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『水妖記―ウンディーネ』感想:★★★★☆

2011.06.24 Fri
水妖記―ウンディーネ (岩波文庫 赤 415-1)
水妖記―ウンディーネ (岩波文庫 赤 415-1)フーケー 柴田 治三郎

岩波書店 1978-05-16
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 ヨーロッパの民間伝承からフーケが生み出した、ドイツロマン派の幻想的な物語。


 恐ろしい森を抜けた先で騎士フルトブラントは、周囲から孤立して生活する老夫婦と、彼らに養育される美しい少女ウンディーネと出会うところから物語は動き始める。
 美しいが我が儘で自由気ままであり、どこか人間離れした雰囲気を纏うウンディーネにフルトブラントは恋に落ちる。森の奥の老夫婦の家で結婚式を挙げた二人は、フルトブラントが暮らしてきた町に居を定めるのだが……。


 と、こんな具合で進行する『人魚姫』(≠リトルマーメイド)を思わせる物語。
 以下ネタバレを含むので、折りたたみ。






 この物語はどうも「悲恋」と紹介されることが多いようだが、個人的にはうーん。
 悲恋と呼び得るのは、愛しあう二人の間が「どうにもならない障害」で引き裂かれてしまう場合か、恋した時には相手には既に運命の人が、な時だけだと思っているもので。
 本書で「悲恋」に見舞われているのはウンディーネだと思われるが、彼女は一度は恋を叶えているわけで、それが失われてしまった原因は、相手のフルブラントの心変わりなのだ。そんな男の身勝手な急変ぶりな原因なモノは、悲恋に分類されてはおりません、私の中では。

 一度は確かにウンディーネを愛し、彼女が「人間ではない」ことを知った上で結婚までしたフルトブラントは、結局は普通の人間であるベルタルダに惹かれ、その上にウンディーネの伯父であるキューレボルンの嫌がらせが重なったせいもあり、急速にウンディーネから心を離していく。
 恐らくはフルトブラントにも言い分があろう。気味の悪いキューレボルンの行動で嫌気が差すのはとても分かる。だがそれでも、ウンディーネへのフルトブラントの仕打ちはちょっと可哀想に過ぎると思うのだ。
 人魚姫にせよ鶴の恩返しにせよ、こういう異種族間の婚姻は上手くいかないのが決まりみたいなものではあるが、最後に「似た者同士で一緒にならず、人間が人魚なんかと奇妙の縁を結ぶからこんなことになる。」(p.125)だなんて言い出した時には、思わず「それ承知で結婚したんじゃないんかい」と突っ込んでしまいましたよ、フルトブラントさん。
 しかも、フルトブラントは登場時に勇敢な男だとされていたから、それもあって私、ちょっとは期待していたんですよ。聞いていますか、フルブラントさん。

  と、こんな具合に「フルトブラントかっこわるい、大嫌い!」と叫べればまだスッキリ出来たのだろうが、この作者はそれを許してはくれない。
 人間だれしも駄目な部分があるでしょう? と作者は読者に問いかけるのだ。罪のない者が石を投げよ。そんなこと言われたら、投げられない。私は決して罪のない者なんかじゃない。醜くて浅ましい、そのくせに極悪人でもない、取るに足らない人間なのである。

 そんな弱い人間を美しい瞳で見つめるのは、本書のヒロイン・ウンディーネである。
 人間ではない彼女は元来「魂」を持たず、フルトブラントと結婚することにより初めて「魂」を得ることが出来た。人形の魂入れならぬ、人魚の魂入れ……なんて連想をしたのは私だけで充分かと思われます。
 輝くブロンドに澄んだ青い眼、典型的な美少女でありながら自由奔放な我が儘娘だった彼女は、結婚し「魂」を得たことで一転して淑女になってしまう。
 結婚前の彼女なら、フルトブラントの心変わりをなじり、また彼を自由に振り回しただろうに、結婚後の彼女は粛々と夫に従い、彼の心変わりすらも悲しげな笑顔で見つめるだけ。
 何というじれったさ。結婚前の魂を持たなかった彼女の自由すぎる振る舞いを知っているだけに、ジリジリ歯がゆくて堪らない。彼女は自分に愛を、そして魂を与えてくれたフルトブラントを心から愛しているのだ。彼の心変わりを知っても、彼女の愛は不変である。
 「魂は、果たしてそこまで素敵なものなのか?」と問う私に、ウンディーネは「誠のある魂が胸の中に生きている者にとっては、どんなことも幸福になりますもの。」(p.139)と気高く言ってくれちゃうのである。
 裏切られてもなお、フルトブラントを守ろうと頑張るウンディーネ。まぶしすぎて直視できない。


 そんな綺麗なウンディーネと対をなすのは、彼女の恋敵になるベルタルダ。主要人物三人の中で最も性格の設定が揺らいでおり、読んでいて「設定もっと練って、作者!」なんて言いたくなってしまう存在なのだが、きっと作者は彼女を徹底的な悪女にも、完全なる受け身の女性にも書きたくなかったが故に、これだけ揺らいじゃったんだろうなぁ、と勝手にフォロー。
 彼女は我が儘ではあるけれども、 男を寝取るのが生き甲斐と豪語してしまうタイプの酷い女ではない。そこがこの物語に現実味を与えている。
 ウンディーネに感情移入して読んでいると、フルトブラントの心変わりっぷりやベルタルダの我が儘にイライラするのは確かなのに、既に上で書いたように「罪のない者が石を投げよ」と柔らかく語りかける作者が彼ら二人を優しく包み、私が彼らを嫌い抜くことを許さない。
 ウンディーネをここまで誇り高く書けたのだから、彼らをもっと悪人にして「とってもとっても可哀想なウンディーネ!」と読者に思わせることもできたのだろうに、作者はフルトブラントやベルタルダの二人を悪人ではなく俗物止まりにし、それ故にこの物語はおとぎ話の領域に留まることなく、現実へと確かに繋がっている。


 読み終わって思ったのは、こうやってウンディーネに同情している私とて、結局はフルブラントやベルタルダと同じ程度の、所詮は「人間」でしかないのだろうな、と言うこと。
 ウンディーネはどこまでも美しいが、その直視すら出来ない程の輝きは、最初から魂と共に生まれる人間には到達し得ない物なのではないだろうか。
 恵まれて育った人間は、恵まれなかった人間の気持ちなど分からない。最初から持っていたものの価値など、どう足掻いても正確に認識出来ないものであるのかもしれない。

 魂とは一体、何なのだろうか。フーケーが言いたかったことの真意はどこにあるのか。
 気持ちよくロマンの雰囲気に流されるつもりだったのに、読後にぐるぐる考えさせられてしまった1冊なのでした。




 どうでも良いが、いや良くないが、タイトル酷いと思う。
 初めてタイトル見た時、カッパみたいな妖怪が大活躍する話かと思った。


Theme:読書感想 | Genre:本・雑誌 |
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