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『マインド・イーター[完全版]』感想:★★★★★

2011.11.27 Sun

マインド・イーター[完全版] (創元SF文庫)

水見 稜 東京創元社 2011-11-19
売り上げランキング : 4262
by ヨメレバ


 「日本SFが成し遂げた最高の達成」との帯に踊っていた煽り文句は伊達でも酔狂でもなかった。
 本書は1982年から84年にかけて発表された水見稜の、「マインド・イーター(以下M・E)」に纏わる連作を全て収めた1冊。

 収録作は以下8作品。
・「野生の夢」
・「サック・フル・オブ・ドリームス」
・「夢の浅瀬」
・「おまえのしるし」
・「緑の記録」
・「憎悪の谷」(初出時のタイトルは「スクリーム」)
・「リトル・ジェニー」
・「迷宮」

 「サック・フル・オブ・ドリームス」と「夢の浅瀬」は、過去1984年に発行されたハヤカワ文庫の『マインド・イーター』には収録されなかった。
 今回この2作品を収録し、これをもって「完全版」とのこと。ちなみにハヤカワ文庫でこれらの作品が排除されたのは、単にページ数の問題だったようだ。
 しかし個人的には「野生の夢」の直ぐ後が「おまえのしるし」だなんて、情報過多で破裂してしまいそうな並びに思えてならない。









 小学生の頃、三年生か四年生だったと思うが、私は入っていたガールスカウトで食物連鎖なるものを習った。
 底辺を支える微生物から、頂点に位置する大型肉食動物まで続き、そして底辺へと戻る、喰って喰われて喰って喰われる環。
 私はその時、確かに何らかの強い感慨を抱いたのだが、それは明確な形を取らずに記憶の奥底に沈んだ。

 次は高校生の頃。二年の冬だっただろうか。寒々とした教室で、私は化学Ⅱで平衡の概念を学んだ。
 湿度100%の空気中に置かれた水は、減ることも増えることもなく静止しているように見える。だがそれは外見上だけであり、実際には水面から一部は空気中に気化し、そして空気中に含まれる水蒸気の一部は凝縮して水となっているのだ。静かな水面は決して静止してはおらず、そこには確かに動きが存在している。
 先生が訥々と説明する平衡の概念を聞きながらも、私は酷く納得出来ないものを感じていた。概念自体が理解出来なかった訳では無く、その概念自体を否定したい衝動に駆られたのだ。

 その時思い出したのは、小学生の頃に食物連鎖を習った時に抱いた強い感慨であった。
 喰って喰われて喰って喰われて喰って喰われる、完璧な環。外側からは静的に見えても内側から見れば動的な平衡。どちらもプラスマイナス・ゼロである。
 だが、足して引いた結果ゼロになるのならば、どうして最初からゼロではいけないのだろうか? 喰って喰われて無生物に帰るのならば、最初から無生物ではいけないのだろうか。外側から見て静止しているのならば、その中身も静止していても良いのではないか。
 ……いつか死ぬのならば、最初から死んでいれば良いのではないか。

 私は確かに、同じ事を小学生の頃にも考えたのだ。けれども自分の生を、いや違う、正しいはずの世間の定義を否定する勇気が持てず、必死に記憶の奥底に埋めたのだ。自分の手で。
 それから何年も経って、私は自分が葬り去ったはずの感慨を掘り起こした。あの冬からもう何年もの年月が経った。けれども、私はまだその問いに対する答えを見つけられないでいる。


 生とは何か。生きるとは何なのか。私とは、人間とは、動物とは何なのだろう。
 動物とは字面の通り「動く」ものである。生きるとは「変わる」ことである。けれどそんなのはただの言葉遊びでしかない。何故動き、変わらねばならないのだろう。そこにどんな意味があるのだろう。
 本書『マインド・イーター[完全版]』は、SF的な装置を用いてその問いに対峙した作品である。
 作者は人間を、対称の軛から脱し非対称の状態を維持する存在として、またいつか終わる存在として、理論以上に感動に震えるものとして、滅んだ過去の可能性の反映として、憎悪するものとして、コミュニケートする存在として、「見たい」と欲する存在として描く。
 その姿は、作者によって設定されたM・Eという人間と対照を成すものを光源として、影絵のように立ち現れるのだ。
 1作1作ごとに作者が提示する人間の側面は違う。故に、M・Eもまたそれぞれの作品で表情を変える。
 当初抱いた、連作を読み進めるうちにM・Eの大きな謎が明かされるのだろうとの楽観的な見通しはアッサリと崩壊し、徐々に複雑さを増すM・Eに当惑することとなる。
 明確な答えを求めるタイプの人には向かない作品である。書かれたのが80年代なだけに、今読めば古風な箇所もある。
 けれども文章は未だ瑞々しく、その中に閉じ込められた真摯で切実な作者の情熱が、酷く心に届く1冊であった。


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ジャンル別:SF小説|出版社別:東京創元社
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 本書がとても気に入ったので、他の作品も読みたいとAmazonで作者名「水見稜」で検索し、その結果に笑った。いっそ清々しいほどに、全て絶版ないしは重版未定。
 SF読みは絶版に泣いてはならない、と私に語ったのが誰だったかもはや思い出せないのだけれど、つまりこの作者に限らずよくあることって意味だろうね、コレ。
 面白い本でも重版未定状態のはたくさんあるんだろうなぁ。本書や山野浩一傑作選が新たに発売されたように、時間に埋もれてしまった名作をまた出してくれないだろうか。

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