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『サラゴサ手稿』感想:★★★★★

2011.06.17 Fri
世界幻想文学大系〈第19巻〉サラゴサ手稿 (1980年)
世界幻想文学大系〈第19巻〉サラゴサ手稿 (1980年)荒俣 宏 紀田 順一郎 J.ポトツキ

国書刊行会 1980-09
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 翻訳者は工藤幸雄。
 「好きだー! 結婚してくれー!!」とか何とか意味不明なことを絶叫したいほどに面白かったです、真面目に。君に出会えて良かった、ってのは誰の歌の歌詞だっけか。
 ただ、「何がどう面白いのよ?」と聞かれると答えに困るのも事実。うーん、何が面白いのかなコレ。一言ではなんとも説明しにくいなぁ。


 『サラゴサ手稿』はポーランドの大貴族ポトツキの作品。
 最初の序の書き手はかつてのフランス軍士官。彼がサラゴサ包囲に参加した際に、イスパニア語で書かれた手稿を発見する。イスパニア語に堪能ではない彼ではあったが、それでもその手稿の素晴らしさは分かった。後に彼は手稿の正当な持ち主から許可を得て、それをフランス語に翻訳することに成功する。以下に記すのはその翻訳後の文章である。
 と、そんな前振りから始まるのが全六十六日分の手稿。ただこの国書刊行会から出ている『サラゴサ手稿』は十四日分だけ。生殺し感が半端無いでごさいます。

 無駄に長くなるので、ここで一旦折りたたみ。





 手稿の語り手はアルフォンス。この時点でフランス士官がフランス語に訳したアルフォンスの物語と既に二重なのだが、それに更にアルフォンスの聞く他者の話が挿入され、入れ子状の物語はその箱の数を増やしていく。
 その主人公のアルフォンスは、アンダルシアとマンシアを隔てるシエナ・モレナ山脈を越えようとしていた。当時この嶮しい山に住まうのは犯罪者かジプシーくらいのものであり、かつては存在した宿屋ももはや登山口の一軒を残すのみである。なにせこの地域は悪魔に乗っ取られたとまで噂されており、まともな人間には定住など出来ないのである。
 唯一残る宿屋の亭主は親切にもアルフォンスに違う道を選ぶように勧めるのだが、若きアルフォンスはその声を振り切って山越えを目指す。だが、山道を辿り始めてすぐに、二人の従者は忽然と消え失せた。アルフォンスが見下ろせば、谷間にはゾト兄弟の弟二人をぶら下げた絞首台。この二人の屍体には奇妙な噂があった。なんでも、夜ごとに首つり台から降りては、生を謳歌する娑婆の人間に悪事をしでかすと言うのである。それもその被害に遭う人間は引きも切らず、彼らは「吸血鬼」だと信じられるに至っているのだ。
 しかしそんな噂に動揺もせず、アルフォンスは一人山道を進み続け、かつて宿であった棄てられたペンタ・ケマダに辿り着く。空っぽの建物に辛うじて残った粗末な寝台で眠るアルフォンスの耳に届くのは、十二時を打つ時計の鐘の音。それは彼に悪魔の支配する真夜中の到来を告げていた。
 そこに現われるのは美しい黒人女。彼女に案内されたアルフォンスが出会うのは、美しい姉妹。だがこの二人はキリスト教を信じるアルフォンスとは違い、イスラムを信じる異教徒なのであった。美しい二人から夫にと望まれ、夢の中で姿態を尽くしたアルフォンスが目覚めれば、そこは昨日見下ろしたゾト兄弟の弟二人の絞首台。アルフォンスは首吊り屍体二人と仲良く、絞首台の下で川の字を書いて寝ていたのであった。
 と、ここまでが一日目。
 
