたのだと作者である種村季弘は語る。
 そして確かに、こうやって現代日本ですら彼の人生を読めるほどに見事に、パラケルススは甦ったのだ。彼の願いが実現したことは、手の上に載った本の重みが教えてくれる。
 必死に考え書いて生きた、弁論下手でどもりの生活破綻者であった過去の天才の愉快で悲惨な人生が、この一冊には封じ込まれている。


テーマ別:医学|テーマ別:中世
より詳しくは右カラムのカテゴリから選択してください。


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 私が読んだのは1977年版の書影が見つからなかったので、1996年の新装版のを載せた。
 新装版の方には補講なり改訂なりがあるのかもしれない。

Theme:本の紹介 | Genre:本・雑誌 |
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