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『鏡 科学的伝説についての試論、啓示・SF・まやかし(バルトルシャイティス著作集4)』感想:★★★★☆‏

2012.10.02 Tue


鏡 バルトルシャイティス著作集(4)

ユルギス バルトルシャイティス 国書刊行会 1994-12
売り上げランキング : 702799
by ヨメレバ


 途中から、花粉症のせいで「下を向いたら死ぬ(鼻水的な意味で)」状態の中で読む羽目になった、バルトルシャイティスの『鏡』をようやく読み終えた。

 内容はタイトル通り「鏡」をテーマに、ヨーロッパを舞台に紀元前から現代までを縦横無尽に横切りながら、「鏡」の持つ魅力とそれが喚起するイメージ、ありのままの真実を映す「鏡」または真実をゆがめて嘘だけを映し人を騙す「鏡」を語り、人間が「鏡」をどう見つめたか、そこに何を見ようとしたのかを記した書。
 特別結論じみたものは存在せず、変化自在な万華鏡を覗くかの如きめくるめく想像力と理性の一冊。


 感想としては3つ。
 1.頭の良い人ってこういう話し方するよね。
 2.物理的に重たすぎるから電子書籍にしようよ! 図版も好きに拡大出来て便利だろうし。
 3.「伝説」に復活の余地を与えるな。殺せ。ゾンビ化断固反対。


 2は実際に持ってみれば分かるが、妙にこの本は重たい。角張ってもいるので、読んでいると節々が痛くなってくる。
 こういう本こそ電子書籍にすると良いんじゃないかな。写真や図ももっと詳細なのを載せられるよ。
 って確実に赤字になるから、誰もやらないよね分かります。

 1に関しては、本書では語り手たるバルトルシャイティスは決して親切なガイドとは言えず、最低限のパンくずしか残してくれていない。
 点々と落ちているそれを手がかりに、彼の歩む道を追うのは辛い。他の本で鏡にまつわる情報を仕入れていたからまだ何とか落第せずに済んだけれど、それでも途中でドロップアウトしかけまくったよ。
 ただ豊かに飛翔する姿は実に見事で、その様を見られるならば全身筋肉痛になりながらも付いていくだけの価値はある。逆に理解出来なかった時の疲労感が凄い。
 パンくずの落とし方にはやはりある程度の規則性のようなものがあり、最初は面食らっても我慢して黙々と歩き続ければ、その内にコツを掴んで難易度は下がるのだけれど、そこまで行くのがまた辛い。








 最後の3が個人的には一番強烈。
 まず前提として、何事も変化していくものだと私は信じているわけでして、しかもそれは不可逆的なものだと思っている。
 そして更に思考する人間というものは、先達が成し遂げた到達点を足がかりに更なる進化を目指すように刷りこまれており、おのれの成果と先達の成果を見比べては、己がどれだけ歩けたかを誇るものだと思っている。
 先輩の最後の足跡と、自分の立つ位置との距離こそが、私の「成績」になる。例えそれが僅かなものであろうとも、先達との違いを強調し、差異と新規性を喚くものだと、私は定義している。

 謂わばそれは地層的なモデル。
 過去の人々からバトンを受け取って(あるいは勝手に拾い上げて)は走り出し、同輩たちとの競争の果てにいつか年老いて倒れ、手から転げ落ちたバトンをまた新しい世代が拾ってくれると信じながら彼は死ぬ。
 かつての人々は我々の世代の養分となり、そして我々もまた次なる世代の養分となる。そうして重なっていく。バベルの塔の如く、ある日崩壊する瞬間が来るまで永遠と。

