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『白衣の女』感想:★★★★☆

2011.07.19 Tue
白衣の女 (上) (岩波文庫)
白衣の女 (上) (岩波文庫)ウィルキー・コリンズ 中島 賢二

岩波書店 1996-03-18
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 面白い物語に出会うことは、それだけで幸運である。それが寝食忘れて眼精疲労にも負けず腕の痺れすら打ち負かし、ひたすらにページを繰ることしか考えられないレベルに遭遇するとなれば、それは一種の奇跡ですらある。
 しかも歳を重ねるに従って、その奇跡との遭遇率はひたすらに下がり続ける。まだ見るもの読むもの全てが真新しかった子供の頃とは違い、私は既に色んなことを知ってしまった。己の器の狭さを知り、限界を知った。故に私はもうかつてのようにヒーローに己を投影することは出来ないし、「頑張れば報われる」と励まされても素直に頷けない。
 
 そんな中にあって、久しぶりに登場人物に感情移入して読めたのが『白衣の女』である。
 正しく生きる人物に眩さと反感を、せせこましい悪党に共感を抱く傾向にある私に、まっすぐ主人公側へ感情移入させただけで私はこの作者の手腕を評価する。


 物語の舞台はヴィクトリア朝イギリス。登場人物たちの証言、または日記・手記などからの抜粋の形で物語は展開されていく。
 最初の証言者は主人公でもあるハートライト。しがない絵画教師である彼は、かつて助けたイタリア人ペスカから素晴らしい仕事を紹介される。それはカンバランドにある金持ちの邸でフェアリー氏のお嬢さん二人に四ヶ月間絵画を教える、との内容であった。
 給金は上々、仕事内容も気楽、と申し分の無い仕事であったのだが、彼は何故か不思議と気が乗らない。それでもペスカ、母と妹に背中を押されるようにして、彼はロンドンからカンバランドに旅立つこととなる。
 しかし出発の前夜、ハートライトはロンドン郊外で奇妙な邂逅を果たすこととなる。「ロンドンに行くには、この道でよろしいのでしょうか?」突然そう問いかけてきた女は、全身白ずくめであった。「准男爵」を酷く恐れる白衣の女はハートライトから現実感を奪い、代わりに深い印象を刻んで去った。
 白衣の女の影を引き摺ったままカンバランドに到着したハートライトは、そこで驚愕することとなる。その地での彼の生徒の一人であるフェアリー嬢は、白衣の女そっくりなのであった。

 不吉な女の影を感じながらも、フェアリー嬢、そして彼女の異父姉であるハルカム嬢との日々は穏やかに過ぎて行った。
 しかしここでハートライトに問題が持ち上がる。彼は身分の違いも顧みず、フェアリー嬢を愛してしまったのであった。件のフェアリー嬢も彼に好意を持っている様子。だが、彼女には既にグライド卿なる「准男爵」の婚約者がいるのであった。







 白衣の女とフェアリー嬢の相似、グライド卿の正体、そして卿を支援する真の敵フォスコ伯爵の強烈さ、フェアリー嬢とハートライトの恋の行方は……と、面白い要素はてんこ盛りなのだが、読者の心を掴み、この物語を引っ張っていくのはハルカム嬢であろう。
 ハートライトに開口一番「不美人だな!」と叫ばせるほどの彼女ではあるが、機知に富み、朗らかで優しい魅力的な女性である。なにせ敵であるフォスコ伯爵の心すら捕らえてしまうのだから(ってこういう書き方をすると気持ち悪いな)。
 こうなるともはや、共に主役格であるはずのフェアリー嬢とハートライトのことは正直どうでも良いのである。ハルカム嬢が彼ら二人の幸福を願うから私も気にするのであって、私が真に願うのはハルカム嬢の幸せなのである。
 彼女の望みが叶うのかどうかを見極めるため、のんびりと展開される物語にイライラしながら、ページを繰る手は止まらない。
 上巻でフェアリー嬢の上に怪しい雲が立ちこめ始め、私の動悸は激しくなり、中巻ではついにグライド卿とフォスコ伯爵の計画が明らかになり、私の血圧を跳ね上げてくださり、更にはハルカム嬢にも危機が訪れて私の胃を痛ませ、そして最後の下巻でどんなエンドが待っているのかと思ってページを繰って、私は床に倒れて死んだ。

 ……真面目な話、リアルに10分くらい畳の上で呻いてしまった。
 作者にも思うところがあったのか、ハートライトに
 私が今ここで述べているのは、有名なハイド・パークの水晶宮で大博覧会の行われた年(一八五一年)のことである。(下巻p.288)

と言わせているが、でもこれだけで免罪符になるのか? この後の再登場人物の大活躍も、この時代的にはアリなの?
 と疑問符が飛ぶ飛ぶ。

 それにここをクリアー出来たとしても、私はどうしてもハートライトのお綺麗さに限界を見てしまう。
 グライド卿、フォスコ伯爵の悪役二人に手を下すのはハートライトではない。彼はフェアリー嬢のために全力を尽くし、彼らを追い詰めるが、しかし彼は直接手を下すほど悪役二人に対して優位に立つことはない。
 それは彼とて認めているところなのだが、しかし、
この男も、私の手から逃れたからといって、無事最後まで逃げおおせるなどと決めてかかる権利があるはずはないのだ!(下巻p.336)

とか都合よく言われましても……。
 まぁ本人も、
私には、生来、迷信的なものというか、神秘的なものを信じる気質があるのでそう考えたのであろう。(下巻p.336)

と、都合の良さを認めてはいるのだが。
 でもなぁ。ハートライトに直接手を下せ、殺人者になれ、と言うつもりはないが、司法の手に引き渡すとか何とか他に手はあるじゃない。
 でもオチは、
大いなるものの復讐の意志が、彼を審判の場に呼び出し、その罪を命をもって支払わせたのであった。(下巻p.394)

なのでありました。
 これ語り手はハートライトなのだが、どうして彼に断言できるのでしょうね。「大いなるものの復讐の意志」って具体的に何なのさ。


 これだけグチグチ言っていることからも分かるように、結末に関しては結構不服。結局、フェアリー嬢の不幸は、フェアリー嬢の亡くなった父親と、彼女の叔父が全ての原因ってことだしなぁ。
 とまぁ、文句はたくさんあるのだけれど、それでもここまで登場人物に感情移入させてくれた小説はここ暫くなかったのでありまして、その点はこの作者の力量を評価しております。
 それと、翻訳の中島賢二の仕事っぷりにも。安定感抜群の日本語で、この物語を支えてくれました。




 ずっと「はくいのおんな」だと思っていたが、どうやら「びゃくいのおんな」と読むのが正しいようだ。
 「はくい」だとお医者さんが来ている白いアレになっちゃうのか。
Theme:読書感想 | Genre:本・雑誌 |
Category:星4つ:★★★★☆ | Comment(0) | Trackback(0) | top↑ |
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