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『パラケルススの世界』感想:★★★☆☆

2013.01.16 Wed


パラケルススの世界

種村 季弘 青土社 1996-05
売り上げランキング : 163270
by ヨメレバ


 既に栄光は過去に過ぎ去り、暮れゆく中世に生を受けたパラケルススの人生を追いながら、同時に彼と同じ時代を生きた人間たちがパラケルススをどう見ていたかにも踏み込んで描いた一冊。
 そのために公的書類のみに依存する伝記とは一風変わった読み物となっている。ただしその分、事実とのズレも生まれているのだろうが。


バルトロ 無知蒙昧な職人めが、あらゆる技術の中でも最高にして、最大、最も有益な医術を貶めるのはお前に似合ったやり口だわい!
伯爵 有益そのもの、医を商売とするやからにはな。
バルトロ 太陽といえども、その成果を照らすのを光栄と思う医術だぞ!
伯爵 そして大地は急いでそのへまを隠してくれるのさ。
(p.65-66 『セビーリャの理髪師』岩波文庫)




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Theme:本の紹介 | Genre:本・雑誌 |
Category:星3つ:★★★☆☆ | Comment(0) | Trackback(0) | top↑ |

『解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯』感想:★★★★★

2011.07.27 Wed
解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯
解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯ウェンディ ムーア Wendy Moore

河出書房新社 2007-04
売り上げランキング : 93926


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 絶版もしくは重版未定の1冊。そんなわけで古書で買ったのでした。こんなに良い本なのに、新本で買えないなんて、とても悲しいことだ。
 ……と書いてから調べたら普通に新本が流通していた。
 今年の1月に探し回った時はどこも中古しかなかったように記憶しているのだが、まぁ良いか。折角の良書ならば、やっぱり新本で流通している方が嬉しい。
 私も新本で買いたかったなぁ。タイミングが悪すぎたのか。


 貴方は神を信じますか? この問いに対しては日本人ならば多くが「いいえ」と答えるだろう。
 貴方は全ての生物が神によってエデンの園で作られたと信じますか? との問いになれば、更に「いいえ」の比率は上がる。
 私たちは進化論を信じている。生物は神が創りたもうたものなどではなく、環境と運によって淘汰され進化してきたのだと思っている。それは最近の新型インフルエンザの発生などで理解出来るところだろう。

 だが進化論が異端とされていた時代があったのだ。本書の主人公であるジョン・ハンターは進化論で名高いチャールズ・ダーウィンの祖父と同世代であり、ハンターが生きた18世紀後半のイギリスは丁度そんな時代の真っ只中にあった。
 ほぼ全ての人間がキリスト教を信じ、全ての生物は神が創りたもうたのだ、そして永遠にその形態は変わらないのだと思い込んでいた時代にあって、ハンターはその「先入観」を退け、己の目と思考と心に忠実に理論と実践を繰り返し、失敗と成功から生命の真理を見いだそうと足掻き続けた人物である。己の屍体すら解剖に回させ、己の死因であろう心臓と、過去に自然治癒したアキレス腱を標本にさせ後世の医者たちの学習資料にしようとしたのだから、その入れ込みようはいっそ天晴れの領域である。
 彼は己だけの力で生命の真理に辿り着けるとうぬぼれず、弟子を育てた。確立された教義にただ従うのが人間の正しい姿だとされていた18世紀にあって、彼は己の頭で考えることに拘泥し、その姿勢を弟子に叩き込んだのである。そんな彼は今、「実験医学の父」と呼ばれている。また彼のレスター・スクウェアの邸は『ジキル博士とハイド氏』のモデルとされている。
 そんなジョン・ハンターの強烈な人生を描いたのが本書なのだから、これが面白くないわけがない。しかもこのジョン・ハンター、野生児かつ問題人物である。
 彼は良くも悪くも己の知識欲にどこまでも忠実であり、そのためならば墓荒らしすら厭わない。自分が行った手術のその後を知るために、かつての患者の屍体を買い取っては解剖して標本を作る。ジョン・ハンターに自分の屍体が渡るのは嫌だと言い張った巨人症患者の屍体すら、彼の友人たちを騙してまで手に入れてしまう。
 だが先述のように己の屍体すら同じように解剖させたのだから、彼の主旨は一貫してはいるのだ。同時代の他の解剖医たちが自分の屍体だけは墓荒らしに遭わないように腐心したのとは大違いである。



Theme:読んだ本。 | Genre:本・雑誌 |
Category:星5つ:★★★★★ | Comment(2) | Trackback(0) | top↑ |