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DVDオペラ・コレクション26『ファウスト』感想:★★★★☆

2012.10.10 Wed




 ベルリオーズの『ファウスト』に続いて、シャルル・グノーの『ファウスト』を。
 グノーのこちらもゲーテの『ファウスト』を原作としているものの、マルグリート(マルガレーテ)の悲劇で終わる第一部のみを対象としている。
 今回DVD2枚組みに収められているのは、ウィーン国立歌劇場で行われた1985年の公演らしい。
 一緒についてくる薄い冊子には、解説とDVDに収録されているオペラのチャプター毎の説明が付いており、便利。凄まじいネタバレっぷりだが、オペラは最初からストーリーを知った上で楽しむものらしいので、たぶん誰も気にしないのだろう。

 DVDに収録されている公演では、ファウスト(テノール)にフランシスコ・アライサ、メフィストフェレ(バス)にルッジェーロ・ライモンディ、マルグリート(ソプラノ)にガブリエラ・ベニャチコヴァー、ヴァランタン(バリトン)にウォルトン・グレンロースが扮し、そしてグノー版『ファウスト』オリジナルの登場人物シーベル(ソプラノ)にガブリエレ・シーマを配している。

 このズボン役のシーベルが一途で可愛いのなんの。それに何よりメフィストフェレがカッコいい!
 マルグリートを演じるベニャチコヴァーは85年の時点で既に若いとは言いがたいものの、純粋で無垢な印象を纏うことに成功していて、なかなか良い。

 本来は5幕のグノー『ファウスト』ながら、今回収録されているのは「ワルプルギスの夜」を省き3幕に編成したもの。
 幕間に客席が映る上に、合間合間には拍手やブラボーの声が飛び交ったりもするので、いっそのこと自分も客席に座っているつもりになりきるべく、部屋を暗くしてみたところ、これが割と面白い。
 ただし85年の映像なので、画質はそれなり。

 舞台装置は色々と用意されており豪華ながらも私が以前見たベルリオーズの『ファウスト』の「サイロ」の如き大掛かりなものがある訳ではないのだが、ケン・ラッセルの即物的な分かりやすい演出のおかげで気楽に見られる。
 「ワルプルギスの夜」は省略されてしまっているものの、バレエが印象的に使われていて華やかさを添えている。


 ゲーテの原作との違いとして、シーベルが追加されている。彼はマルグリートを一途に思う少年。
 またマルグリートの母親は既に亡くなっている設定になっている。つまり兄ヴァランタンが出征してしまえば、ファウストにとっての障害はゼロになる。
 更に今回の演出として、マルグリートは尼僧に。

 文章が長くなってきたので、ここで折りたたみ。以下はネタバレ注意。








 ざわめく客席の映像からDVDはスタートする。
 指揮者が登場し、そして始まる演奏。舞台上では老ファウスト博士。背後に望遠鏡が置かれているのににやにやする。魔術師たるもの、天文博士じゃなくっちゃね。
 老いさらばえたファウストの前に、墓堀人が運んできたのは死体。
 どうやらこのファウスト博士、死体の蘇り実験に手を染めているようだ。死体は一時蘇生したように見えたものの、すぐに物言わぬ物体へと戻ってしまった。今回もまた失敗したのだ。
 墓堀人たちはファウストから金をせしめて去っていく。なんともソクーロフ監督の映画『ファウスト』を思い出す場面だ。あちらは死体から生命の秘密を知るべく解剖していたのに対して、こちらのファウストは死体に生命を取り戻させようと足掻いている点で全く対照的だが。

 人生を掛けた学問が報われぬことを嘆き悲しむファウスト。どれほどの学問を修めようとも、一向に癒えることのないこの無知!
 全てに絶望した彼は先祖代々伝わる杯で毒薬を呷って死ぬことを臨む。
 けれども、手は振るえて言うことを聞いてはくれない。更には外から聞こえる輝かしい歌声が、彼の決心を揺るがすのだった。
 それでもファウストは唾棄する。己の限界を。この世の麗しさを。

呪われよ 人間の欲望!
呪われよ 私をこの世に縛る鎖!
呪われよ われらを欺くすべてのもの!
時とともにうつろう むなしい希望!
愛の夢 戦いの夢!
呪われよ 幸福! 呪われよ 学問!