 物語はこの後もこんな感じで続く。
 美しい異教徒の姉妹、隠者、悪魔憑きの男、ジプシーの長老云々が登場し、彼らは彼らの立場からアルフォンスに己の話をする。それらは時に対立し、矛盾する。真実は何なのか、嘘をついているのは誰なのか。物語に纏わり付く「吸血鬼」の影が全てを幻想の雰囲気に包み、読み手である私は惑わされるばかりである。吸血鬼と言われるゾトの首つり弟二人、異教徒の美しい姉妹二人、この数の一致は何を意味するのだろうか。
 呻く私を尻目に、物語の主人公アルフォンスは動ぜずに思考を重ねる。困惑の真っ直中にあっても彼は現実を信じ、理論的な答えを求めて考え続ける。
 たった十四日分しかない本書においてすら、騙されてなのか悪魔の仕業なのかは知らねど、何度かアルフォンスは「朝起きたら絞首台の下で屍体と川の字」状態に見舞われ、読者である私としては「また絞首台なんじゃ?」とドキドキするのだが、しかしアルフォンス本人もまた作中で「またもや、二人の首吊り男のあいだで目をさまさねばならぬのか」(p.228)と危惧していたりするのだ。なんという客観性。なのに彼を取り巻くのは幾重もの幻想。
 アルフォンスは無事にシエナ・モレナを越えられるのか? とヤキモキさせつつ、『サラゴサ手稿』は無情にも十四日分で終了する。
 生殺しー、生殺しぃぃぃぃ。
 カバリストが作中で語る以下の内容が答えを示唆しているんじゃないかなーと予想してはいるんですけどね。
例えば吸血鬼、これはわたしに言わせれば、まだ新しいものです。これには二種類があると考えられる。一つはハンガリーやポーランドの吸血鬼、こちらは夜ごと墓を抜け出して人間の生き血を吸う、そのもの自身は死体です、もう一つはイスパニアの吸血鬼、この方はもともと悪霊ですが、人間の死体を見つけると、それに乗り憑り、自由自在、さまざまな姿に変えて……(p.225)

 この物語は元々はイスパニア語で書かれていた、って設定なのだし、吸血鬼は吸血鬼でも後者のイスパニア型なんだろう。きっと。
 で、答え合わせしたいので早く全訳をですね……。翻訳自体は終わっているらしいのに、一向に出版されませんなぁ。
 
 ここで最初の問いに戻る。何がそんなに面白いのよ、との問いである。
 色々と考えてみたのだけれど、アルフォンスが目覚めればそこは絞首台の下、なスゴロクで例えれば「最初に戻る」がいつ起こるか分からない緊張感に、漂う夢と現の境界線の危うさ。それにこの入れ子状の物語構造が本書の魅力なのかなー、ってのが私のいっぱいいっぱいの解答でございます。
 しかし、読書とは「作家が描いた架空の人物が生活する世界を現実社会の私が読む」ことであり、それだけで一種の入れ子状の構造を持っているのであるから、『サラゴサ手稿』の面白さはそのままイコールで読書の楽しさを示しているようにも思える。
 ……とか言うと、誉めすぎかしら。




 ちなみに、『サラゴサ手稿』の五十三日だけは『東欧怪談集 (河出文庫)』に収録されております。
 絶版ですけどね。

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どちらも読めません・・

この本読みたい・・読まれた春色さんがうらやましいです。
近隣の図書館には所蔵していない様子・・残念。
それにしても国書刊行会の本、魅力あるものばかりですなぁ。

また「屍衣の花嫁」平井呈一の一冊(!)についても・・。
この本について「・・この全集は古書価も高く、新書版函入という個性的な造本・・実物を手にとって見る機会も少ないと思われる・・」と、
かなりの稀少本であることが紹介されてありました(平井呈一「真夜中の檻」の解説)。
・・こちらなんかはもう、一生読めん気がするなぁ。
6gL8X1vM | nao | URL | 2011.06.17(Fri) 22:37:52 | [EDIT] | top↑ |

naoさん、初めまして。
コメントありがとうございます。

 気になって調べてみたら、『サラゴサ手稿』はウチの市の図書館では全滅でした。
 私は幸運なことに近所にある大学図書館(申し込めば一般の人でも利用可)で借りたのですが、結局気に入って購入してしまいました。
 評判も上々だし、それなりに有名な本のはずなので、市に1冊くらいあっても良い気もしますがねー。

 『屍衣の花嫁』はその収録作がこの本でしか読めないと聞いて、ネットで見つけて即購入した1冊です。
 Amazonでの価格は高すぎで、現在ではネット上でそれなりに見かけるようになっていると思います。現に私も苦労せずに買えましたし。
 最近はネットのおかげで、古書探しも随分と楽になったものです。しみじみ。
- | 春色 | URL | 2011.06.17(Fri) 23:52:28 | [EDIT] | top↑ |

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