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雑誌「幻想と怪奇」VOL.1 NO.3感想:★★★★★

2012.02.17 Fri


 1973年の9月号は黒魔術特集。巻末の編集後記(表記はnot exactly editorだが)を読む限り、かなり気合の入った号だった模様。
 後でまた触れるが、マイリンクの「レオンハルト師」やマクドナルドの「黄金の鍵」など、その力みっぷりに見合う作品が収録されている。
 次のNO.3(11月号)もやる気十分のようだが、出来栄えや如何に?
 ちなみに次号の特集は「ラブクラフト→CTHULHU MYTHOS」とのこと。

 小さなことだが、編集後記には前の7月号に掲載されたFantastic Gallery「挿絵画家アーサー=ラッカム」のページが手違いで一部76~77頁と80~81頁が入れ替わってしまったことに対する編集部からのお詫びも載っていた。
 持っている2冊が2冊とも同じように頁が狂っていたのはそういうことだったのね。たまたま運悪く乱丁に当たったのではなく、どれも乱丁だったと。
 ちょっと期待して2冊目買ったのにー。


 なんてことは置いておいて以下、掲載作品一覧。

黒魔術特集
・「霊魂の物語」 マダム・ブラヴァツキー、小田佐基・訳
・「魔術師」 エリファス・レヴィ、饗庭善積・訳
・「降霊術の実験」 アレイスター・クロウリー、岡田三美雄・訳
・「現代魔術の思想と行動」 紀田順一郎
・「黒弥撤の丘」R・エリス・ロバーツ、桂千穂・訳
・「レオンハルト師」 グスタフ・マイリンク、種村季弘・訳

連載
・Fantastic Gallery「回帰する闇の画家=ハリー・クラーク」 解説・麻原雄
・ホラー・スクリーン散歩3 「吸血鬼ドラキュラ」 石上三登志

・「ラントの妻」 H・ウォルポール、八十島薫・訳
・「黄金の鍵」 ジョージ・マクドナルド、鏡明・訳

・「異端的神秘主義序説」 山下武
・地下なる我々の神々3 秋山協介

エッセイ
・火星から来た少年 草森紳一
・恐怖小説の古さと新しさ 権田萬治

幻想文学レビュー
・吸血鬼ヴァーニ 石村一男
・エクソシスト 狩々博士

・「銀の鍵の門を超えて」 H・P・ラヴクラフト、団精二・訳
・「スマラ または夜の悪魔たち」 シャルル・ノディエ、秋山和夫・訳

メルヘンの世界
・「猫の足 ジンジムの噺」前篇 ジャーク・カゾット、荒井やよ・訳

連載
・「世界幻想文学作家名鑑」3 荒俣宏・編
・新刊資料室=大滝啓裕
・THE YELLOW MASK
・次号予告
・読者欄


 「新刊資料室=大滝啓裕」以下は記載する必要があるのかすら分からない小さなコーナーなのだが、目次にも載っているので一応。
 感想はいつものように折りたたみ。








 黒魔術特集の目玉は、マダム・ブラヴァツキーの「霊魂の物語」と、レヴィの「魔術師」、クロウリーの「降霊術の実験」の3作。
 どれも近代の「魔術師」たちの作品ながら、ちゃんと小説になっている。

 「霊魂の物語」はセルビア公の暗殺をめぐる復讐譚。とは言え、魔術師が記す物語だけにその手段は当然。
 バナト(ハンガリー、セルビア、ルーマニアに跨る地域らしい)で行われる降霊術、その依り代となるジプシーの少女、復讐者であるセルビアの老婆……と、(西欧から見た)東洋の要素が満載である。ただその降霊術師がフランス人であり、また物語の書き手に設定されているのもフランス語を解する西洋人である点に限界を感じるが。
 ところで、その名称だけが登場するヴァウダラクって何だ? 吸血鬼のこと?

