RSS|archives|admin


<<Amazon夏の三大キャンペーン 2012年ver:フェアメモ | ホーム | ややこしいのはお前だ:購入履歴・古本編87>>

スポンサーサイト

--.--.-- --
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


Category:スポンサー広告 | Comment(-) | Trackback(-) | top↑ |

『わが人生の記―十八世紀ガラス職人の自伝』感想:★★☆☆☆

2012.07.31 Tue


わが人生の記―十八世紀ガラス職人の自伝

ジャック=ルイ メネトラ,ダニエル ロシュ
白水社 2006-03
売り上げランキング : 723117
by ヨメレバ


 本書はジャック=ルイ・メネトラの遺した「わが人生の記」に、冒頭と末尾にダニエル・ロシュの解説が付属する構成になっている。
 そのおかげでメネトラの言い分だけでは分からないところにまで手が届く親切設計になっている。


 読み終わった自分を褒めてあげたい、なんて文章が出てくるほどに苦労した1冊。
 とは言えそのほぼ全ては私の趣味(つまりは『ヨーハン・ディーツ親方自伝―大選帝侯軍医にして王室理髪師』のディーツ親方の方が好きだ)と、単純に物理的な理由(つまりは本書が大きくて重たくて腕が疲れる)という2点に集約出来てしまう以上、この書物に価値がないという訳ではない。
 それどころか、十八世紀の後半という劇的な時代を生きたパリの職人が書き残した記録である『わが人生の記』は、一部の人間にはとてつもなく面白いものだろう。
 著者であるメネトラはアンシャン・レジーム時代を知る最後の世代であり、そしてフランス革命の目撃者であり、その後のナポレオンの登場をも体験している。激動の時代の証言者、それも珍しく庶民、である。








 そう分かってはいても、私はやはりディーツ親方とメネトラを比べてしまうし、どうしても後者に辛い点を付けてしまう。
 1738年に死んだディーツと、1738年に生まれたメネトラ。世代が違う。さらにはディーツがドイツ(当時はプロイセン王国)のハレに生まれ、理髪師(当時は外科医も兼ねる。この時代の学歴ある医者は外科手術は手がけない)として生きたのに対して、メネトラはフランスのパリ生まれのガラス職人だ。

 ただ単純に並べて論じるのには無理がある。彼らの置かれた環境の違いを配慮しなければならない。
 だがディーツもメネトラも共に、見習いからスタートし、徒弟として途中からは職人として数年にも及ぶ修行巡歴を行い、最終的には結婚して店を持ち、旅暮らしから脱して街に腰を落ち着け、店を切り盛りしながら結婚生活と言う名の修行に入り、最後には死ぬと言う職人として「普通」の人生を全うする一方で、己の人生を書き残すという奇特なことをしている点では同じだ。
 本書の40pでダニエル・ロシュが指摘しているが、当時に於いて書くという行為は、現在と比べものにならないほどに困難なことだ。まずもって金が要る。紙代、インク代、ペン代。次に時間が必要だ。そして、プライバシーなどない住環境にあっては、書く行為にそれほどの投資をしていること関して周囲の人間に何らかの説明をする必要も出てくるだろう。
 そんな困難を超えて二人は己の人生を書き残した。だがその理由は異なるようだ。

 ディーツ親方の残した自伝は実に素朴であり、勘違いや誤りを含むものの素直だ。彼は自分よりも未来を生きる近しい人間に、先輩として己の人生を開示することで教訓にして欲しいと願っていたのだろう。
 対して既成の概念が崩壊する時代を生きたメネトラはディーツとは違い、後輩のためにではなく、自分の自己表現として自伝を書き残した気配が濃い。
 時代の変わり目を知るメネトラは、ディーツとは異なり、己の選択を神に委ねはしない。その全ては彼の考えから行われている。
 己の能力で生きてきた自負のある彼は、自伝を書くに当たっても、己の筆力で自分自身を飾ることに迷いがない。彼が遺したかったのは未来を生きる者への教訓ではなく、己がどのように考えどのように生きたかなのだ。何よりもそれは、自伝を書く老いた現在の自身に対する過去の若かりし時代の証明でもあったのだろう。

 故にそこには嘘が混じる。強調が含まれる。不都合は切り捨てられる。
 パリ生まれのメネトラは都会風を吹かせては、巡歴で立ち寄った田舎を見下す。数多の女遍歴をひけらかす。いかに自分が上手に危機を脱したか、またどんな有名人と知り合いになり評価されたかにページが費やされる。
 それらのどこまでが事実なのかは判然としない。だがロシュが指摘しているように、事実だけが重要なのではない。メネトラが自慢していること、つまりはそれが自慢となり得たという内容こそに価値があるのだ。


 ……とは言え、やはりその自慢が鼻につくのも真実なのであり、故に私の中での評価は下がる。
 朴訥としたディーツ親方の人柄を愛する身としては、その手の人間を嘲るメネトラが好きになれない。
 だがメネトラは、安穏たる大選帝侯時代を生きたディーツとは違うのだ。ただ己の宗派を信じることの出来たディーツとは異なり、メネトラはカトリックが、そして新教もが、含む矛盾と非寛容から鈍感では居られなかった。だからこそ彼はその不正義を指摘し、宗教者の無能を扱き下ろすのだ。
 そう考えれば彼の強烈な自己糊塗も不安の裏返しと見ることも出来るだろう……が、やっぱり好きになれない。

 ちなみに十八世紀のガラス職人の実体を知ることが出来るのではないかと期待していたのだが、そんなことは全くなかった。
 一人前の職人になろうと思えば巡歴の旅に出なければならないこと、またその旅路の実体を知ることは出来るが、ガラス職人の技に関しては肩すかしである。
 メネトラはなかなかの腕前の職人であったようだが、ガラスそのものは作ってはおらず、加工専門である。
 また彼の基本的な仕事は、既製品のガラスの大板を適時切り分けては客の都合に合わせて窓なり何なりに嵌めることのようだ。
 メネトラはその他にも芸術性のある作品も作ってはいるのだが、その製作過程・方法に関しての記述はない。


ジャンル別:歴史|出版社別:白水社
より詳しくは右カラムのカテゴリから選択してください。


関連記事:
『ヴェルサイユ宮殿に暮らす—優雅で悲惨な宮廷生活』感想:★★★★☆
『女の皮膚の下―十八世紀のある医師とその患者たち』感想:★★★★★
bk1改めhontoからホント領収書が届いた:購入履歴・新本編45
『宮廷社会』感想:★★★★☆
『民衆本の世界―17・18世紀フランスの民衆文化』感想:★☆☆☆☆





 なんだか結局、ディーツ親方への愛を叫んでいるだけの感想文になったぞ。
 どちらも白水社なのに、『ヨーハン・ディーツ親方自伝―大選帝侯軍医にして王室理髪師』はもう新本で買えない。
 一方の『わが人生の記―十八世紀ガラス職人の自伝』はまだ買える、がそろそろ危ないか。

Theme:読んだ本の紹介 | Genre:本・雑誌 |
Category:星2つ:★★☆☆☆ | Comment(0) | Trackback(0) | top↑ |
<<Amazon夏の三大キャンペーン 2012年ver:フェアメモ | ホーム | ややこしいのはお前だ:購入履歴・古本編87>>
name
title
mail
url

[ ]
Trackback URL
http://kkkate.blog.fc2.com/tb.php/278-aefa8de4