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『ロシアのクリスマス物語』感想:★★☆☆☆

2011.12.23 Fri

ロシアのクリスマス物語

イワン・セルゲーエヴィチ シメリョフ 群像社 1997-12
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by ヨメレバ


 大阪生まれ大阪育ちの私にとって、冬とはただひたすらに青空と、ひりつくような乾燥の季節である。
 吐く息は白く濁り、寒さに空は澄み渡る。雪は時折ちらつく程度であり、僅かに積もっても昼には泥水と化す。冬の冷たさも命を奪うほどの残酷さを見せはしない。
 対して本書で何人もの作者が描き出すロシアの冬は息も命も凍り付かせるほどに冷たく、積もる雪は深く白い。またそれ故に、クリスマスの煌びやかさが空気中に漂う微少な氷や屋根から伸びる氷柱に眩く反射する。

 本書に収録されているのは全部で13作品。
・「クリスマス」 シメリョフ
・「ザリガニの鳴いたときに ―クリスマスの怪談―」 テフィ
・「イーダ」 ブーニン
・「クリスマス物語」 ゾシチェンコ
・「クリスマス」 ナボコフ
・「ヨールカ祭の森の精」 チョールヌイ
・「キリストのヨールカ祭に招かれた少年」 ドストエフスキイ
・「雪娘」 ソログープ
・「父と娘の新年の祝日」 グリーン
・「車両長 ―これぞまことのクリスマス物語―」 クプリーン
・「クリスマス・シーズンに」 チェーホフ
・「うすのろ ―過ぎし昔のクリスマス物語―」 ワグネル
・「真珠のネックレス」 レスコフ
 








 クリスマスはキリストの生誕を祝う日だと認識されてはいるが、キリストが生まれたのが12月25日であるとの記述はない。
 ならば「クリスマス」とは何かと言えば、元々はキリスト教以前の宗教が祝っていた冬至の日であり、キリスト教が「クリスマス」として祝日をキリスト教的に上書きしたとの解釈が一般敵だ。
 だが上書きされたと言っても、以前の面影が完全に死滅したわけではなく、現在でも根強くその面影を残している。故に、クリスマスには異教的な雰囲気が漂う。
 ロシアでもその背景は同じでだ。更にギリシア正教を奉じる国であるがために、クリスマスの雰囲気はカトリックやプロテスタントが主である西欧とは色が異なる。
 しかも「あとがき」によると、ソ連時代は宗教行事としてのクリスマスは追い払われていたようで、ソ連が崩壊した後にようやくキリスト教的な色合いのあるクリスマスが帰って来たのである。
 ロシアのクリスマスは色々と複雑だ。25日には早々にクリスマスを投げ捨ててお正月モードになる日本もなかなかに理解しがたい国だと思われていそうだが。


 収録作品に話を戻す。
 トップバッターを務めるシメチョフの「クリスマス」は、異郷で語るロシアの懐かしいクリスマス風景。「クリスマス=プレゼント貰える日」程度の認識しか持たない私でもしみじみと悲しくなってしまうほどに、どこか切ない。
 「ふるさとは遠きにありて思ふもの」とは室生犀星の詩だが、ふるさとに帰ることが出来ると言うのはとても幸福なことなのだろう。

 続いての「ザリガニの鳴いたときに」はブラックユーモアの冴える1作品。世にも奇妙な物語とかで映像化されそうな話。
 ジャボトゥイキン家の念願が叶うのがロシアではなくアメリカだとの設定に笑ってしまった。

 ブーニンの「イーダ」もまた良い。
 いつの間にか芽生えた感情は、その持ち主にも気付かれないまま根を下ろし、そして主はある日突然にその感情の存在に気が付くのだ。その時にはもはや件の感情はすっかり心に墨付き、しかもその存在に気が付かなかったが故に現状は身動きできなくなっているという喜劇。
飲もうではありませんか! ただし、こういう条件付きだ。いました話にたとえ一言でも口出しする輩がいるなら、わたしがそいつの頭蓋を、ほら、このシャンペンの瓶でぶったたくという条件で。(p.56)


 ゾシチェンコの「クリスマス物語」は特に感想が浮かばないので省略。
 続いてのナボコフ「クリスマス」も特に新規性を感じさせる物語ではない。似たような話をどこかの国語の模試か問題集で読んだような気がする。
 が、それでも描写の美しさと、最後に輝く小さな生が優しく心に触れる。

 チョールヌイ「ヨールカ祭の森の精」は、読みにくいの一言に尽きる。この物語の語り手は誰だ。
 物語の内容としては、忘れられつつある森の精(妖精と言うよりも妖怪に近い)が、初めてヨールカ(モミの木のツリー)を見て抱く感想が何とも子供のようで可愛らしい。見た目は可愛さのカケラもないようだけれど。

 ドフトエフスキーの「キリストのヨールカ祭に招かれた少年」は、「マッチ売りの少女」と「フランダースの犬」を連想させる。
 ソログープの「雪娘」はソログープらしい子供と大人の対比が鮮やかで、豊かな色彩を有する物語ではあるが、翻訳の問題なのか元からなのか、文章がぶち切れ気味で魅力が半減。
 「雪娘」が読みたくて本書を買っただけに残念だ。

 「父と娘の新年の祝日」は「賢者の贈り物」を彷彿とさせる。
 O・ヘンリの「賢者の贈り物」が己の大切な者を愛する人のために売り飛ばす話であるのに対して、本作品は……であるが。
 最後、父親がどんな反応を見せるのかドキドキしてしまった。

 「車両長」は「ザリガニの鳴いたときに」と同様にウィットに富んだ作品。
 チェーホフ「クリスマス・シーズンに」もやや皮肉気味だが、物語の底には悲しみが流れる。
 「うすのろ」は一応ハッピーエンド、ということで良いのだろうか。

 トリを飾るレスコフの「真珠のネックレス」は、最後に相応しい1作。
 数多の作家が挑戦した「クリスマス物語」の現在相応しい姿とは何ぞやとの問いが作中でなされたりと、ややメタフィクションの性格も持つ。
 タイトルにもなっている真珠のネックレスを巡る、語り手の弟の義父の言動が何とも良い。



 と、なかなかに魅力的なアンソロジーではあるが、翻訳が正直イマイチ……。
 ただこの違和感は他のロシア語からの翻訳でも感じる類のものなので、翻訳者の問題と言うよりも、単純に私がロシア語からの翻訳日本語が気に入らないだけなのかもしれない。
 長年全ての翻訳物を嫌い続けてきた後遺症がまだ残っているのだろう、たぶん。
 が、私の嗜好の問題を置いておいても、カッコの使い分け(「」と『』)が良く分からないことや、ダッシュで終わる文章に句点がないのは気になる。
 その手の瑕疵がなければ、もうちょっと楽しめたのに。


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ジャンル別:ファンタジー|作者別:アンソロジー
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 良かった、クリスマスまでに読み終われたよ!
 世界的にはクリスマスシーズンは新年のお祝いも兼ねているからそれなりの期間があるってのに、日本では25日になったら即お正月モードになるんだもの……。

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