 そんな概念の上に暮らす私にとって、バルトルシャイティスの説く何度でも蘇り影響を与え続ける伝説と化した過去は衝撃的だった。
 分かりやすいのは、アルキメデスの鏡。

 「ローマ艦隊に包囲されたシュラクサイを救うために、アルキメデスは天才的としか言いようのない様々な発明をしたらしい」という言い伝えがそもそもの始まりだった。
 最初は町に接近した艦隊に岩を投げつける装置や、巨大なハンマーを打ち下ろす装置を作ったという説だったのが、ある医者の記述により、艦隊を燃え上がらせる「アルキメデスの鏡」なる発想が彼の伝説に付加される。
 その後、尾ひれは更に細かな設定が付け加えられ真実らしくなり、いつからか伝説と化す。
 伝説を正当化するための試みのせいで逆に胡散臭さが増すこともあれば、単純なる記述ミスにより有効距離の桁数が変化してしまう事態もあったが、伝説は生き延びた。
 結果、長く生きたこの伝説は有名となり、よってこれが確かなのか検証したいとの欲求に駆られた数多の人物が様々な考察を行い続けることとなる。時代の変化と共に考え方も変わり、伝説への信頼性もまた正にも負にも揺れる。
 最終的に十七世紀において、伝説は作り話だとしてデカルトやメルセンヌにより棄却され一件落着、今まで誰も伝説の「アルキメデスの鏡」を作り得た人間はいない、つまりは伝説は嘘あるいは強調されすぎて真実の範囲から転げ落ちたのだ、と落ち着くかと思いきや、それでも伝説は死にきれずにひそやかに生きていたのだった。

 1747年、ビュフォンはデカルトの命題に基づき、15cm×20cmのガラス鏡168枚を用いて集光鏡を作った。
 実験の結果、彼の装置が遠くにある物を燃やすだけの力を有することが証明された。「アルキメデスの鏡」の再来である。
 だがビュフォンは決してアルキメデスの鏡の再現を願った訳ではなかったと述べている。
 彼はただ既に分かっている真実を組み合わせて、より大きなものを作っただけなのだ。それがたまたま古来から有名なアルキメデスの鏡と同一の機能を有することのなっただけだ、と。

 ビュフォン以前の人間は、アルキメデスの鏡を願い、その伝説に基づいて様々な装置を考えた。そして伝説の招来に失敗した。
 ビュフォンは手元にある知識を拡大した装置を作った。それはかのアルキメデスの鏡と同一視される代物だった。
 そうして、ビュフォンもまた彼以前のアルキメデスを追い続けた一連の人々の中に組み入れられることとなる。彼は実際に己の鏡でアルキメデスの伝説の再現を行うことになるのだ。


 なんだかとても喜劇的で悲劇的だと私は思う。
 紀元前三世紀に死んだアルキメデスの説話などに真実性があるか、と問われれば、そんなものはないと私は即答する。それは所詮は伝説で、神話に過ぎない。そんなものを真面目に考えるなんて愚かなことだ。
 だがビュフォンの「発見」は、十八世紀まで生き延びたアルキメデスの伝説に接収されてしまう。
 とてもではないが、納得出来ない。
 どうしてアルキメデスを墓に埋葬しなかったのか、どうしてそんな屍体を後生大事に担ぎ続けたのか、何故砂に還りつつある骨を補修し、あまつさえ活性剤まで与えてゾンビのように生き延びさせたのか、またそれが許されたのかが分からない。
 過去は過去でしかない。無理に延命してはならない。死骸は地面に横たえ、それを土台として常に新しく建築していくべきなのに。


 けれどもバルトルシャイティスは他にもこのような屍体のリバイバルを描いてみせる。
 伝説はいつまでもひそやかに生き延び、時折その存在をひけらかす。何度でも彼らは甦る。しかも現代風に変化して。

 はっきり言って反則だ。けれども、そう感じる私が偏狭すぎるのかもしれない。私の常識が他人の常識とは限らない。私の信じるものは、真実ではないのかもしれない。
 何事も変化などしておらず、全てはただの変奏曲に過ぎないのかもしれない。
 変わるなんて、変わることが出来るなんて、夢でしかないのかもしれない。
 前進も後退もしてはおらず、単に同じ場所で足踏みをし続けているだけなのかもしれない。
 全ては五里霧中。
 私は神様ではないから、これらの不安に答えを出すことが出来ない。そもそもどうして私はこれらを信じたのだろう?
 不安定な不愉快さに苛立つ私は、だから叫んだ。「殺せ」と。「復活させるな」と。まるで否定すればその物事が消えてなくなるかのようにヒステリックに。
 けれど私は認めなくてはならない。その叫び声が大きければ大きいほど、私は不安なのだと。何が確かで何が不確かなのかが分からなくなる。

 鏡に映るのは現実そのものなのか、それとも歪まされた現実なのか? はたまた、鏡に映った真実を、私の歪んだ眼が欺瞞に変えていはいないか。
 確かなことなど何もない。けれどせめて、この不安定さは不安定さのままで、認めたい。


テーマ別:|出版社別:国書刊行会
より詳しくは右カラムのカテゴリから選択してください。


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 翻訳者は頑張ったと思うものの、原注はあんまり……。
 これだと探しにくそうだ。

 二日連続で長文書きすぎて眠い。

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