 善なるものに異議を申し立てる無謀な者の前にこそ我らは現れるのだ、と言ったのはどこのメフィストフェレスだったか忘れてしまったが、我らが呪わしいファウスト博士の前にメフィストフェレは出現する。
 ……またこれが、かっこいいの何の。
 老ファウストに対して、しゃっきりしたお洒落なメフィストフェレが凄い良い。
 思わず画面の前でガッツポーズを取る私を置いて、ファウストは突如現れた悪魔に怯える。

 だが、メフィストフェレが望みを叶えてくれると知った途端に、ファウストは学問なんぞ忘れて若さと愛とを渇望し始め、興奮のあまりふらつく有様。此度のファウストさんは俗物です。
 けれどふと不安になるファウスト。悪魔に望みを叶えて貰う対価は何か?

この世では 私が君の言いなりになる
だがあの世では
君が私の言いなりだ



 思わず躊躇するファウストだが、メフィストフェレの見せた美しい娘の姿、マルグリートの幻影に心奪われ、己の血で契約書にサインを認めてしまう。
 メフィストフェレはファウストが求めた一方のもの、若さ、を叶えてやるべく、薬を飲ませる。
 この薬の作用によって若返ったファウストは、先ほど目にした美しい娘を求めて、陰気くさい彼の研究室から立ち去るのだった。



 場面は変わって舞台の上には陽気な兵士たち。その中にマルグリートの兄ヴァランタンの姿も見える。
 ヴァランタンは出征するにあたって、妹マルグリートのことが気に掛かる。母も亡くなった今、身寄りはお互いだけ。
 だがシーベルは「大丈夫」だよと請け負う。それにマルグリートは今は尼僧の身なのだ。悪徳も彼女には忍び寄れないだろうとヴァランタンは考える。

 ここで挿入されるマルグリートの修道院入りの儀式が本格的で驚く。
 髪を切り、司祭から祝福(?)を受け云々の様子が静々と進んでいく。

 出征を前にして騒ぐ兵士たちの中に、メフィストフェレがいきなり登場。
 自分にも歌を歌わせてくれと割って入った悪魔が歌うのは、「金の仔牛の歌」。金こそ全て!
 舞台に登場する金の牛の頭や、その目がスロットマシーンになっているあたり、実に分かりやすくて良い。
 ワインをご馳走してやろうと調子にのるメフィストフェレは、キリスト像のわき腹を剣で突き、その傷口から赤いワインを流れ出させる。
 が、羽目を外しすぎたメフィストフェレはその正体が悪魔であると露見してしまう。

 剣の代わりに十字架を突きつけられるメフィストフェレ。追い詰められて退散……かと思いきや、チョコレートで出来た十字架を齧るなんて、意外と余裕。
 一方のファウストは、メフィストフェレを「あの美しい娘はどこだ」と責める。
 愛と官能を欲するその姿は、俗物を通り越して悪役。彼のために頑張るメフィストフェレが若干可哀想になる。

 ファウストの望みどおり、メフィストフェレは二人を引き合わせるが、清廉なマルグリートは断る。
 その謙虚な様にむしろ盛り上がるのはファウスト。マルグリートの方でもファウストのことが気に掛かる。
 と、このシーンはゲーテの原作に準拠。
 以上が第一幕。



 幕が上がって第二幕。
 原作には存在しないシーベルが登場。
 彼は愛しいマルグリートのために花束を作るのだが、メフィストフェレの邪魔立てによって花はすぐに枯れてしまう。
 だが一計を案じたシーベルが聖水に浸した手で花束を作ると、これには流石のメフィストフェレも手が出ない。
 彼はその花束をいつもマルグリートが通る場所に置いて去るのだった。
 ……ううん、シーベルが可愛らしい。マルグリートを一途に思うものの、その感情はどこまでもピュアで、官能を求めるファウストと鮮やかな対比を見せている。

 シーベルの花束に対抗すべく、メフィストフェレは宝石箱を用意する。
 もしも彼女が宝石箱ではなく花束を選んだのならば、その純粋さには悪魔も手が出せないとメフィトフェレは危惧する。
 が、彼の心配は杞憂に終わり、マルグリートは宝石箱に魅せられる。箱の中から登場するバレリーナたちの踊りが美しい。
 ただ、悪魔が用意した贈り物なのに、ごく普通に十字架が出てくるのはどうしてなんだ。

