『阿呆物語』感想:★★★★★
2011.07.18 Mon
阿呆物語 上 (岩波文庫 赤 403-1) | |
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腹を抱えて大爆笑して、そして後に笑った分だけ呻吟する羽目になる面白くて恐ろしい本。
三十年戦争はドイツに多大な被害を与えた。
ドイツ国民の1/3が死んだとも言われ、生き残った人々とて心は荒涼し、大地も荒れ果てた。そしてドイツは紛れもない二流国に落ちぶれ、それ以後フランスの不格好なフォロワーとして機能しない体を引き摺りながら生き続けることとなる。
フランスの偽物・亜流が跋扈する惨状のドイツにあって、唯一そのオリジナル性が評価されていたのがこの『阿呆物語』なのである。
主人公はジムプリチウス。ラテン語で「阿呆」との意味である。
ジムプリチウスは純真で何も知らない阿呆者。そんな彼が三十年戦争に巻き込まれ、兵士として成り上がり、人間として落ちぶれ、そして立ち直り、己の生まれを知り、結婚し浮気し、また軍隊に雇われてロシアに行き、その後日本を含む世界一周の大旅行の末にドイツに戻り、隠者になり、巡礼としてイギリスを旅したと思ったら無人島に流れ着き、そしてそこで一人ぼっちで敬虔に暮らし続けることを決める。
……と言うのがストーリーだが、無垢な少年が成長の過程で悪に染まりつつも、最終的には敬虔な大人になるなんて在り来たりな成長物語ではない。
一応はその形式を取ってはいるのだが、ジムプリチウスが最後に敬虔に暮らせていたのは彼が一人だったからであり、最後の最後に彼の住まう孤島に流れ着いたオランダ人たちから別れの土産に色々と物を貰ったからには、またぞろ堕落しかねないと私は思う。
作者であるグリンメルスハウゼン(名前長いよ!)はそんな素直な性格をしていないだろうし、一度悟りを開けたらそれが一生持続するほど人間は善に満ちた生き物ではないだろう。現にジムプリチウスは作中で何度も失敗しているのだから。
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