 レヴィの「魔術師」の主人公はレヴィ自身であるそうな。
 魔術師のイメージとは異なり、ここでは誘惑され人生を踏み外し転落するのは彼ではない。
 おどろおどろしいばかりではなく、学術熱心な魔術師もいたんですよ、という例なのだろうか。

 クロウリーの「降霊術の実験」は、老魔術師ヴェスキートが挑んだ降霊術の顛末を描く1篇。
 何だかんだ言いつつも、お行儀の良いオチ。トルコ人アブダル・ベイに対する記述が酷いのは、まぁ時代的なものなんですかね。
 ただ気になるのは、この物語に登場する3人、魔術師ヴェスキート、その部下アースウェイト、前述のトルコ人アブダル・ベイに対して、クロウリーの長編小説『ムーンチャイルド』の登場人物項にはヴェスキット(死霊術士、検死官)、アースウェイト(馬鹿)、アブドゥル・ベイ(トルコ帝国高官アクバルの息子、秘密情報部主任)の名前が見えることだ(括弧の中の記述は、登場人物項の説明に準じる)。
 私は『ムーンチャイルド』を未だ読んでいないのだが、アブダル・ベイの扱いの違いからこの2つの小説が同一のものだとは思えない。つまり、クロウリーさん、登場人物の名前を使い回しましたね。
 と思いつつ、創元推理文庫『ムーンチャイルド』の訳者あとがきをパラパラ読んでみたところ、クロウリーは実存の人物をモデルに小説のキャラクターを組み立て、そして使い回す性癖の持ち主だったらしい。
 トルコ人アブダル・ベイのモデルは、当時の彼の恋人の新しい彼氏であるトルコの外交官ベリ・ベイであり、アースウェイトはアーサー・エドワード・ウェイトなのだそうな。特にウェイトへの罵倒っぷりはクロウリーが書く物の魅力の半分ほどをも占めていた……らしい。
 うっすらと聞いたことはあったけれど、想像以上に問題人物だなクロウリー。「降霊術の実験」のオチが平和だから勘違いするところだったよ。
 アブダル・ベイへの悪意は時代的なものでもなんでもなく、クロウリー個人の恨み辛みですやん。同時代の人々、勘違いして申し訳御座いませんでした。
 ただ、この「降霊術の実験」ではアースウェイトはそこまで酷い人物に描かれてはおりません。酷い目には遭っていますが。なのでそこを期待されるとガッカリすることでしょう。

 次の紀田順一郎「現代魔術の思想と行動」は前述のマダム・ブラヴァツキー、レヴィ、クロウリーらを含む魔術師たちの簡単な紹介であり、初心者な私に嬉しい作り。
 逆に言えば初心者ではない方にはただ退屈なだけなのかもしれない。

 「黒弥撤の丘」はタイトル通りの内容。犠牲の丘と名づけられた場所は普段から見慣れていた筈だった。けれどもその日、主人公は丘に違和感を抱く。その感情に引き摺られるように、丘を登り始めた主人公が見たものは。
 ラスト付近に登場するスパニエル犬が可愛い。

 黒魔術特集のラストはマイリンクの「レオンハルト師」。翻訳は種村季弘だなんて贅沢。
 この作品は、この特集で最も禍々しい物語。
 老いたレオンハルト師が思い出すのは、過ぎ去った彼の人生そのもの。せかせかと動き回っては指示ばかり押し付けてくる異様な母親に抱き続けた殺意。父親の死。母親の変化。そして犯した罪。父が遺した手紙が明かすのは、おぞましい彼の一族の姿と、レオンハルトの出生の秘密。だが彼もまたその一族の一人であり、知らぬうちに、しかし確実に彼の両親と同じ罪を重ねていたのだった。彼の前にその罪の証拠が突きつけられる。
 後半に至るにつれて「大風呂敷広げたな!」と思わなくもないのだが、ぐるりぐるりと回って始原に戻るこの物語の構成はとても好みだ。
 マイリンクは物語の雰囲気を作るのが上手だなぁ。久しぶりにゾクゾクしてしまった。是非とも他の作品も読んでみたい。


 連載のFantastic Galleryはライターが変わっていた。
 カラーページとは言え、今回のハリー・クラークの作品写真はボケ気味で残念だ。本書に収められている作品のほぼ全ては『ファウスト』に載っているので、気になった方はどうぞ。

 「ラントの妻」は、私が期待しすぎた部分も確かにあるが、それにしたってごく普通の怪奇小説の域を出ないような。

 マクドナルドの「黄金の鍵」は、ここまでの陰鬱な空気を有する作品たちと打って変わって爽やかな純ファンタジー。あまりに爽やかすぎてビックリするほど。
 物語の最後をやや投げ出すところがマクドナルドらしいなぁ、とほんわかしてしまった。読者にブン投げるその姿勢が実は好きだったりする。