 宝石箱を不審に思う隣人マルテの前に、メフィストフェレスが彼女の夫の死を伝えるためと称して登場。
 未亡人となった彼女を誘惑し、マルグリートと引き離す。
 その隙にマルグリートに近づくファウスト。マルテとメフィストフェレ、マルグリートとファウストの2組のカップルの合唱は何とも滑稽で真剣だ。
 マルグリートの花占いなども、ゲーテ『ファウスト』とほぼ同じ。
 原作では何とも思わなかったこの花占いのシーンなのに、今回は妙にマルグリートが可愛く思えて画面の前でじたばたしてしまった。
 そんな可憐なマルグリートにファウストも夢中になり、そしてマルグリートも彼の愛情を受け入れてしまうのでした。

もっと話して!
私はあなたのもの あなたが好き!
あなたのために死にたい!
話して もっと話して!




 DVD2枚目に突入して第三幕。

 幸せな時間は短かったらしく、ファウストは何故かマルグリートを置いて失踪。彼女の手元には、彼との子供が残る。
 修道女にも関わらず子供を、それもどこの馬の骨とも知れぬ男の子供を生んだ上に、更にその男に捨てられたマルグリートに街の人々は冷たい。
 それでも変わらずに接してくれるのは、シーベルだけ。何て良い子なんだシーベル。

でも、神さまはご存じ
私は恥知らずじゃなかった……
私の魂を導いたのは
やさしい愛情だけだった!


 そんな矢先に、戦争が終結。出征していたヴァランタンが帰ってくる。
 綺麗だった軍服は汚れ、怪我をした仲間もいれば死んだものもいる。
 そんな中で、生きて無事に戻ってきたヴァランタンが見たのは、不義の子を産んだ上に男にも捨てられた妹マルグリートの姿。
 この構図を茶化すメフィストフェレは絶好調だ。

接吻をあげてはいけないよ
指輪を指にはめるまでは!
は は は!


 この笑い声部分がとても良い。この「メフィストフェレのセレナーデ」が私は一番好きだ。

 メフィストフェレが嘲笑う中、いきり立ったヴァランタンが妹を不幸にした男、ファウスト、に決闘を申し込む。
 ここで歌われるヴァランタン、ファウスト、メフィストフェレスの男ばかりの三重奏もまた良い。

後悔するよ 後悔するよ…


 躊躇するファウスト、けれどメフィストフェレに背中を押されて、いざ決闘。
 一対一とは言えない状況が情けないものの、ファウストの決心の早さには少し感動。
 さてさて、その結果はと言えば、ご存知の通り、マルグリートの罪は兄ヴァランタンの血をも要求したのだった。

 倒れ付したヴァランタンを置いて逃げ出す二人。
 街の人間が異変に気が付きヴァランタンを囲む中、マルグリートも兄の悲劇を知る。
 今際の際にも、妹を責めるヴァランタン。

行け! 恥がお前を押しつぶし
後悔がおまえの後を追う!
だが時は来る!
死ね! 神がおまえを許しても
この世では呪われてあれ!


 街の住人に「許しておやりよ。他人を許すことが出来る人のみが、許されるんだから」と窘められるが、ヴァランタンの意思は変わらぬまま。
 勇気ある兵士としてまっすぐに生きたヴァランタンはきっと間違ったことがなく、故に他人の間違いに寛容にはなれないのだろう。
 それにマルグリートを罪へと導いたのは、本当に「やさしい愛情だけ」だったのか。



 己のしでかした罪の大きさにおののくマルグリートは、教会で神に祈る。
 だがそこに現れたのは、教皇の如きいでたちのメフィストフェレ。彼はマルグリートを責める、責める。
 司教も修道女も街の人々も、シーベルさえも彼女を責め立てる。
 恐らくは全てはメフィストフェレとその仲間たちの仕業なのだが、そんなこととは知らぬマルグリートはついに心を病み、我が子に手をかけてしまうのだった。

