RSS|archives|admin


<<月が出ない:購入履歴・古本編90 | ホーム | この季節の風物詩:購入履歴・新本編58>>

スポンサーサイト

--.--.-- --
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


Category:スポンサー広告 | Comment(-) | Trackback(-) | top↑ |

劇的物語『ファウストの劫罰』感想:★★★★☆

2012.08.15 Wed


ベルリオーズ:劇的物語「ファウストの劫罰」 Op.24(仏語歌詞) [DVD]

カンブルラン ナクソス・ジャパン 2000-08-01
売り上げランキング : 138904
by ヨメレバ


 ゲーテの『ファウスト』を基にベルリオーズが作曲した劇的物語。オペラではなく劇的物語なのだそうな。
 場面転換が激しいことなどからオペラ形式で上演されることは稀で、コンサート形式で演奏されることの方が多いとのこと。

 私が見たのは1999年8月25日のザルツブルク音楽祭で収録されたシルヴァン・カンブルラン指揮、オルフェオン・ドノスティアラ(合唱団)、テルツ少年合唱団、ベルリン国立歌劇場管弦楽団による上演の録画DVD。
 メインキャストはそれぞれマルガレーテ:ヴェッセリーナ・カサローヴァ、ファウスト:ポール・グローヴズ 、メフィストフェレス:ウィラード・ホワイト、ブランデル(酒場での登場人物):アンドレアス・マッコとなっている。
 音楽祭で収録されている関係で、観客の咳の音やら拍手やらも一緒に録音されている。
 DVD付属の小冊子には日本語訳がないが、本編には日本語字幕付き。ただし誤字が。


 この上演で目を引くのは、何と言っても舞台中央の円柱型の舞台装置。DVDのパッケージ表にもその姿が見える。
 幕が開いていきなりこの物体を見たときは、ファウストが牛乳瓶のようなものを背負っているのも合わさって「サイロかよ」と思ったりしたが、これがなかなかに大活躍。
 このサイロは、黒い骨組みに半透明の膜だか何だかが張られている。中は三階に分かれており、舞台裏と繋がっているようだ。このために、演者の登場方法に選択肢を増やす貢献をもしている。

 しかもこのサイロはなかなかに機能性に優れており、黒いフレームに覆われた一単位だけが窓のように開けたかと思えば、一番下の階の正面が二つに割れてドアのようになったり、はたまたサイロ全体が真っ二つに割れて大きく開いたり云々と自由が利くように作られている。
 しかもサイロに張られている膜は半透明なので通常は中がうっすらと見え、内側の演者を透かし見せているだけなのだが、映像の投影幕にすることも出来る仕組みになっている。
 それも中の人間が全く見えないほどに映像を濃く映し出すことも、中の人間が見える程度に投影することも出来る。後者の場合は映像に加えて内側の人間の動きをも利用することを可能にし、演出の幅を広げている。
 この演目はサイロ様様。



 ゲーテ作の『ファウスト』に感動して作曲されたベルリオーズの『ファウストの劫罰』ではあるが、ゲーテの作品そのままという訳ではない。
 マルガレーテの兄は登場しないし、彼女とファウストの間に子供も生まれない。結末も大きく異なる。

 通常の『ファウストの劫罰』は四部構成だが、今回は三部と四部がまとめて三部扱いされている。
 一応記載しておくと以下、ネタバレ注意。








 舞台の幕開けは作曲者の都合により、ドイツではなくハンガリー。
 その地でファウストは、バイロンの『マンフレッド』のように素朴に生を謳歌する農民たちに羨望の眼差しを向ける。
 突如響く戦争の足音、だがその勇ましさともファウストは遠い。以上が第1部。



 第2部の冒頭では、絶望し切ったファウストは自死を決意し、毒杯を呷る勇気がないと謳いながら何故か手ぶらで中央のサイロに続く階段を登っていく。
 これは本来は書斎でのシーンのはずだが、どう見ても野外で進行している。この手の齟齬はこれ以降も度々起こるが、突っ込むのは野暮というものだろう、たぶん。
 自殺する踏ん切りがつかないファウストに囁くのは天使の如き歌声。死への執着から一瞬離れたその隙を狙うかのように、突如メフィストフェレスが登場。

 ……い、いかつい! 今回のメフィストフェレスは立派な体格だ!
 メフィストフェレスにはひょうきん者の三枚目なイメージがあったが、そんな私の期待が派手に打ち壊された一瞬に。でも深い良い声だ。ファウストよりもずっと重みがある。
 そんなメフィストフェレスは悪魔らしく黒尽くめ……なのは兎も角、光沢のあるロングジャケットが暑そうだ。
 ファウストが上下とも白のパジャマの如き服装なのと対比を成しているのは分かるが、周囲もパジャマっぽい人たちばかりなので若干の場違い感が。

