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『黒衣の女』感想:★★★☆☆

2012.12.12 Wed


黒衣の女 (ハヤカワ文庫NV―モダンホラー・セレクション)

スーザン ヒル 早川書房 1987-06
売り上げランキング : 319005
by ヨメレバ



 いかにもイギリス女流作家の作品と言った趣き。
 霧に包まれるロンドン、クリスマスの情景、ヒースの花咲く荒れ地、忠実なる犬なんて要素がそう感じさせるのだろうか。
 ホラーではあるが血みどろの殺戮が起こるわけでは全くなく、べったりとした怨念、それも主人公にはどうしようもない、が濡れた長髪のように絡みついて彼の人生を変えてしまう、そんな湿度の高い物語。



 小説は郊外の暖炉を囲む一家の描写から始まる。時期はクリスマス。
 主人公のアーサー・キップスは弁護士であり、長年の仕事ぶりが認められ今や弁護士事務所の共同経営者となっている。
 彼は再婚した妻と、妻の連れ子である四人の子供たちと共にクリスマスを祝っていた。だが冬は怪談の季節でもある。
 子供達は己の話術を見せつけるように、交互に知る限りの怖い話を身振り手振りを交えて語り始める。そしてその後にアーサーにせがんだ。
「お父さんも何か怖い話をしてよ」
 それは悪意も何もない単なるお願いだったのだが、その瞬間にアーサーが克服したはずだった過去の忌まわしい恐怖が彼の中で弾けた。
 平気だと思っていたのに、つい先ほどまでは。もはやあの恐怖は過ぎ去り、今はただの過去でしかないと思っていたのに。

 耐えきれずに強い言葉で子供達を突き放し、団らんの空間から飛び出してしまったアーサー。
 このままでは過去に囚われたまま一歩も進めないと覚悟を決めた彼は、過去の暗い出来事と決着を付けるべく、一人机に向かう。書くことで悪魔払いを行うのだ。
 アーサーが書き記すのは、まだ若く希望に満ちていた彼を見舞った理不尽な日々。そして彼と彼の人生に大きな打撃を与えた、黒衣の女の姿。
 読者はアーサーの書き記す過去を、彼と一緒に追体験することとなる。








 暖炉ではぜる火。愛しい子供達。暖かな部屋で行う、たわいもない怪談話。
 それが一転し、アーサーの暗く不快な記憶があぶり出される構成は見事。
 一大決心の末に過去を綴る彼の今の姿と、当時の若い彼の二つの姿がオーバーラップするのも良い。
 仕事のおかげで霧に呑まれたロンドンを離れ、訪れた田舎町の素朴な姿。その平和さとのどかさにアーサーは満足を覚え、更に、潮の満ち引きの関係で、ある時間帯しか通ることの出来ぬ道の先に立つ仕事の舞台となる館にも好印象を抱くのだ、最初は。
 けれども小さな街で出会った人々はアーサーに肝心な何かを語ってはくれず、そして参列した寂しい葬儀で見かけた黒衣の女に、同じく参列した街の同業者は異常なまでに動揺する。
 募る不安、語られない真実、悪い想像と、若さ故の傲慢さ。
 全てを知ったアーサーにもたらされる一撃の痛烈さと理不尽さは後を引く。

 アーサーはまだ良い。彼は所詮はロンドンの人間だ。
 けれどあの街にて、黒衣の女と何十年も共存してきた人々の胸中はいかばかりか。あの館であの女から悪意を向けられ続けたであろうドラブロウ夫人の生活はどんなものだったのだろう。
 アーサーが語り得ない部分にこそ、想像力が働いてしまい、やるせない。
 黒衣の女がアーサーの後にどうなったのかも分からない。分からない、語られないからこそ、与えられる情報の少なさ故に、この物語は読者の手の上に重みを感じさせる。



 とは言え、アーサーが館であそこまで怯えた理由を綺麗に飲み込めない関係で星の数は控えめ。
 丁寧に練り込まれた作品なのは確かだが、決定的なインパクトには欠けるかな。

ジャンル別:ホラー|レーベル別:ハヤカワ文庫
より詳しくは右カラムのカテゴリから選択してください。


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 映画化に合わせて(?)新装版が出ていたりします。

黒衣の女 ある亡霊の物語〔新装版〕 (ハヤカワ文庫NV)


 あくまでも新装版であって新訳ではないようだ。立ち読みした感じでは、巻末の解説は一新されてたような。

Theme:読書メモ | Genre:本・雑誌 |
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