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『ファウスト博士』感想:★★★★★

2012.10.22 Mon


ファウスト博士(上) (岩波文庫 赤 434-4)

トーマス・マン 岩波書店 1974-06-17
売り上げランキング : 234176
by ヨメレバ


 読んだのは、岩波文庫で上・中・下の三分冊になっているもの。2012年の7月に復刊されている。
 だらだらと長い時間をかけてようやっと読み終わった。

 ここまで時間が掛かったのは、この物語がどこもかしこも面白くないからではなく、トーマス・マンの、そして物語中ではゼレヌスが綴る文章が数多の支流を持っており、河岸工事が施された安全で流れが一方の方向にしか流れないシンプルな大河としてではなく、脱線し小さな川となり渦を巻いたかと思えば本流に再会するかの如き、一筋縄とは行かない構造を持っているせいだ。

 確かに音楽家であるアドリアンの伝記との形をとるのだから当然とは言え、延々と語られる音楽論には興味がそそられないし、展開されるドイツ論にも同意しかねるしで、早くアドリアンの物語そのものを綴ってよと思うことも多かったのだが、退屈に思えた一つの場面はずっと後になって続きが語られ、途中には何度も何度も未来(この「伝記」を書いている時点でのゼレヌスには既に「過去」なのだが)に起こる事態を予告する手法のおかげで、何だかんだいいつつも最後まで読み終わることが出来た。

 この脱落を阻止する手腕の上手さは、流石はトーマス・マンと言ったところ。
 ただ登場人物の多さには何ともかんとも。
 元々からして私が固有名詞を覚えるのがとても苦手なのも合わさってサッパリ覚えられず、「おや新顔さんだ、初めまして」と微笑んで手を差し出したら、「いや、僕、既に何度も登場しているんですけど、ご記憶にない?」と返される事態が多々あった。








 小説は第二次世界大戦末期、敗色が隠せなくなりつつあるドイツのある片田舎カイゼルアッシェルンで開幕する。
 ナチス主義を嫌い、その聖で今や教職からも退いた老ゼレヌス・ツァイトブロームは、書斎に引き篭もっては、既に失って久しい友アドリアン・レーベルキューンの伝記を書き始めていた。
 アドリアンとゼレヌスは第一次世界大戦の前に生まれ、第一次世界大戦を通じて生き、そしてアドリアンは第二次世界大戦を知らずに死んだ。
 アドリアンの壮年期の背景となる第一次世界大戦と、ゼレヌスが今生きる第二次世界大戦とが並行に語られ、そして時折混じり合いながら、ゼレヌスの手によって語られていく。

 ゼレヌスはアドリアンとは異なる個性と好みを持つ人物でありながら、同時に彼の影であり彼の分身であり、彼その人となる。
 ゼレヌスは彼が見たはずのない出来事をも、さも自分の目で見たかのように語る。
 祝福すべき凡人であるゼレヌスは、神に愛され様々な才覚を持って生まれつつもその性格から破滅を選び、悪魔の手を取っては己の選んだ生を走り抜けたアドリアンを見守り、見送る。

 今日のような困難な時代にあっては芸術には悪魔の手助けが必要だ、とアドリアンは言う。
 ここで立ち現れるのは、「ファウストは死ぬべきか?」との問いかけと、「ファウストを悪魔に差し出したのは誰か」との疑問だ。

 ゲーテは己のファウストを最後に於いて救った。それも、彼が罪を負わせた清らかだった娘の慈悲によって。
 それ以前のファウストは神を信じられずに、死ぬ。地獄に落ちる。
 だがゲーテのファウストには救われるがための保留が一つある。それは彼に悪魔を引き合わせたのは、神その人だったという点だ。
 対して、その他のファウストは己の意思で己の手で、悪魔メフィストフェレスを呼び出す。だからこそ、彼らは己の罪に戦き、神の手を求めず、零れゆく最後の命の時砂を前に覚悟して寝室に立てこもるのだろう。


 本作のファウストたるアドリアンはどうかと言えば、これが微妙だ。
 彼は音楽のために悪魔と契約を交わすが、しかしその契約はアドリアンの認証を受ける前から既に成立しているのだ。彼はそれを追認するにすぎない。
 悪魔は人間よりも狡猾だ。密やかにその毒息を吹きかけ弱らせ、偶然を装って獲物を罠にかける。
 そして契約書を書かせては時間を売りつけ、その商売が終わった瞬間に悪魔は己の欲するものを無慈悲に掻っ攫って行くのだ。

 ゼレヌスが尊敬し崇拝するアドリアン。他人に依存せず、どこか冷たい眼差しを持つ独立した人。そう見えて彼は悪魔の契約の影で、人間的な欲望に何度もよろめいていたのだ。
 その度に冷酷なる悪魔は彼に罰を下し、彼の親愛なる相手に罪を償わせた。
 怜悧な姿しか見せなかったアドリアンが、悪魔との契約期間の最後の一瞬に吐露するそれらの心情は実に悲しく切ない。
 彼もまた、一人の人間にすぎなかったのだ。そして悪魔は彼を攫っていく。

 ファウストは死ぬべきだ。そして己の契約の報いを受けねばならぬ。
 だがアドリアンは一人ではなかった。ゼレヌスを筆頭に、彼を見上げる眼差しがあった。そして彼は音楽を残すことが出来た。
 たった一人立てこもった寝室で、悪魔にその体ごと引き裂かれのとは異なる死を迎えたアドリアンに、その事実が救いだったのかどうかは、分からないが。


 <<われとともに目覚めてあれ!>>――アドリアンはこの作品において神人キリストの苦難のこの言葉を、おそらく孤独でより男性的なもの、すなわち彼のファウストの<<落ち着いて眠ってほしい、そして何にも気をとめないでもらいたい!>>という言葉に変えたのであろう、――しかし人間的なものは、助力を求めるのではなくても同じ人間に一緒にいてほしいという衝動的な欲求は、<<私を見捨てないでくれ! 私の最期のときに近くにいてくれ!>>という懇願は、やはり残っているのである。(p.249, 下巻)



テーマ別:悪魔|テーマ別:ファウスト
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ファウスト博士(中) (岩波文庫 赤 434-5) ファウスト博士 下 (岩波文庫 赤 434-6)





 復刊してたの、『ファウスト博士』……。さっき知ったよ。
 私なんてわざわざ古本を定価以上の値段出して買っちゃったんですけど。これが過去の復刊特別装幀ならまだ良かったのにさ。
 まぁ、復刊したとは言え、既に在庫は僅少だそうなので、欲しい方はお早めに。

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