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『ラブ・ケミストリー』感想:★★☆☆☆

2011.06.15 Wed
ラブ・ケミストリー
ラブ・ケミストリー喜多 喜久

宝島社 2011-03-04
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 第9回『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞受賞作。
 とは言え、ミステリー成分は皆無。少なくとも私には嗅ぎ取れず。
 ミステリーだと思って読んだせいで、肩透かし喰らわされた気分。これはジャンル的にはラブコメディーに分類されるんじゃないのかな。それも「ラブコメだから何でもありですよ!」くらいのノリで読まないと駄目なレベル。
 ま、そのノリで読むには値段が高いけれども……。


 一人称で展開される本書の語り手は二人。
 片方は「僕」。主人公でもある東京大学の院生・藤村桂一郎。絵に描いたような化学馬鹿。しかし単に化学に憑かれただけの馬鹿ではない。彼はなんと、物質の構造式を見るだけでその合成経路を閃くことが出来るという、超絶能力の持ち主なのだ。例え対象が複雑怪奇でドデカイ構造を持とうとも、藤村の能力を阻害は出来ない。どんな構造式であろうとも、それを一目見れば彼の脳内には合成経路が浮かび上がってくるのだ。合成系じゃない人には分かりにくいことこの上ない彼の能力だが、それは紛れもなく神が与えたたもうた奇跡。
 ……ここで思わず、一応は合成系だった私は「ねーよw」と草生やしながら裏手で突っ込み入れてしまいましたよ。なんだそれ。どんなチートだよ。フィクションだと分かっていても、それでも羨ましい通り越してムカつくわー。
 ああ、ご心配なく、作者の懇切丁寧な説明がなされているので、誰が読んでも「意味がサッパリ分かりません」状態にはならないことは保障します。
 この彼の「素晴らしいにも程度があるっつーの」な能力を持ってすれば、今まで誰にも合成出来なかった天然物の合成経路を発見し放題で、論文も書き放題。論文の数は科学者の能力を示す指数なのだから、つまり、科学者としての彼の未来はどこまでも輝いていたのです。そう、その運命の日までは。
 その日、指導教官の雇った美人秘書を紹介された彼は、一瞬にして一方的な恋に落ちる。そしてその瞬間から、彼の能力は失われてしまったのだった。

 語り手のもう片方は「私」。彼女が語り手となるのは各章に挿入された短いダイアローグだけ。
 彼女は死を間近に控えた身であった。その惨い運命を告げるために現われたのは、カロンと名乗る黒服の美女。カロンは、死者がこの世に強いを残すことのないように、死の迫った人間の望みを叶えてやるのが仕事だと言う。
 「私」の願いはだた一つ。奇跡の能力を藤村に取り戻させてあげたい。
 その願いを聞いたカロンは意味深長に微笑みながらも、彼女の望みを叶えるべく、彼に近づくのであった。


 ってのがあらすじ。あらすじって割には長かったけど。
 長いついでに以下は折りたたみ。






 ダイアローグで登場する「私」の正体は、本書終盤まで明かされない。あぁ、書いていてやっと思い至ったけど、もしかしたらこの「私」の正体を読者が推論する部分がミステリー成分なのかもしれない。
 とは言え、中盤くらいで「まさかあの人だったりしないよねー、まさかねー、ハハハ」くらいのノリで予想は出来るのだが。まぁそれでも、京極夏彦の『姑獲鳥の夏』ほど「巫山戯てるの?」感はない。あ、いえ、私好きですよ、京極堂シリーズ。
 この本の良いところはミステリー部分(があるとして)ではなく、合成系学生・藤村の営むリアルな学生生活だ。と言うか、そこしか誉めるところがない。
 廊下の半分どころか階段までもがどこかの研究室の謎の機械に占領されていたり、論文読みながら昼ごはん食べたりなんて、「あるある」過ぎて涙が出る。
 するする読める平易な文章も評価高し。
 が、それを帳消しにして余りあるのが、キャラクターとストーリー。
 キャラクターがあまりにも記号的すぎる。あと一歩二歩踏み込めば「個性的」だとか「魅力的」だとか言えただろうに。
 それでもキャラクターに感情移入しようと努めていたのに、その努力をあざ笑うかのような物語の終わり方。というか、主人公と「私」以外のキャラクターのぶん投げ感。
 あれだけ長く登場した彼女のあっけない退場っぷり&噛ませ犬と言うか踏み台的扱いには思わず三回読み直してしまいました。
 すぐ上にも書いたが、オチ自体は許容範囲なんだよ。なのに他キャラの扱いが酷すぎて、もうどうでもいい気分に。ご都合主義!と叫ぶ気力すら萎えた。
 それにオチまでたどり着くだけで作者がいっぱいいっぱいで、余裕が皆無のように思えるのも何だかなー。エンターテイナーであるはずの娯楽小説の作者に、余裕の笑みがないどころか必死の形相が見えちゃうのはどうなのよ。


 とまぁ、そんなこんなで、個人的にとっても辛口。一言で言えば、作者の手腕が未熟。
 でも合成系学生の「あるある」ネタは評価してますよ。
 ただそれも終盤、主人公・藤村の実験が軌道に乗り始めると途端にリアリティを失ってしまうのが惜しい。
 藤村が行っている実験は現実に誰もまだなし得ていない合成経路であるからには、そこを詳しく書けるはずもないってのは分かる。分かるが、それでも「そんなに実験ホイホイ進むかよ!」と思わず絶叫してしまった。
 既知の化合物で、既に合成経路が論文で発表されてるんなら兎も角、新規なんでしょ。実験そのものはまぁ良いとしても、その後の後処理、精製、NMR測定云々がそのスケジュールで動くものか。
 しかしこの感想は、後処理以後NMRまでの地味で長い仕事の辛さを部外者の友達に説明しようとして何度も撃沈した私の経験と、読みやすい文章が私に「この作者なら部外者にも分かりやすく華麗に説明してくれるかも」と期待させてくれちゃったのが原因なのかもしれない。つまりは私が期待し過ぎたせいなのやも。
 この期待に応えてくれたら、私はきっとどこまでも絶賛したのになー。まぁ勝手な言い分なんですけどね。


 そんな理由で個人的感想としては星2つ評価。
 1つにしなかったのは、理系のあるある部分がそれなりに面白かったからです。
 あとどーでもいいけど、なぜか「アルゴン雰囲気下」が妙にツボに嵌ってしまった。"under argon atomosphere"を訳せばその通りになるし、実際に使う用語なんだけど、なんでだろう。縦書きなところがツボに入ったのかしら。理系書は全部横書きだものね。
 tert-なんて文字を縦書きで読む日が来ようとは予想もしてなかったですよ。
Theme:最近読んだ本 | Genre:本・雑誌 |
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