 私が動揺している間にも、舞台では物語が進行中。
 良い声を響かせるメフィストフェレスに「生の楽しみを教えてやる」と唆され、ファウストは酒場へ。
 酔っ払いたちの群に合流し、ここでゲーテの原作にもあった「鼠の歌」と「蚤の歌」が歌われる。その合間には鼠の死を悼むという名目で挿入される『アーメンフーガ』はベルリオーズのオリジナルだろう。
 その後、酒場にうんざりしたファウストの意向を受けて、メフィストフェレスは彼を別の場所へ。そこで悪魔はファウストを眠らせて、彼にマルガレーテの姿を吹き込むのだった。
 そんなこととは露知らず、目覚めたファウストは夢の中で見た天使に遭わせろとメフィストフェレスに懇願するのであった。



 第3部。ファウストはメフィストフェレスの手引きで、マルガレーテの部屋へ。
 いつの間にか黒ズボンに着替えていたファウストに、メフィストフェレスは黒のシャツを手渡す。それを受け取り着替えるファウスト。こうして彼も黒尽くめに。
 一方のマルガレーテもまた夢の中でファウストと既に出会い、彼に恋焦がれていた。夢の中の男に恋する自分に動揺しつつも、一人「ツァーレの王」を歌うマルガレーテ。
 メフィストはそんな彼女の気を惹くべく、鬼火を呼び出し躍らせる。この演出の気持ち悪いこと気持ち悪いこと。実に面白い。

 が、これはDVDだから笑っていられるのであって、目の前で実物を見たら夢にまで登場しそう。
 しかしマルガレーテもまた黒い光沢のあるワンピース姿なのはどうしてだ。既にファウストのことを知っている=メフィストフェレスの息が掛かっている、ということか。

 それにしてもさぁ、もうちょっと衣装なんとかならなかったの。マルガレーテ役の彼女をもっと素敵に見せる衣装があったと思うのだけど。
 と首を傾げる私の前で、ようやっとファウストがマルガレーテの前に姿を表す。共にお互いのことを夢で見たことを知る二人。
 もはや二人の間には何の障害もない、と幸福そうに歌われる二重唱。相手をそれぞれ「美しい」だのなんだのと褒め称える二人に心底突っ込みたくなったが、恋は盲目って言いますし、ええ。

 幸福な二人の唱和が続くかと思われた矢先に、メフィストフェレスが彼らの間に割って入る。マルガリータの部屋の男がいることが近所の住人にバレたと言うのだ。
 三人が代わる代わる歌い、相手に重ねる三重唱。今までで唯一オペラっぽい。
 やんやとはやし立てる隣人たちの目から逃れて、ファウストはマルガレーテの元を慌しく立ち去る羽目に。



 続いてサイロの中段部分が一枠窓の如く開き、そこでマルガレーテが歌っている。
 ファウストが訪ねて来てくれない寂しさが切々と語られ、そんな彼女の上にはメフィストフェレスが撒く雨が降り注ぐのだった。
 一方のファウストは、マルガレーテの家での失態から目をそらすかのように、一人大自然の中、その壮大さを歌い上げていた。だがその平和は突然のメフィストフェレスの登場でかき乱される。

 管楽器が今までの穏やかさを突き崩すように鳴る不穏な雰囲気の中、メフィストフェレスはファウストに告げる。マルガレーテが母親殺しで処刑される、と。
 混乱するファウスト。ファウストは逢引に邪魔なマルガレーテの母親を眠らせるための薬を彼女に渡していた。
 それは無害なはずだったが、彼の逢瀬を待ちわびるマルガレーテは、毎晩毎晩薬を母親に盛り続け、ついには過剰摂取によって母親を殺してしまったのだ。
 ファウストはメフィストフェレスを責める。だが悪魔は涼しい顔。
 彼女を助けろと喚くファウストに、メフィストフェレスは問いかける。「私はお前に今まで散々尽くしてきたが、お前は何をしてくれた?」
 マルガレーテを助けてもらうためには一体何をすればいいんだ、と叫ぶファウストに、悪魔が差し出すのは黒革の手帳。契約書だ。
 明日から私の下僕になるとの契約書にサインを、とのメフィストフェレスの言葉に一も二もなく飛びつくファウスト。明日のことなど知ったことか!