 牢獄に入れられたマルグリート。
 一度は捨てておきながら、ファウストがメフィストフェレの力を借りて、彼女を助けに訪れる。
 逃げようと囁くファウストだが、既に正常ではないマルグリートには届かない。
 彼女が思い出すのは、ファウストと出会った道、幸福な思い出ばかり。それが幸せなものであればあるほどに、現状との落差に心が痛む。

 マルグリートを助け出そうと必死に説得するファウストだが、結局は時間切れ。
 処刑を受け入れたマルグリートは、神によって自分が救われることを信じる。
 私には彼女がどうしてここまで「自分が救われる」と確信しているのかが、分からない。彼女は決して純白なる悲劇のヒロインではなく、咎を持つ身のはずなのに。
 やさいい愛情だろうが悪魔の囁きだろうが、身を持ち崩したのは確かなのに。呪われるのはこの世だけだと、どうして言い切れる?
 けれど、結局は己が救われることを信じられずに自ら神の手を拒絶して破滅するゲーテ以前のファウストとの対比とすれば、納得しなくもない。

 己の罪と弱さを受け入れ、そして神に多大な慈悲を求めながら、彼女は処刑台へと進む。
 断頭台の刃が振り下ろされた、その時。




 そんな訳で、面白かったです。
 ベルリオーズの容赦ないファウスト地獄落ちと比べると手ぬるい感があるし、それにベルリオーズ版のラストに向けての疾走感のような分かりやすいカタルシスはないものの、最後の盛り上がりはなかなか。

 それにグノー版の『ファウスト』はどの役柄にもそれぞれ歌が割り振られていて、ちゃんと見せ場があるのが良い。
 可愛いシーベルは一貫して可愛らしいし、堅物なヴァランタンもブレないし。大人数の合唱も見事。
 ファウストはほどよく情けないし、なんだか俗物だし、マルグリートはちゃんと可憐に見えるし。それに二人の絡み合いは下品になりすぎない程度に官能的だしね。
 そしてなによりもメフィストフェレがかっこいい! この悪魔こそが全ての原因のはずなのに、十字架を突きつけられよろめいたりとどこか憎めない。

 「全部で3時間か……、長い、長いよ」と思ったのも最初だけで、演出の分かりやすさもあって、あっという間に見終わってしまったのでした。


テーマ別:ファウスト|覚え書き(本に纏わるあれこれ):オペラ感想
より詳しくは右カラムのカテゴリから選択してください。


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 「オペラだなんて敷居が高いよ。『巨匠とマルガリータ』のために、見るけどさぁ」とも思っていたものの、見てみるとごく普通に面白い。
 「メフィストフェレスがかっこいい」なんて俗物根性丸出しな一点だけでも、最後まで走り抜けることが可能だとは思っていなかったよ。

 せっかくだから他にもDVDで見てみようかな、オペラ。原作関係なく、有名どころのを。
 あの「凱旋行進曲」が登場する『アイーダ』にでも挑戦してみるか。「凱旋行進曲」はトランペットもだけれど、ホルンがかっこいい。
 当時フルートを吹いていた私には出番が全くなかった記憶があるけれど。

 他に「剣の舞」も好きなんだけど、これは調べてみるとバレエ『ガイーヌ』の曲なのね。
 バレエは流石に……、ちょっと。いや、挑戦くらいはしてみるべきだろうか。


 ちなみに、オペラを見るきっかけとなった『巨匠とマルガリータ』への疑問はさっぱり解けていないが、もう良いや。

Theme:クラシック | Genre:音楽 |
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no subject

はじめまして。
私はオペラに詳しいわけではありませんが、ケン・ラッセルもこの『ファウスト』も好きです。
『ホフマン物語』にも男装の女性が出てきますが、脚本家が同じなのですよね。
WGv/JGO2 | BD | URL | 2012.10.15(Mon) 22:28:38 | [EDIT] | top↑ |

Re: no subject

BDさん、はじめまして。
コメントありがとうございます。

 ケン・ラッセルは映画監督なのですよね。ほどよい案配の演出だったので、彼の撮った映画も観たくなりました。
 『ホフマン物語』も気になっているものの、DVDだけでも数多出ていてどれが良いのかなぁと悩み中です。

- | 春色 | URL | 2012.10.16(Tue) 22:09:51 | [EDIT] | top↑ |

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