 「異端的神秘主義序説」もお気に入り。
 マイリンクの「レオンハルト師」ほどではないが、本来混じり合うことのないはずの正と反が転倒の末に逆転し、終には見分けが付かなくなる様に惹かれる。
 それは確固たる「正解」の放棄であり、全てを曖昧に許すことであり、結果として明確な答えの存在しない混沌の中で生きる覚悟を必要とすることであるのだが。それでもその緩やかさと濁りに救いを見てしまう私は、きっと正義だけが闊歩する世の中では息が出来ない類の人間なのだろう。


 ラブクラフトの「銀の鍵の門を超えて」は、読みながら寝るという脅威の経験を私にもたらしてくれた1篇。
 クトゥルーの素養もないのに、ランドルフ・カーターを主人公とする連作の最後だけをポンっと提示されれば、そりゃ寝ても仕方が無いと思う、ん、だ。
 途中で中だるみの末に睡魔に誘われて落ちてしまったが、最後まで辿り着いた上で全体を俯瞰すればこの物語は実に面白い。
ある空間を占有する形態の場合、それはどんなものでも、もう一次元高い空間に住む存在が、低次元の一平面と交叉した結果として映しだされるものに過ぎないのだという。(p.178)

 ……なんて語りが最高に好きだ。あ、でも、何たら星人の形態とかはどうでも良いです、はい。
 物語のオチは途中で読めるのだが、それも含めて素晴らしい。

 ノディエの「スマラ または夜の悪魔たち」は最初から理解出来ると思ってはいなかったが、本当によく意味が分からない。
 要するに夢だったってことなのか?
 まぁ良いや。理解出来ないものは理解出来ないまま愛でても良いだろう。ぼんやりとしか掴めなかったが、それで不快にさせられるわけでもないのがノディエらしい。

 トリを飾るカゾットの「猫の足 ジンジムの噺」は、これまた美しいファンタジー。風刺も含まれているらしいが、全然分からん! けれど、そんなことがどうでも良いくらいに面白かったから、もう笑顔で言い切れちゃう。
 当初「前編」の部分を見落としていたせいで、「ここで終わるのかよ!」と絶叫する羽目になった。ちゃんと続きがあるようで何よりだ。
 だが、全2回で終わった「悪魔の恋」は連載扱いだったのに、同じく2回で終わるらしい「猫の足」が連載扱いではないのはどうしてなんだろう。いや別にどうでも良いのだが。



 そんな訳で、私のお気に入りはマイリンクの「レオンハルト師」とマクドナルドの「黄金の鍵」、カゾット「猫の足 ジンジムの噺」なのでした。
 「黒弥撤の丘」と「ラントの妻」がイマイチ気に入らなかったが、その他も面白かったので評価の星は5つに。
 毎号これくらいのヒットを打ってくれると嬉しいなぁ。


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シリーズ別:幻想と怪奇(雑誌)|ジャンル別:怪奇小説
より詳しくは右カラムのカテゴリから選択してください。





 「レオンハルト師」と言えば、もうすぐ『怪奇・幻想・綺想文学集:種村季弘翻訳集成』が出ますよ。出ますよ。
 国書刊行会のサイトにもちゃんとページが出来ました→怪奇・幻想・綺想文学集
 未だAmazonその他にはない書影もバッチリ! なんだけど、なんだけど、ええっと、ああ、ぁぁ、正直、違う。こんな装丁を私は望んでは……、望んではいなかったぞ…………。
 個人的には前川道介の『独逸怪奇小説集成』みたいな装丁の落ち着いた感じを望んでいたのですけど、黄色にはっちゃけちゃいましたか。はっちゃけちゃったんですね。


 ……いや、でもまぁ装丁に関しては、私の趣味の問題だし。きっと他の人には好評なんだろう、たぶん……。そうそう。私の趣味の問題なんだよ。恐らく。
 一瞬にして三点リーダーに埋まって死にそうなテンションになってしまったが、件の国書刊行会のページを見るに、収録作品は中々に面白そうですね。
 マイリンクが4本もあるなんて、渡りに船だなぁ。って、この諺の使い方これで合ってるのか?
 吸血鬼モノも複数見えるし、これは発売日に梅田なり難波なりまで走って行くの確定ですなぁ。
 ちなみに発売日は23日木曜日らしい。27日から前倒しになったのかな。

 ここまで発売日が楽しみなのは久々だなー。装丁は、うん、でも実物見たら心変わりするかもしれないしね。

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