 この場面でメフィストファレスに黒のロングジャケットを手渡され、二人はすっかりお揃いの衣装に。同じくお揃いでユダヤ教徒が被るような黒い小さな帽子も被っているが、これは一体いつからだったんだろう。
 メフィストフェレスの呼び出した黒馬に乗って、マルガレーテを救わんがため、黒尽くめの二人は駆ける。
 金管楽器たちが生み出す緊迫感。サイロには疾走するイメージが投影され、その上の二人が発する馬を駆り立てる掛け声が切迫感を高める。
 そこに重なるのは地上、サイロの前には白尽くめの農民たちの純白なる祈り。彼らは今夜行われる処刑に怯えているのだ。

 必死に馬を走らせるファウストに、背後から上空から怪物が襲いかかる。そんなものは無視しろと叫ぶメフィストフェレス。
 マルガレーテの囚われている監獄へとひた走るファウストの切迫感、処刑が実行されることへの農民たちの畏れ、襲い来る化け物たちの恐ろしさが重なり物語はクライマックスへと到達する。
 時間は尽きた。間に合わなかったのだ。

 ファウストの願いは達せられず、けれどもファウストが交わした契約は直ちに実行される。
 ファウストが立つ足元のサイロが突如縦に真っ二つに開く。その中にギッシリと立つのは、赤く燃え上がる地獄の住人たち。
 その中をファウストとメフィストフェレスは堕ちていく。これがまた本当にサイロの頂上から舞台の地下、見えないところまでまっさかさまに落下するから凄い。

 地獄に堕ちた両者ではあるが、元より悪魔のメフィストフェレスには痛くも痒くもない。彼は意味不明な歌詞を歌う地獄の住人たちに褒め称えながら迎えられる。
 住人達に問いかけられて、メフィストフェレスは高らかに答える。ファウストは確かに自分の意思で己の魂を悪魔に売り渡したのだ、と。
 自分で選んだ以上、もはや救いはどこにもありはしない。地獄へと堕ちたファウストには、劫罰、つまりは長い長い罰が与えられるのだろう。

 サイロはファウストを飲み込んだまま閉じられ、メフィストフェレスは勝利の中で舞台から姿を消す。
 その後、地獄の赤から一転して舞台は白に包まれる。
 サイロは一転して天使の集う場へと変貌し、彼らはマルガレーテを擁護する。彼女は確かに過ちを犯した、けれどもそれは愛に惑わされたのだ、と。
 一度は道を踏み外したマルガレーテだが、ファウストとは異なり彼女はその罪を許され、天上へと迎え上げられていく。



 マルガレーテの処刑即ファウストの地獄落ちには、「契約では明日だったんじゃないの?」との疑問が湧き上がって来たが、処刑は日付の変わる時刻に行われたのだということで一つ。

 途中まで「ピッコロうるせー。フルートともども黙れよ」くらいのテンションでDVDを見ていたのだが、ファウストとメフィストフェレスとの契約シーンから俄然面白くなり、黒馬を駆るシーンにはわくわくし、最後の地獄堕ちには喝采してしまった。
 丸っこいファウストは好みではないし、マルガレーテの声もあまり好きではなかったが、メフィストフェレスがカッコイイのなんの。
 それにこの舞台中央のサイロが凄い。これのおかげで様々な演出が可能になり、おかげで飽きずに最後まで楽しめた。

 でもゲーテの『ファウスト』を原作にしておいて、件のファウストを地獄に叩き落とすなんて、よくやったもんだ。
 ベルリオーズがこの作品を書いた頃には、ゲーテのファウストの第二部も出版されていたと思うのだが。


テーマ別:ファウスト|テーマ別:オペラ感想
より詳しくは右カラムのカテゴリから選択してください。


関連記事:
『巨匠とマルガリータ』感想:★★★★★
『マンフレッド』感想:★★★☆☆
『ファウスト 第一部・第二部(集英社文庫ヘリテージシリーズ)』感想:★★★★★
映画『ファウスト(ソクーロフ監督)』感想:★★★☆☆
『フォースタス博士』感想:★★★☆☆




 このDVDでベルリオーズの『ファウストの劫罰』が気に入ったので、CDも買った。

ベルリオーズ:劇的伝承「ファウストの劫罰」


 ……うん、違う。キャストが違うのだから当然だけれど、そもそもラストの数曲に至っては譜面自体が違うと分かる。
 DVDの方が迫力があって好きだな。メフィストフェレス役のウィラード・ホワイトがやっぱり上手いんだよ。



 『巨匠とマルガリータ』に登場するヴォランドのために、こうやってオペラを見てみた。が、彼の正体はやっぱり分からない。
 もうメフィストフェレスで良いかな。イエスの時代にメフィストは名前を知られていなかったけれど、悪魔なるものは存在していたわけだから云々で辻褄を合わせる方向性で……。

 ただ普通、ファウストのオペラと言えばベルリオーズではなくグノーだよなぁ。ってことでグノーも見てみようか。
 でも安くで手に入らないんだよ、グノー。レンタルもないし。
 ついでに言うと『メフィストーフェレ』も見たいが、以下同文。

Theme:オペラ | Genre:音楽 |
Category:映画その他感想 | Comment(0) | Trackback(0) | top↑ |
<<月が出ない:購入履歴・古本編90 | ホーム | この季節の風物詩:購入履歴・新本編58>>
name
title
mail
url

[ ]
Trackback URL
http://kkkate.blog.fc2.com/tb.php/297-c702d187