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『ヴェルサイユ宮殿に暮らす—優雅で悲惨な宮廷生活』感想:★★★★☆

2011.06.26 Sun
ヴェルサイユ宮殿に暮らす—優雅で悲惨な宮廷生活
ヴェルサイユ宮殿に暮らす—優雅で悲惨な宮廷生活ウィリアム リッチー ニュートン 北浦 春香

白水社 2010-06-23
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 昨日ご紹介した『暖房の文化史―火を手なずける知恵と工夫』と同じく、細かいネタが満載な1冊。
 今回本書が焦点を当てているのは、タイトル通り「ヴェルサイユ宮殿」である。ルイ十四世の時代に頂点を極め、そして己の威厳を示すための仕組に逆に雁字搦めにされ時代から取り残され、最後には革命によってその命を絶ち切られたフランス絶対王政の象徴であるヴェルサイユである。このネタの本が面白くない訳がない。

 ……と思うのだが、この本、誤字脱字が酷い。読みやすいとはお世辞にも言えないにも関わらず、更に校正の甘さを露呈されると、読んでいるコチラの何かがゴリゴリ削られていく。
 新聞広告に載っているのも見た記憶があるし、白水社としても売る気があっただろうに、この惨状。妙に凹む。どうやら私は「白水社」という出版社が結構好きだったみたいですよ。


 まぁそんな愚痴は置いておくとして、本書はなかなかに興味深いことを教えてくれる。
 『ドイツ十八世紀の文化と社会』(現在絶賛ブン投げ中)や『女の皮膚の下―十八世紀のある医師とその患者たち』、『バロックの生活―1640年~1740年の証言と報告』などを既に読んでいるので、この時代の衛生観念のアレさ(と言うか、現在の方が異常なのかもしれない)は知っていたつもりだったが、それでも読んでいて「げー」と思うこと多々。
 一番印象的なのを挙げるならば、トイレの問題である。
トレイの数はそもそも、宮廷に出仕している者とその召使いたちを含め、城館の人数に見合ったものとはほど遠かったからだ。数がまったく足りないため、尿意をもよおした者は、廊下や階段や中庭で用を足した。(p.95)

 建物に与える影響も気になるところだが、一番堪らないのは、その場所に選ばれてしまう廊下や階段に面した部屋に暮らす人間であっただろう。
 さらに切ないのは、ヴェルサイユ宮殿そのものの老朽化である。ルイ十四世の頃にはあれほど輝いていた宮殿が、1770年代に入ると、その窓周りはもはや修理すら覚束ないほどの代物に落ちぶれ、ガラスの技術革新と嗜好の変化に対応出来なくなっているのである(p.159)。

 フランスのルイ王朝が倒れるのは、当然の成り行きだったのかもしれない。そこにあれほどの命の対価が必要だったかどうかは別として。


 ヴェルサイユに暮らしたルイ十四世から十六世までの生活の小ネタを満載した本書はなかなかの良書。これでもうちょっと校正がまともなら文句もなかったのに。
 住居、食事、水、火、照明、掃除、洗濯についてそれぞれ1章ずつを裂いて、実際の例を説明してくれており、「へー」や「げぇー」に溢れている。
 ただし、ヴェルサイユにロマンだけを感じている人が読むと、二度と立ち直れないかもしれないのでご注意ください。








 己の権力を絶対的にするために生み出した「仕組み」が逆に王自身を雁字搦めにし、王も仕える貴族ももはやその仕組み自体を滑稽だと感じているにも関わらず、代替となる新たな仕組みを発することも出来ずに求心力を失っていく過程はエリアスの『宮廷社会 (叢書・ウニベルシタス)』に詳しい。


どーでも良い追記:
 「代替」の漢字に自信が持てなくて検索していたら、「原発の代替案を云々言うヤツは馬鹿だ!」的な記事に複数ブチ当たってげんなり。
 前提となる周囲の環境が変われば、仕組みも変わって行かざるを得ないのは道理であり、そこで代替案を出すなり、代替と言えずともせめて改良案を出すなりしないと、ただ落ちぶれていくだけだと思うのだけれど。
 と、ルイ王朝の黄昏に切なさ感じてる場合じゃなかったわと思った次第なのでした。

Theme:読んだ本。 | Genre:本・雑誌 |
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